vs公爵さん1

 しばらく飛んでいると、城が見えてきた。あれがカークヨムルド王国の王都ムルドーラか。


 300Kmの距離を一時間で飛んでしまった。新幹線並みのスピードが出ていたのか。


 王都全体を覆う障壁はマユと聖杖の能力で簡単にすり抜け、ノエルのナビでエラッソス公爵邸の上空へとたどり着く。


 だだっ広い敷地の一角に降り立ち、まずはマユにお願いする。


「外から邪魔者が入ってこれないように、聖杖ケルラウスの固有魔法で結界張って」


 マユは「任せて」と頷くと、エラッソス公爵邸の広大な敷地に結界を張って外部から干渉できなくした。


 ノエルの声が聞こえる。


「聖杖ケルラウスとマユの力で作られた結界は、カークヨムルド王国騎士団や王宮魔術師の力を持ってしても解除、もしくは破壊までに3時間はかかる。その間にうまいくやって」


 ああ、頑張るよ。


 俺たちの周囲を、屋敷内の警備をしていたであろう兵士たちが取り囲んでいく。俺は手に持っていた鎖でぐるぐる巻きにしたスタークを、兵士たちの前に放り投げる。


「エラッソス公爵と話しに来た。スタークでも俺の相手にならないんだ。一般兵士の皆さんは下がってたほうが無難だよー」


「冒険者風情が!!」「公爵家に盾突く気か!」「殺せ! こいつらを始末しろ!!」


 口々に叫んでわらわらと大量に沸くモブ兵士さん。


「カイト様、ここは私にお任せを」


 どうやらクレアがその気になったようなので「任せた。でもやりすぎないでね」と頷いた。


 クレアがおもむろに聖剣エクスカリバーを抜いて魔力を開放すると、煌めく粒子を内包するオーラが立ち昇る。「はっ」と掛け声と同時に神聖魔法がたっぷり染み込んだエクスカリバーを振り下ろした。


 エクスカリバーから放たれた、目が眩むほどの光を伴った斬撃が、広範囲をなぎ倒しながら進んでいく。マユの張っている結界にぶつかることでようやく止まった。


 クレアは自分の放った攻撃の威力に驚いたのか、口をパクパクさせながら俺に視線を向ける。


 俺が「ちょっと、やりすぎかな」と微笑むと、クレアはあわてて頭を下げる。ダンジョン内でモンスターと戦っているときは、手加減なんてあまり気にしないから無理もないか。


「ももも申し訳ありません!!」

 

 慌てる顔も可愛いなぁ。


「今ではクレアも、Aランク並みの強さだから力の加減を覚えてね。エクスカリバーを使うときは特に気を付けないとね」


「はい!!」


 クレアの攻撃を見て兵士達は怖気づいたのか、じりじりと後退していく。


 早く公爵さん呼んでくれないかなぁ……。


 そこへ強力な魂の波動を持つものが現れた。白髪の長身痩躯の中年男性だ。


「ほう、貴様がスタークを倒したのか」


「おじさん、強そうだね。でも、俺は戦いに来たわけじゃなくて、公爵さんと話しに来たんだ。公爵さん呼んでくれない?」


 フィリスは震える声で俺に言う。


「カイト、あれが私の父、エラッソス公爵よ」


 げ、そうなの……。全身から放たれてる闘気なんて、ガチガチの武闘派じゃないか。もっと太ったハゲオヤジとかって思っていたんだけど。


「あのー、お義父さん? 俺とフィリスの仲を認めてほしいんですけど……」


 しまった、反射的に娘さんをください的なことを言ってしまった。


「貴様にお義父さんと呼ばれる筋合いはない!! 貴様に娘はやれん!!」


 おっふ、これまたテンプレな返しだ。しょうもないこと言ってないで手短に用件を言わなければ。


「別に認めてもらいに来たんじゃない。フィリスは俺のだ。今後フィリスを含め、俺たちに関わるな」


「公爵である私になんたる不遜な態度。許せんな」


「許せないとどうなるんだ? 俺と戦う?」


「異常に気が付いた騎士団がじきここまでくる。貴様はスタークを倒した程度の強さで図に乗っているようだが、王国騎士団と宮廷魔術師、それにこの私を相手に勝てるつもりでいるのか?」


「マユの結界で騎士団とかは、しばらくここまで来れないけどな」


「なんだと?」と周囲を探る公爵さん。


「そこの娘が結界を張っているのか。手にしているのは、まさか……、聖杖ケルラウスなのか? 冒険者風情が手にして良いものでは無いぞ!」


 公爵さんは、マジックバッグから光る槍を取り出してマユに襲い掛かる。


 俺は即座にマユの前に移動し、槍の刃を握って止める。アイギスの盾によってダメージが無いのは分かっていたが痛みも全く無かった。公爵さんの攻撃力よりも、俺の魔装術による防御力の方が勝っていたようだ。


「この子に怪我させたら許さないよ」


「なに? 神器である神槍グングニルを素手で止めただと?」


「この槍が神槍グングニル? これ、神器のレプリカでしょ?」


「貴様っ、なぜそれを!? そうか、フィリスに聞いたのか。力を失い錆びた槍など、もはやいらぬ。これこそが真のグングニルだ!」


「え、もうあの槍いらないの? なら俺達がもらっていいんだね?」


「あんな錆びた槍くれてやる! もっとも貴様はここから生きて帰れんがな」


 槍を振り上げ叩きつける公爵さん。剣を出してそれを受けると、俺の両足が少し地面に沈み込んだ。結構パワーあるな。


 ノエル、この人スタークより強くない? 


「強いよ。20年前の魔王率いるモンスター軍との戦いで、カークヨムルド軍を陣頭指揮していたからレベルが高いね。さらに財力にものを言わせて能力アップする魔道具を複数装備してる。偽グングニルも人間が作った武器では最高の性能だよ」


 へー、偽物でもすごい武器なのか。でも本物は俺達にくれるって言ったよな?


「フィリス、公爵さんがグングニルくれるって。良かったね!」


 フィリスはマジックバッグからグングニルを出して、公爵様に頭を下げる。


「お父様、ありがとうございます。大切にします」


 フィリスの手で輝く本物の神器を目にした公爵さんは目つきが変わる。


「それはっ! 本来の力を取り戻したのか? 神器の力を取り戻すには聖女の力が必要なはずだ」


「そこにいるマユの力で神器は力を取り戻したよ」


「聖杖ケルラウスを使いこなすだけではなく、神器の力を蘇らせるとは……。こんな冒険者の小娘が聖女の再来だとでも……?」


 なんとなくマユって聖女っぽい気はしていたけどそうなの?


「人々が聖女って呼んでいるのは20年前勇者とともに魔王と戦った女の子のことだね。その子もマユと同じ聖光スキルを持っていて、神聖魔法が得意で聖杖ケルラウスを使いこなしていたよ」


 それなら、マユは聖女ってことじゃないのか?


「マユの肩書はBランク冒険者でしょ?」


 それはそうだけど……。


「マユと20年前の聖女は能力が同じだけど、聖女ってのは神殿に認められた者の称号だよ。だからマユは聖女じゃないよ」


 聖女は神殿から与えられる称号であって、その人の能力を表すものじゃないって言いたいのか。


 それにしても、マユの能力は聖女と同じか……。マユもかなりのチートな存在だったんだね。ザッコスが知ったら気絶するかも。


 マユのハイスペックに改めて驚いていると、俺達を囲っている兵士をかき分けて、一人の若い男が前に出てきた。

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