vs公爵さん2

 次の相手はこいつなのか? 感じられる波動からは、スタークや公爵さんより弱そうだ、と思っているとフィリスはその男に軽く頭を下げる。


「お久しぶりです、兄様」


 兄様? フィリスのお兄さんか。登場するなり偉そうな感じ全開で、フィリスの持っているグングニルを指差した。


「フィリス、その槍を私に返せ。エラッソス公爵家次期当主たるこの私こそ、神槍グングニルを持つのにふさわしい」


 お兄さんはフィリスを睨むが、余裕の笑みを浮かべてわざとらしい口調で返す。煽ってるな。


「父様は私にこの槍をくださったのです。兄様にお渡しすることはできません」


「ならば、どちらがその槍にふさわしいか勝負だ!」


「勝負? 決闘でもする気ですか?」


「そうだ! この私と勝負し、勝ったほうが神槍グングニルの所持者だ!」


 お兄さんはマジックバッグから木槍を取り出しフィリスに投げる。


「さあ、槍をとれ!」


 フィリスが神槍グングニルから手を離すと、槍はその場にフワリと浮いて静止した。そして放り投げられた木槍を拾い上げる。


 それを確認したお兄さんは公爵さんに頭を下げる。


「父上。槍を貸して頂きたく思います」


「ふむ。良いだろう」


 公爵さんは偽グングニルをお兄さんに渡した。あー、ズルい。フィリスに木槍渡しておいて、自分はそれ使うんだ。それでも実力差は埋まらないだろうけどな。


「では、正々堂々勝負だフィリス!」


 どの口が言ってるのかねぇ……。それともボケなのか? ツッコめばいいのか!? フィリスなら絶対に負けないだろうから手出ししないけど。


 お兄さんは槍を構えフィリスに突進。間合いを詰めたところで右足を軸にして槍を薙ぎ払って殴打する。


 ふーん、魔装術は使えるんだ。雷属性魔法だけど。


 フィリスは棒立ちに近い状態で頭部をぶん殴られるが。何事もないように微笑んでいる。フィリスの魔装術の防御力が上回っているんだな。


 っていうか、あれ俺がアイギスの盾頼りでよくやるやつだ。


「兄様、全く効いてませんよ」


 フィリスがニッコリ微笑むと、お兄さんは驚きつつ一歩下がる。


「くそ……小賢しい手品を使いおって……」


 お兄さんは次の一手を打とうと槍を握り直す。


 だが、お兄さんが動き出すよりも速くフィリスはスッと腰を下ろして構えると、木槍に魔装術を通わせて突いた。


 ズンッといい音がしてお兄さんの腹に直撃。そのまま激しく何度も木槍を突き出してラッシュを繰り出す。


 フィリスの攻撃の前にサンドバッグと化したお兄さんは、あえなくリタイアとなるのだった。


 レベルはどちらも50を超えたあたりだが、お兄さんは雷属性の魔装術なので、フィリスの扱う神聖魔法の魔装術と比べると基本性能が劣っている。この結果は勝負の前から分かり切っていたことだ。


 公爵さんに視線を向けると、お兄さんがフィリスに負けて渋い顔をしている。


「妹に負けるとは、なんと不甲斐ない」


 まったくだ。何しに出てきたんだろ? そんな事よりも、早くこっちの用件を進めなくては。


「時間が惜しいから、余興はこんなもんで勘弁して欲しい。そろそろ本題行くからね」


「俺達は剣、槍、杖の三つの神器を持ってる。公爵さんならこれがどれほどの戦力なのか分かるよね? そこで公爵さん、今日は交渉しに来たんだけど、聞いてくれる?」


「……いいだろう、聞くだけは聞いてやる」


「さっきも言ったど、今後フィリスを含めて俺達に関わらないと約束してほしいんだ」


「それはできん」


「なら、俺達と戦うことになるよ?」


「私に剣を向けるのはカークヨムルド王国に剣を向けると同義だ。王国十二騎士団と戦って勝てる気でいるのか? 貴様は多少腕に自信があるようだが、まだまだ青いな。たった四人で一万を超える軍と、Aランク級の強さの騎士団長十二名を全員倒すなど不可能だ!」


「ああ、無理だろうね。でも、俺達四人が三本の神器を持って全力で戦えば、半分……、いや三分の二くらいは倒せると思うよ。もしそうなったら困るでしょ?」


「何が言いたい」


「ナロッパニア、アルパリス、カークヨムルドの三つの大国ってさ、魔王がいたころは三国で力を合わせて戦ったんだよね? 平和になって20年、今も変わらず仲良くやっている?」


 公爵さんの表情がより険しくなるが、俺は構わず続ける。


「もし、カークヨムルド王国軍が半壊したことが、ほかの二国に知られたらどうなるだろう。何か因縁つけられて攻め込まれたり……しないかな?」


「貴様……」


「返事はしなくていいよ。俺の用件は言ったからもう帰る」


「待て! このままでは済まさんぞ!!」


「俺にはとっても高度な探知系スキルがある。どんな手練れが気配を隠して近づいてきても分かるんだ。もし今度刺客がきたら返り討ちにした上で、きっちりお礼しに来るよ。そのつもりでね」


「何がお礼だ。ハッタリだ!」


「聖杖ケルラウスの固有魔法、セレスティアルメテオでこの屋敷めがけて、でっかい隕石でも落とせば信じるかな?」


「固有魔法!? そこの小娘が神器に認められているとでも言うのか? それこそありえん!!」


「今使っている結界魔法だって固有魔法のセラフィックウォールだよ。証拠に騎士団と魔術師団が必死になっているにもかかわらず未だ結界を破れずにいるでしょ?」


 公爵さんの顔が徐々に青ざめていく。


 ニッコリと公爵さんに微笑んだ後で、クレアとフィリスに視線を送る。


「マユが結界を解くのと同時に、全力で神器を振ってこの屋敷を包囲している騎士たちを蹴散らそう。それから全速力で飛んで離脱だ」


「はい!」「了解!」


 クレアとフィリスが魔力を開放し、神器に神聖魔法を注ぎ始める。


「マユ、結界を解除して」


 マユの結界が解除されるのと同時に二振りの神器が唸りを上げる。二筋の閃光があらゆるものをなぎ倒して道を作った。


「バイバイ、お義父さん。フィリスは俺達と幸せに暮らすから心配しないで。あと、グングニルありがとね!」


 そう言い残して全速力でその場から飛び去ったのだった。

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