メイド兼守護者

 天蓋付きの大きなベッドで目が覚めた。上体を起こして周りを見ると、四人の美少女が同じベッドで横になっている。


 そうだ、昨日幽霊屋敷を浄化して、俺の家にしたんだった。


「おはようございます。カイト様、朝食の準備ができています」


 ビクッとして声の方を見ると、俺が気が付かないうちにメイド姿の銀髪赤眼の美少女がベッドの傍らに立っていた。


 屋敷を手に入れるのと同時に俺達の仲間になった、霊体メイドのレイナ。ノエルによると、彼女の存在は精霊に近い上位の霊体らしい。


 生前は貴族の妻だったので、メイドをやるのは嫌じゃないのかな、とも思うが本人はミニスカートでフリフリの可愛いメイド姿でやる気のようだ。


「レイナ、その服どうしたの?」


「ノエル様に指示されて、スキルを使用し作成しました」


 いつの間に……。だがグッジョブだ!


 俺がベッドから降りると、レイナは「ダイニングにてお待ちしております」と一礼して、すっと消えてしまった。瞬間移動って便利だなぁ。




 恋人たちを起こしてダイニングへ移動する。まだこの屋敷の構造が良く分かっていないので、ノエルにナビしてもらった。


 無事にダイニングに到着し、中に入るとテーブルの上には朝食が並べられていた。いい香りが部屋に満ちている。とても美味しそうだ。


 俺達がテーブルにつくと、レイナがティーカートを押しながら現れた。ティーポットを持って流麗な動きでカップに紅茶を注ぐとテーブルの上に置いて行く。


「レイナって、霊体なのに物に触れるの?」


「いいえ、触れることはできません。サイコキネシスを使って持っているかのように振舞っております」


「へー、器用だね。本当に持っているみたいだよ」


「ありがとうございます」


 レイナは洗練された動作で俺に一礼した。


「レイナはもう朝ごはん食べたの?」


「私に食事の必要はありません」


「そっか……」


 何も食べなくていいなら便利だけど、なんか寂しい気もするな。ノエルの声が聞こえる。


「レイナが力を行使するためにはモンスターのコアが必要だよ。魔力が枯渇すると力が衰えたり、行動できなくなるから、定期的にコアをあげないと」


 コアを食べないと死んじゃうの?


「大気中の魔力を集めて吸収しているから、大きな力を使わなければ、存在を維持するのには問題ないけど、しっかり働いてもらう為にもコアをあげないとね」


 ノエルはレイナをこき使うつもりなのかなぁ。ご飯作ってくれたり、このやたらと広い屋敷を掃除してくれたら助かるな、とは俺も思ったけど。


 ただ働きでこき使うのは気が引けるし、モンスターのコアくらいいくらでも持ってくるよ。


「レイナ、ダンジョンで美味しいモンスターコアを沢山取ってくるから待っててね!」


「お心遣いありがとうございます」




 * * *




 レイナは掃除、洗濯、食事の用意となんでも完璧にこなしてくれた。そのため、俺達はダンジョンへ行ったり、街で遊んだりと好きなことができる。


 魔法も得意なようで、この常時屋敷全体を結界で包んでくれている。マユの結界ほどでは無いがかなり強力で、野生の獣程度では侵入できないだろう。


 仮に空き巣が侵入しても、彼女のレベルは126だから、並みの野盗ごときでは戦っても秒殺されるだろう。留守番を任せても安心だ。


 戦闘技能もかなり高く、クレア、フィリス、アイリの稽古の相手もしている。瞬間移動を絡めての大鎌を使った戦闘スタイルはド派手でかっこいい。神器を使わなければ、クレアたちでは歯が立たないほどの強さだ。


 そういえば、今はレイナも神聖魔法の魔装術を使ってるよな? レイス・モルテの時は禍々しい黒いオーラを纏っていたけど、あれって暗黒魔法とか?


「あの黒い魔装術も神聖魔法だよ。前にも言ったけど、神聖魔法は神の行使する力そのもの。使用者の意識によって見た目や雰囲気はどうとでも変わるよ」


 そうか。たしかに俺達も魔装術を使っているときのオーラの色はみんな違うもんな。




 それにしてもレイナは綺麗だなぁ……。実体がないのが悔やまれる。


 俺が銀髪赤眼の美少女メイドに見惚れていると、マユが湿った視線を俺に向ける。


「カイトがレイナのことをいやらしい目で見てる」


「誤解だって!」


 マユに言われ、俺が慌てていると、レイナが落ち着いた口調で言う。


「カイト様、申し訳ありませんが、私は実体が無いため身体を使ったご奉仕ができません」


「いえいえ、気にしないでください」


 彼女は俺に対してものすごく丁寧な態度で接するので、つられて俺も頭を下げる。


 うーむ、レイナってマユ達と違って俺にベタ惚れしている感が無いよなぁ……。


「レイナはカイトに感謝しているし、好感も持っている。恋愛感情は全くないけどね」


 ノエル……。全くないってことは無いでしょ?


「がっかりしてるね。レイナはレベルも高いし、精霊みたいなもんだから、カイトのモテモテスキルをレジストしているんじゃない?」


 モテモテスキルってレジスト出来るの? そもそもモテモテスキルって何? 俺の今持っているスキルを見せて。


 俺の目の前にウインドウが開いて、所持スキル一覧が表示された。




 チートスキル『アイギスの盾』『天才』『物知りさん』


 レアスキル『アイテムボックス(機能制限中)』


 コモンスキル『洗濯LV6』『掃除LV8』『料理LV8』『皿洗いLV7』『薪割りLV6』『農夫LV7』『剣術LV10』『不屈LV6』『勇気LV6』『神聖魔法LV10』『魔装術LV10』『先生LV10』『波動感知LV10』『精力LV10』『性技LV10』




 おおっ、スキル増えてるな。でもモテモテスキルとか無いよ……?


「そうなんだよねー。不思議なことにカイトって魅了系のスキルも魔法も持っていないんだよね。もしかしたら私の権能でも知りえないスキルなのかも。あの子たちが惚れたのは、本当にカイトの魅力のせいって可能性もゼロではないけど……。いや、それは無いか」


 俺の魅力のおかげでモテている可能性は否定されてしまった。


 レイナが俺に惚れてくれないのは少々残念だが、彼女にはメイド兼この屋敷の守護者として、頑張ってもらいたいところだ。

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