vsスターク

 一週間ほどの間、午前中は可愛い恋人たちに魔装術を教えて、午後からはダンジョンに潜ってレベルを上げるという日々を繰り返した。俺のレベルは95まで上がり、彼女たちも50前後までレベルが上がった。


 先生スキルのおかげなのか、彼女たちが優秀だからなのかは分からないが、三人とも魔装術がさまになってきた。並みのBランク冒険者よりもかなり強いと思う。


 ダンジョンは50階層まで到達した。希少な鉱石を大量に持ち帰ると、値崩れする事もあるとノエルが言うので、岩は持って帰っていない。しかし、40階層より下のモンスターを倒した際に手に入るコアはかなり高く売れるので、毎日3000万イェン以上の収入にはなる。ちょっと贅沢しても余るほどだ。


 深い階層のコアを毎日大量に持って帰ってきていたら、四人全員Bランクに昇格できた。Aランクへの昇格試験も受けられるようなので、スタークの件が落ち着いたら挑戦してみようかな。


 ノエルの予測では明日スタークが仲間を連れて連れてアーリキタに来るらしい。戦力でいうと、Aランク級のスタークと、Bランク級の仲間が三人とのことだ。まぁ、楽勝だろう。


 今日はレベル上げは休んで、買い物でもしてみんなで楽しむか。




 * * *




 ――翌日。


 遠くの方から強い魂の波動が近づいてくるのを感じる。ついにスタークが来たか。向こうも俺の波動を感じ取っているんだろうな。この感じならあと一時間後くらいには到着しそうだ。


 そういえば、どこで戦う? そこらで戦うと問題になるんでしょ?


「エラッソス公爵の根回しでスタークが暴れても、なかったことになるから問題ないよ」


 ここってナロッパニア王国でしょ。エラッソス公爵ってカークヨムルド王国の貴族って言ってなかったっけ? それなのに根回しできるの?


「それだけ大物貴族なんだよ。フィリスを取り戻すのに必死ともいえるね。スタークを倒しても今後は頻繁に刺客が来ると思うよ。スタークを倒したらエラッソス公爵のところへ交渉しに行った方がいいかもね」


 えー、貴族と交渉とか俺には無理だよ!


「いざとなれば、こちらはAランク冒険者と同等の実力者四人に神器三本の戦力を持っている。向こうも軽視できないから」


 マユたちもAランク級の強さに達していたのか……。でもSランクとか出てきたら?


「SランクはAランク冒険者の上位の中から特別な功績のあった者に与えられる勲章的な意味合いのランクだよ。Aランク上位の強さなのは確かだけど、今のカイトなら勝てるだろうね」


 あまり実感は無いけど、俺Tueeeeeも達成できているようだ。とりあえず力試しがてらスタークと勝負してくるか。オラわくわくすっぞ!




 暴れても貴族の権限でもみ消すとはいえ、周りに迷惑が掛かるのもどうかと思うので、アーリキタの街の南西部に広がっている荒野まで魔装術を応用した高速移動術で行った。


 まばらに木が生え、雑草生えっぱなしで、いたるところに岩が転がっている荒れ地だ。


 その一角を魔法で整地してレジャーシートを敷いて座り、コーヒーを啜りながら三人の恋人たちと談笑しているとスターク一行が到着した。彼らも高速移動術を使っていたのだろう。それ特有の音とともに姿を現した。


 スタークは殺気立って睨みつけてくるので、俺は笑顔で声を掛ける。


「よ、お疲れさん」


 スタークは目じりを吊り上げ、低い声で言葉を返した。


「こんな荒れ地で最後のピクニックか? 趣味がいいとはいえんな」


 俺は立ち上がって、レジャーシートを片付けながら話す。


「別に荒れ地でピクニックするのが俺の趣味なわけじゃないけどさ」


 スタークは俺と雑談するつもりは無いようだ。剣を抜いて切っ先を俺に向ける。


「お嬢サマは頂いていくぞ。素直に渡すなら命だけは助けてやる」


 俺は魔力を練って神聖魔法を発動し体を覆う。そして、スタークにドヤァと笑みを向けた。


 それを見たスタークは驚く。

 

「この短期間で魔装術を習得したのか。それにレベルも上がっている……」


 やはりスタークほどの強者は、見ただけで俺の成長が分かるのか。俺は嬉しくなって、つい頬が緩む。


「あ、分かる? 俺、結構強くなったんだよ」


「……お前、異世界人か。多くの異世界人は強力なデバフのせいですぐに死んでしまうが、稀にそれを克服できるやつがいる。そういった者たちは、歴史に名を刻むほどの功績を残す。20年前魔王を倒し世界を救った勇者も異世界人だったと伝えられている」


 勇者に魔王か、心惹かれるワードだ。勇者が異世界人って伝えられているなら、異世界人って割と世間に知られている存在なのかも。


「俺も異世界人だから、きっと勇者みたいに強いよ。諦める?」


「馬鹿なことを。任務を果たせなければ公爵閣下に顔向けできん。お前はまだ勇者ほど成長していない。ならば今この場で消す」


 スタークが魔力を開放すると、周囲の温度が一気に下がり草木が凍り始めた。


 マユたちは、俺が全力で戦いやすいように気を利かせてれたのか、魔装術で跳んで俺から距離をとる。スタークの連れの三人はサポート要員らしく、後方に下がって何かの術式を準備しているようだ。


 ノエルの声が聞こえる。


「あの三人は防御系のスキルを無効にする魔法を構築しているね」


 アイギスの盾とかを無効にされちゃうの?


「あいつら三人の実力では、チートスキルは無効にできないよ。でも鍛錬のためにわざとアイギスの盾を無効にしてもらって戦おうか。しっかり魔装術を扱えればダメージは受けないから」


 了解、やってみよう。


 剣を抜いてスタークと対峙すると、後方にいる三人の魔法が発動して俺に雷撃が命中する。俺の魔装術による防御力のほうが上回っているようで全く痛くない。


「さっき受けた魔法の追加効果をわざとレジストしなかったから、アイギスの盾が無効になったよ。30分くらいで復帰するよ」


 ノエルの助言の後、スタークしたり顔で言う。


「お前の防御アップ系のスキルは封印した。これで俺の剣を止めることはできない」


「そっか、それは大変だ」


 俺の軽口に耳を傾けることもなく、スタークは高速移動で俺に近づいて剣を振り下ろす。


 十分反応できる速度だ。剣の軌道を逸らして受け流した。


 スタークの剣から冷気がほとばしり、地面が吹き飛ぶ。前戦った時より威力が高い。この前は本気じゃなかったようだな。


 連続で剣戟を交わしていると、スタークの一振りごとに周囲が凍り付き砕ける。


 あたりは水族館のペンギンさんがいる所みたいになっている。魔装術を使っていなかったら相当寒いだろう。


 スタークは必死の形相だが、俺は危機感を抱くこともなく、剣を捌きながら語り掛ける。


「慌ててる? もしかして、俺のスキルを封印できる時間を気にしているの? もっとじっくり楽しもうよ」


 スタークは舌打ちをして、さらに表情を険しくした。


「調子に乗るな!」


 魔装術によって強化された氷柱のような蹴りが飛んでくる。至近からの攻撃でも俺にはゆっくりに感じる。


 軽く体をずらして避け、神聖魔法グロージャベリンを発動。俺の手のひらから放たれた光の槍がスタークに直撃し爆発する。


 これにはさすがのスタークにも効いたようで、一旦下がって俺と間合いを取って膝をついた。すぐさま後ろの三人が魔法を掛けて治癒している。


「俺さー、強くなったでしょ?」


「……ああ、想定外だ。だが任務は遂行させてもらう」


 スタークはそう言うと、腰のマジックバッグから何かを取り出した。青い宝石?


「蒼輝石だね。使用すると10分ほどスピードと反応速度がかなり上がるよ。カイトも本気出さないと怪我するかもしれないよ」


 了解。いっちょ全力で行きますか。


 俺は魔力を全開放し神聖魔法を構築。全力の魔装術で全身を覆う。一方でスタークの手のひらで蒼輝石が砕ける。


「いくぞ!」


 スタークは俺に向かって駆け出した。その速度は先ほどまでとは段違いだ。


「おおっ」


 思わず声が出る。速い! 俺の胴を狙った横薙ぎを剣で受け止めると、魔力を込めた剣同士がぶつかり轟音が大地を揺るがす。俺とスタークの間で火花が散った。


 長年の研鑽と、数多の戦に勝利してきたであろう力強く的確なスタークの剣技。それが蒼輝石の効果で鋭さを増し俺に襲い掛かる。


 アイギスの盾は無効化されているので、斬撃を受ければダメージを受けるだろう。そんな中でも俺は落ち着いて対処できていた。


 ノエルの剣に比べると、物足りないな。


 余裕とまでは言わないが、必死の形相のスタークが振るう剣を捌き斬り返す。以前はかすり傷程度しか与えられなかったが、今はダメージが通っているな。


 スタークの表情に焦りが滲み始める。


「ぐっ、このままでは……」


 俺は右手に持った剣でスタークの剣を受けつつ、左手でグロージャベリンを発動。至近より放たれた閃光はスタークに直撃して爆発する。続いて、チェーンバインドを発動。光の鎖でスタークを拘束した。


「このままでは、何? 今、負けを意識したね。楽しかったけどもういいや。この勝負、俺の勝ちでいいでしょ?」


「クッ、殺せ。任務を果たせなかったとあれば、公爵閣下に合わせる顔がない」


「生憎、男のくっころは需要無いんだよ。今からお前を公爵さんのところに連れて行って、生き恥とやらを晒してらおうかな。俺もちょっと公爵さんに用事あるし」


「何を馬鹿なことを。公爵閣下が貴様ごときの相手をするものか! それに王都ムルドーラはここから300Km以上離れているんだぞ!?」


「公爵さんが必死になって取り返えそうとしたフィリスも一緒に行くんだから、喜んで相手してくれるでしょ。あと、距離なら多分問題ない」


 勝負がついてマユたちが俺の近くに集まって来たので、フィリスに聞いた。


「今からフィリスの実家に遊びに行ってもいい?」


「いいけど、どうするの?」


「フィリスに手を出すなって、公爵さんに直接言おうと思って」


「ここからだとかなり距離があるけど……」


「みんなの魔法を合わせて加速すれば、きっとすごく速く飛べるよ。やってみよう」


 光の鎖でぐるぐる巻きにしたスタークを持ち上げ「マユお願い」と視線を向けると「了解」と杖を構える。


 マユの能力で俺達を光の球体で包み込んで浮かび上がる。適当な高度まで上がったところで魔装術の応用で四人分の魔法を合わせて速度を上げると、勢いよく景色が流れていく。


 それにしても、うまく公爵さんと交渉できるかなぁ?


「私が今から教えるから、その通りに話を持っていけば、うまくいくよ」


 カークヨムルド王国の王都ムルドーラ目指して飛んでいる最中、公爵さんとの舌戦で負けないように、ノエルからいろいろ指導してもらうのだった。

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