故郷2

 翌朝、礼拝堂に行くと神父様とシスターが祈りを捧げていた。


 二人と挨拶を交わしていると、クレアは教会を包囲している気配に気が付いたのか、私に視線を向ける。


「マユ様……」


「分かってる。C~Bランク程度が20人。一人Aランク級がいるわね」


「Aランクって、あのスタークと同じ……?」


 クレアは不安が顔に出ていて、表情が強張っている。


「心配しないで。今の私たちなら、スタークにだって勝てるわ」


 教会の外に出ると、野盗と変わらない風貌の男たちに囲まれていた。


 一人だけ騎乗し、服装が他とは違っていいものを着ている男がいる。きっとあれが領主のダナウェル伯爵ね。


 そいつはいやらしい視線で私とクレアを見て舌なめずりをすると、気持ち悪い笑みを浮かべる。


「へへへ、お前たちが昨日俺の兵たちを可愛がってくれた女冒険者か? 俺はヨックバル。ダナウェル伯爵家の当主だ」


 生理的に無理なので、神聖魔法で焼き払ってしまいたい衝動にかられるものの、抑えてひとまず下手に出てみる。


「領主様がこんなところに何用ですか?」


 領主は私の問いに答えもせずに、不快な笑い声をあげる。


「報告通りの美人だな。よし、二人とも私の妾にしてやるぞ!」


「ふざけないで!」「お断りです!」


 そんなの絶対無理! クレアも視線だけで人を殺せそうな目つきになってる。拒否された領主は顔を真っ赤にして怒号を飛ばす。


「ぐぬぬぬ、生意気な! 野郎ども! 軽く痛めつけてられ!」


 取り囲む男たちが一斉に襲い掛かってきた。


 これなら少しくらいやりすぎても正当防衛になるかな? カイトだったら「やっぱりこうなったか」って嬉しそうに暴れるでしょうね。


「シャイニングレイン」


 天から降り注ぐ無数の光弾が、襲い掛かる男たちの波動を正確に感知して次々と着弾する。


 大勢いた兵たちも、みんな地に伏して行動不能になった。でも領主とその傍らに立っている男は倒れていない。


 無精ひげの双剣の男は余裕の笑みを見せている。


「嬢ちゃん、なかなかやるねぇ」


「あの光弾すべてを払い落とすなんて、あなたこそなかなかやるわね」


「くく、褒めてくれてありがとよ」


 そいつは私を馬鹿にするかのように笑う。領主は恐怖で震えながらも、頑張って声を張った。


「このアティヌはAランク冒険者だ! ものすごーく強いんだぞ! 降参するなら今のうちだ!」


 領主がわめいている間にアティヌの強さを探る。Aランク冒険者といっても感じる波動からはスタークにはやや劣るようね。


「マユ様、ここは私に任せてください!」


 クレアはエクスカリバーを取り出して、魔装術を発動する。


「嬢ちゃんは一丁前に魔装術が使えるのかい? でもおじさんの魔装術には敵いそうにないけど、いいのかなぁ?」


 あのアティヌの魔力はクレアと同等だけど魔装術は火属性か。ならば、クレアの神聖魔法の魔装術に優位性がある。でもアティヌはクレアの神聖魔法の波動を正確に把握できていないのか余裕の表情だ。


 武器もあの双剣は神器ではなさそうだから、エクスカリバーの方が上でしょうね。


 クレアが負ける要素はないけど、万一怪我でもしたらカイトが悲しむだろうから、しっかり聖光でサポートしておくか。


「油断せずにね」


「はい!」


 クレアは勢いよく飛び出しアティヌに斬りかかる。


 アティヌは双剣をクロスさせて振り降ろされるエクスカリバーを受けるが、クレアのパワーを止めきれずに地面に押し込まれる。


「うぉっ!?」


「この程度ですか?」


 クレアはエクスカリバーを押し込みながら挑発的な笑みを浮かべる。アティヌは顔を引きつらせている。


「くそ、小娘が調子に乗りやがって!!」


 アティヌの両手に握られている双剣から炎が噴き出しエクスカリバーを押し返す。クレアは後ろに跳んで距離をとった。


「Aランクの俺を本気にさせたことを後悔するんだな! 喰らえ、業火双竜烈波!!」


 アティヌの双剣から撃ちだされた火炎は、竜の顎のごとくクレアに喰らいつこうと襲い掛かる。


「私も本気を出しますよ!」


 エクスカリバーから光が溢れ出し、膨大な魔力が立ち昇る。


 いけない! このままではクレアの攻撃でこの村ごと消滅しかねない。私は聖杖ケルラウスを取り出し全力でセラフィックウォールを発動し周囲が壊滅しないように囲った。


「セレスティアルブレイド!!」


 クレアの気合の入った掛け声と同時に振り降ろされる聖剣エクスカリバー。世界を銀色に染め上げ、猛烈な破壊音が轟く。


 まさかこんなところでエクスカリバーの固有技を使うなんて……。セラフィックウォールを使わなかったらこの辺り一帯は更地になっていたでしょうね。クレアには後できちんと注意しないと。


 閃光と轟音が収まり、あたりの様子を確認すると、セレスティアルブレイドの効果範囲は地面が削り取られている。そこにアティヌが倒れていた。波動からは、まだかろうじて生きているのが分かる。


 あれを受けて死なないなんて、さすがはAランク冒険者ね。それでも瀕死の重傷を負っているけど。


 他にも攻撃の余波を受けた兵達は気絶しているか、大怪我を負って動けないでいる。


「エリアヒール」


 私の周囲50m程度の範囲の怪我人を死なない程度に治癒させた。アティヌはチェーンバインドで動きを封じておいた。


 私は地面に倒れている領主に歩み寄る。


「領民からの搾取をやめなさい」


「搾取などしておらん! 私は善良な領主だ!」


「やめないというなら、ここであなたは行方不明になるかもよ?」


 私が攻撃的な波動を放ち微笑むと、領主は顔を歪めながらも必死で言い募る。


「領主である私を殺したら、この辺りの村々を野盗や害獣どもから領民を守ることができなくなるぞ!」


 私は薄く笑いながら領主に聖杖の先を向けた。


「あなたが行方不明になったら、賢くて領民思いな弟が後を継げばいいでしょ?」


「ぐぐぐ」


「領主の悪い噂が聞こえたら、また来るから。さっきの神器の光を見たでしょ? あれの餌食になりたくなければ、せいぜい善政する事ね」


 領主は体を強張らせてプルプル震えていたが、私の言葉を聞いて脱力して両手を地についた。


「分かったらさっさと帰ってくれる? 大人数でこんなところに居座られたら迷惑よ」


「はい……」


 領主は力なく返事をして兵達を率いて帰っていった。


「クレア、ダンジョンの外で全力で神器を振るってはダメでしょ? カイトも言っていたじゃない」


「すいません、つい……」




 * * *





 その夜、教会の一室で私とクレアはゆったりとしたシャツとズボンの部屋着でくつろいでいる。


「あの、外の空気を吸ってきますね」


「ええ」


 クレアは外へ出て行った。どうしたのかな? 少し様子も変だったし……。


 気になった私は、波動を遮断する膜で体を覆って、クレアをこっそりついて行くことにした。


 クレアは教会から出て、茂みの中に入っていく。きょろきょろと周囲を伺ったあと、一瞬クレアの体が光り、……カイトの姿になった。そしてズボンの中に手を入れて……。


「クレア、何してるの?」


「ひゃあっ! マ、マユ様!?」


 クレアはカイトの姿のまま大きくリアクションをとって、分かりやすく動揺している。


「これは、その、違うんですぅ! えっと、すいません!」


 カイトの顔で涙目になり、カイトの声で謝るクレア。


「もしかして、カイトの姿でエッチなことを?」


「うわー! すいません! すいません! 元の姿にもどります!!」


「クレア、落ち着いて。別に怒ってないし、責めてもないから。それよりも、その姿でちょっとだけ私を抱きしめて?」


「え? は、はい」


 クレアは私を恐る恐る抱きしめる。この温もり、腕と胸板の感触、匂いまでカイトと同じだ……。


「クレアの変身スキルって凄いね。これって、下の方はどうなってるの? ちょっと見せてくれない?」


「うう……」


 カイトが困った顔をしているみたいでドキドキしてきた。私はクレアのズボンを下ろして確認する。そこにはカイトと同じものがあった。それも張り裂けそうなほどに硬くなり天に向かってそそり立っていた。


「マユ様ぁ……、もういいですか?」


「もうちょっとだけいいでしょ? それにしても、カイトの物と全く同じね」


 膝をついて目線をそれと同じ高さにして、まじまじと見つめる。私は衝動的に、いつもカイトが喜ぶことをしてみた。


「マユ様!? ひぃ、あぁ、ああぁー」


「クレア、カイトはそんな女の子みたいな声は出さないよ」


「だって……、マユ様がぁ……」


 私はクレアの話し方をするカイトに思えてきて笑ってしまう。


「ふふ、気持ちよかった? じゃあ、次は私が気持ちよくなる番ね」


 私は柔らかいクッション状にした魔力の塊を地面に広げて、そこへクレアを押し倒した。クレアはカイトの顔でぐすん、とすすりながらも観念したみたいだった。




 * * *




 着衣を乱して汗ばみ、はぁはぁと息を上げる私と、元の姿に戻ったクレア。


「カイトには悪いことしちゃったね」


「そうですよ! 絶対に内緒ですからね!」


「今頃カイトは私たちの事は忘れてアイリって子と、きっとこんなことしてるんだよ。少しくらいはいいでしょ?」


「うぅー、複雑です……」


 その後、私とクレアはこっそりと部屋に戻り眠りについた。




 * * *




 翌日、教会の入口で神父様とシスターは、名残惜しそうな顔で私とクレアを見る。


「行ってしまうのですね」


「はい、私を待ってくれている人がいるので」


「そうですか。二人ともくれぐれも体にはお気を付けて」


「「はい!」」


 私とクレアは駆け足で村の外へ行くと、私の高速移動魔法の光に包まれ、ヨクア村へと飛び立ったのだった。

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