湖のダンジョン
オウデルさんとアイリと共にヨクア村を出発し、オベラム湖のダンジョンに行く為に街道を西へと歩いている。
「オベラム湖のダンジョンは王都とアーリキタの街の中間の位置にあるんじゃが、アーリキタからはティバンの森のダンジョンのほうがずっと近いし、王都にはすぐ近くにダンジョンがある。オベラム湖のダンジョンは人気がないんじゃ。ヨクア村からは近いから、わしらにはちょうどいいがの」
俺の腕を抱いて歩くアイリがオウデルさんに付け加える。
「でも、単体行動のモンスターしか出現しないから人数制限は二人以上なんだよ」
「アイリもギルドカード持ってたんだ?」
「以前、父さんとアーリキタの街へ行ったときに、興味本位で作っていたんだ。当時は冒険者をする気なんて無かったんだけどね」
興味本位……? 街に遊びに行った記念とか、そんな感じで冒険者登録したりするのかな。
話をしながら歩いて行くと、美しい湖のほとりに出た。透明度の高い水が太陽の光を反射してきらめいている。水鳥が何羽も水面に浮かんでいて気持ちよさそうだ。
「あそこだよ」
湖のほとりにダンジョン入り口を示す看板と下っていく階段、それに見張りの人が立っているのはティバンの森のダンジョンと同じだ。
ティバンの森のダンジョンより明らかに人が少ない。確かに人気は無いようだ。
でも、男女ペアのパーティーがそれなりにいるな。人数を揃えるのが難しい人たちはここに来るんだろうか。
「早く入ろうよ!」
俺はアイリに手を引かれながらダンジョン内へと入っていった。
ダンジョン内は水族館のトンネル水槽のようになっており、上から日の光が差し込んできて明るい。水の揺らぎによって乱反射した光が、ダンジョン内を幻想的に照らしていた。天井が高いせいもあって開放感もある。壁や床は洞窟のような岩肌ではなくて、滑らかな白い石造りだった。
「綺麗なところだなぁ……」
思わず声を溢すと、アイリは嬉しそうに応える。
「うん。私もこの景色が好きなんだ」
周りを見ると、妙に距離感の近い男女のペアパーティーが何組も……。えーっと、これはつまりそういうことか。冒険者カップルの穴場のデートスポット……? 確かにこんな絶景スポットでデートしたら楽しいだろうね。くぅ、アイリと二人きりで来たかった。
でも、俺達の今日の目的はデートではないからなぁ。
「ここをゆっくり見物するのはまたの機会にして、今日は一気に20階層まで進もう。今から走るよ。私についてこれるかな?」
アイリは俺を挑発するように笑顔を見せると走り出したので「余裕だよ!」と応え俺も走り出した。
赤いポニーテールを揺らして走るアイリ。思っていたより速いな。
風属性魔法で粗削りではあるものの、魔装術も使っている。出現する水棲生物型のモンスターには足を止めることもなく、すれ違いざまに腰に佩いた短剣を素早く抜いて切り捨てる。
オウデルさんの指導を受けているんだろう。ダイアウルフに怯えていたのが嘘のように、的確にモンスターを倒していく。
あっという間に20階層に到着。休憩なしの移動だったが、三人とも息を乱すこともない。
「どうじゃ? アイリは強いじゃろう」
オウデルさんが得意げに言う。
「はい! 凄いですね。びっくりしましたよ」
「この程度で驚かないで! ここからが本番なんだから」
アイリはそう言うと、マジックバッグから弓を取り出した。蒼い弓幹は金属のような光沢を放っており、弓全体から魔力の波動を感じる。一目で業物と分かる逸品だ。
「なんか凄そうな弓だね」
「そうでしょ? 父さんにもらったの」
「これはわしが冒険者をやっていたころに手に入れたものじゃよ。所持者の魔力で矢を作り出して打ち出せるオリハルコン製の弓、魔弓フォールドじゃ」
へー、いいなぁ。面白そう、俺もやってみたい。
そこへ巨大な蟹型モンスターのお出ましだ。体長3mくらいありそうだ。両手の鋏には大きな棘が付いている。あんなもので挟まれたら痛そうだな。
「来たわね、デスクラブ。カイトは見ていて」
デスクラブは俺達に向かって鋏を向けた。離れた間合いで何する気だ? 次の瞬間、デスクラブの鋏から衝撃波が打ち出された。
俺達は散って回避すると、デスクラブが続けて衝撃波を放つ。
アイリはひらりと跳び上がって避けると、そのまま空中で手にした弓を構える。
アイリが手にした弓を引き絞ると、弓に魔力が収束していき、矢が生成された。それをデスクラブに向かって放つ。
矢を射った音とは思えないような「バンッ」という衝撃音と共に放たれた矢は、空気を切り裂きながら飛翔し、狙い違わず蟹の頭部に命中し貫通した。その一撃でデスクラブはコアに変わってしまった。
素晴らしい身のこなしに、すごい威力の攻撃だ。俺は思わず拍手する。
「どう、すごいでしょ? 次はカイトの力を見せて」
「うん、了解」
しばらくダンジョンを進んでいると、再びデスクラブが出現。いかつい見た目だが高々20階層のモンスター。ティバンの森のダンジョン50階層でレベル上げしていた俺にとっては雑魚もいいところだ。
「ホーリーレイ」
右手の指でピストルを形作って軽く呟く。指先から放たれた神聖魔法の光線がデスクラブを貫き、一瞬にして塵になりコアだけが残った。
「うそっ、今の神聖魔法!?」
アイリは驚愕の声を上げる。
「うん、俺も結構やるでしょ?」
「まぁまぁね。もっと深い階層で私の強さを見せてあげる」
アイリは俺にいいところを見せたくて必死なのかな? 可愛いなぁ。
さらに進んで29階層。アイリ一人なら危ういだろうが、オウデルさんの強さならアイリをキャリーしててもまだ余裕だろう。武器も持たずに鼻歌交じりでモンスターをぶん殴ると一撃だった。
「ねぇ、カイトはまだ剣を出さないの?」
「そうだなぁ、そろそろ出そうかな」
この程度の階層なら素手でも全く問題ない。ホーリーレイですべて一撃だからだ。でも、特に渋る理由もないので、マジックバッグからオウデルさんにもらった剣を出した。
「おお、その剣はわしがカイトにあげた、魔剣ベイルスティングじゃな。使い心地はどうじゃ?」
「凄くいいです。丈夫だし、よく切れるし、魔装術との相性もいいみたい」
オウデルさんは「そうかそうか」と嬉しそうに頷いていた。
俺も嬉しくなってしまい、なんとなく魔剣に神聖魔法を通わせてダンジョンの壁に向かって振る。白く光る斬撃が壁に当たってガラガラと崩れて通路が現れた。
「すごい! 隠し通路だよ」
「なんという偶然……」
アイリはとても嬉しそうだったが、俺は呆気に取られるのだった。
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