神弓

「ねぇ、行ってみようよ」


アイリは俺の手引きながらせがむが、隠し部屋のモンスターって、その階層のモンスターよりも強いからアイリには危険かもしれないんだよな。


「隠し部屋のモンスターはかなり強いよ」


「大丈夫だよ。私だってこの階層のモンスターを一人で倒せるようになったんだから!」


 アイリは現れた隠し通路に向かって一人で走り出した。ノエルの警告が聞こえる。


「早くアイリを捕まえないと、隠し部屋のモンスターに殺されるよ」


 直ちに俺は全速力でアイリを追いかけ、抱きしめて捕まえる。直後に何者かの攻撃が迫る。俺はアイリを抱き上げ回避。地面が鋭く切り裂かれた。


 今の攻撃は強力なモンスターの仕業だな。まだ29階層なのに……50階層相当の強さを感じる。


 俺の腕の中でアイリが震えているのが分かる。モンスターから放たれている重い波動に怯えているのだろう。


「カイト……、なにあれ……?」


 モンスターに視線を向ける。巨大なクラゲが浮いている。白く半透明な体は10mはあるだろう。体からは垂れ下がるようにして無数の触手が生えている。先ほどの攻撃は触手を伸ばして仕掛けてきたのか。この間合いで攻撃が届くところを見ると、かなり伸びそうだな。


「オレリアータ。レベルは118。たくさんある触手は伸縮自在で攻撃と防御を兼ねているよ」


 ノエルがモンスターのレベルを教えてくれたが……。まだ29階層だろ? ちょっと強すぎない?


「そうだね、大当たりを引いたね。こいつを倒すと、この奥の部屋に神器があるから頑張れー」


 そういうことは先に教えて欲しかった……。


「教える前にカイトが勝手にぶっ放したんでしょ?」


 う、そうだな……。


 俺がノエルと話していると、オウデルさんは幅広の剣を出して魔装術を使い突進。


「おおっっ!!」と気合たっぷりで本体めがけて打ち込むが、触手にバチンとはじかれ吹き飛ばされてしまった。


 オウデルさんは一回転して見事な着地を決めると、俺に向かって叫ぶ。


「これはちと厄介じゃのぅ。カイトよ、アイリを連れて逃げろ!」


「オウデルさんは下がってください。俺が倒します」


「しかし……」


「ティバンの森のダンジョンでは50階層でレベル上げしてました。心配いりませんよ」


「なんと……50階層!? 分かった、カイトに任せた」


 アイリをオウデルさんの傍に下ろして、オレリアータに向かう。


 様子見がてらグロージャベリンを10発連続で撃った。複数の触手が折り重なって盾となり本体を守る。いくつもの触手を吹き飛ばしたが、すぐに再生してしまった。さて、どうしよっかな?


 近づいて斬るか。神聖魔法を全身に巡らせて駆け出すと、間合いを詰める俺に向かって、あらゆる角度から触手が攻撃を仕掛ける。おっと、速い速い。


 一斉に迫り、斬りつけてくる触手たちを躱し、剣でいなし、魔法で焼き払い近づく。まだこれくらいなら余裕だ。


 距離を詰めると、触手に加えて、魔法も撃ってきた。火炎球、氷弾、雷撃とクラゲのくせに多彩だ。俺を近づけまいと必死だね。


 魔装術に充てる神聖魔法の密度を一段上げて、躱しながら突っ込んだ。全部喰らっても怪我はしないし、痛くもないだろうけど、これも練習のうちだ。


 オレリアータの真下まで来たので、剣に神聖魔法を通して振り下ろす。白い閃光と共に胴体が真っ二つになり、ズズンッと音を立てて地面に落下し消滅。コアへと変わった。


「ふうっ、一丁あがり」


 アイリを見ると腰が抜けたのかペタンとお尻をついて座っていた。俺はアイリに近づいて手を差し出すと、その手を取り立ち上がりながらアイリは溢す。


「怖かった……」


 アイリのレベルは、感じる波動から予測すると25前後だろうか。そのレベルであんなのに遭遇したら無理もない。


「どんなモンスターが出ても、アイリは俺が守るから」


 アイリの震える肩をぎゅっと抱きしめた。


「うん……」


 オウデルさんは「うーむ」と唸っている。


「あれほどのモンスターすら容易く倒しおって。ダイアウルフにかじられとったのがウソみたいじゃな」


「俺も頑張ったんですよ」


 頭を掻いているとアイリが問う。


「カイトって今レベルいくつなの?」


「95だよ」


 オウデルさんとアイリは目を見開いて驚く。


「カイトが旅立ってから一か月くらいしか経ってないよね。どうやったらそんなにレベルが上がるのよ!?」 


「えと、すごく頑張った」


「私もこのダンジョンの29階層で父さんにレベル上げを手伝ってもらっていたから、普通よりもずっと早くレベルが上がったけど、ようやく25になったところなんだよ。それなのに、なんでカイトはもう95になっているのよ?」


「ティバンの森のダンジョン50階層でレベル上げしたのと、レベルが上がりやすい系のスキルを持っているんだよ」

 

「さっきも言っておったが、50階層で戦えるということは、カイトの仲間は全員Aランク冒険者なのか?」


「Bランクだけど、実力的には三人ともAランク並みです」


「なるほど。魔装術が身についておることや、剣技が上達しているのも仲間のおかげか。それなら少しは分かる気がする……。いや、それにしたって速すぎる。やはりカイトは不思議な奴じゃ」


「はぁ、せっかくカイトを驚かそうとしたのに……。カイトのほうがずっと強くなってるなんて」


「俺も驚いてるって。アイリが俺のために頑張ってくれていたなんて、すごく嬉しい」


 もう一度アイリをぎゅっと抱きしめた後、離して手を引く。


「さ、奥へ行こう。お宝があるよ」


「うん」


 オレリアータが守っていた扉を開き、奥へと進む。部屋の中央に台座があり、部屋の中央に台座があり、その上に陽光の煌きを思わせる神々しい光を放つ弓があった。


「神器の一つ、神弓タスラムだよ」


 ノエルが弓の名前を教えてくれた。俺は神弓タスラムを手に取る。神器の熱く脈打つような波動が手に伝わってきた。


「これ、アイリが持っていて。弓だし使えるでしょ?」


「でも、こんな凄い弓本当にいいの?」


「俺の仲間は全員が神器を持っているから丁度いいよ」


「全員神器持ちじゃと? カイトの仲間って勇者パーティとかかの?」


「違いますよ。普通のBランク冒険者のパーティーです」


「なるほど。カイト基準の普通パーティだな。全員カイトみたいなヤバい奴ばかりのパーティか」


「酷いなー。みんないい人ばかりだから! それより、収穫もあったことだし、今日はもう帰りましょう」


「そうじゃな。日が暮れる前には家につきたいしそろそろ帰ろうかの」


 神器の入手という予想外の成果もあったが、本来の目的であるアイリの成長もしっかり確認できたので、俺達はオベラム湖のダンジョンを後にして、ヨクア村に帰るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る