部屋の掃除

 アイリに手を引かれて家に入る。


 赤いポニーテールを揺らしながら、俺をリビングへに通すと「お茶を入れるから座って待ってて」とキッチンに向かった。


 ソファーに腰掛けると、オウデルさんも対面のソファーに腰を下ろす。少し待っているとアイリがカップをトレイに乗せて戻ってきた。ローテーブルにトレイを置くとアイリは俺の隣に座った。


 アイリに視線をやると、嬉しそうな笑顔を浮かべている。相変わらず可愛いっ!


 俺がアイリの可愛さに心の中で悶えていると、オウデルさんが問う。


「カイトよ、パーティメンバーはどうしたのじゃ? ティバンの森のダンジョンは一組三人以上じゃないとは入れんじゃろう」


 ハッと我に返ってオウデルさんの顔を見て答える。


「とっても頼りになるメンバーが三人いるんですけど、三日後にこの村で合流することになってるので、その時に紹介します」


「カイトが頼りにしてるって、どんな人なんだろう。楽しみね」


「それはそうとアイリよ。カイトに報告したいことがあるじゃろう?」


 オウデルさんに促されると、アイリは軽く頷いて俺に話し始めた。


「実は、私もカイトと一緒に冒険者をしたくて、父さんと二人でダンジョンに潜ってレベルを上げたんだよ」


「三人いないとダンジョンに潜れないのでは?」


「ティバンの森のダンジョンは三人以上じゃないと入れんが、ここから西に行ったところにあるオベラム湖のほとりのダンジョンなら二人でも入れるぞ」


「そこで父さんに深い階層の強いモンスターを倒してもらってレべル上げしたんだよ。弓の練習もしたし、風魔法も使えるようになったんだ」


 アイリは俺に付いて来たくて、オウデルさんにパワーレベリングして貰っていたのか。


「もうダイアウルフなんて私の敵じゃないよ! カイトに私がどれだけ成長したか見て欲しいから、明日は一緒にオベラム湖のほとりのダンジョンに行こう」


「いいよ。アイリがどれだけ強くなっているのか楽しみだ」



 

 * * *

 



 夕食は久しぶりにアイリと二人で作ることになった。


 アイリは変わらず手際よく調理をこなしている。俺も料理LV5なのでアイリに指示を貰いながら頑張った。

 

 こうして二人並んでキッチンに立っていると、お世話になっていたころを思い出す。あの時も毎日こうしてアイリと料理してたよな。


 何気なくアイリへと視線を向けてみると、俺の視線に気付いたアイリが微笑みかけてきた。


「どうしたの、カイト? 何か変なものでもあった?」


「いや、そうじゃなくて、アイリとこうして料理してると楽しいなって思って」


「……私も同じこと思ってた。またこうやってカイトと二人でご飯作れて嬉しい」


 アイリは頬を染めながら笑顔を見せた。


 アイリ可愛い! 好き! もう今すぐ抱きしめたい!! 


 俺はアイリへの愛おしさが抑えきれなくなりアイリへと近寄る。アイリも俺の方へ体を寄せる。触れ合うほどに近づいて、どちらともなく唇を重ねようとしたその時――


「いい匂いじゃのー、夕食の準備は終わったかの?」


 オウデルさんが来てテーブルについた。俺達は慌てて離れ、何事もなかったかのように振る舞う。


「あ、父さん、もう少しだけ待ってねー」


 オウデルさんの乱入がなかったら絶対キスしてたわ。アイリを見ると顔を真っ赤にしている。俺だって心臓が凄い勢いで動いてる。


 俺とアイリは平静を取り戻すために深呼吸して、出来上がった料理をテーブルに並べた。


 その後は三人で楽しく談笑しながらの食事となった。




 * * *




 風呂から出て、俺が使っていた部屋へと向かう。もしかしたら俺が留守の間に、また埃とかたまってるのかもな……。


 ところが部屋に入ると、手入れがされていたようで綺麗なままだった。開けっぱなしたドアからアイリが入ってきた。


「カイト、入るよ」


「アイリ、この部屋の掃除してくれていたんだ」


「うん、いつでもカイトが帰って来れるように、掃除は欠かさなかったんだ」


「ありがとう」


「でも、今は私たちって付き合ってるでしょ? だから……私の部屋においでよ」


 即座に食い気味で「はい! 行きます!」と返事をした。


 アイリの部屋に入りドアを閉めると、アイリは俺をきつく抱きしめる。


「カイトのことが好き。離れている間ずっとカイトのことを考えていた。これからはもう離れたくない。私もカイトと一緒に冒険者になりたい」


「嬉しいよ。俺もアイリのことが好きだし、ずっと一緒に過ごしたいって思ってたから」


 俺もアイリを抱き返す。お互いの体温を感じて気持ちが高まり、そのまま唇を重ね合わせる。さらに舌を絡ませ合い熱く求め合った。


 声にならない息を唇の隙間から漏らし、長い時間お互いに貪りあってようやく口を離す。俺はアイリをお姫様抱っこしてベッドまで運ぶ。


 そしてゆっくりと優しくベッドに下ろして覆いかぶさった。アイリは潤んだ瞳で俺を見つめている。 


「カイト……ようやく私の元に帰ってきてくれた。ずっと会いたかったよ」


「俺だってアイリとこうなることをずっと夢見てた」

 

「カイトのしたかったこと、全部していいよ」


 それから俺達は夢中になって何度も体を重ねた。


 俺がこの世界に転生して、最初に抱いた恋心はようやく成就したのだった。

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