冒険者ギルド

 ヨクア村を後にした俺は、のんびりと森の中を歩いている。獣道とまでは言わないが細くて整備の全くされていない道だ。


 遠くで獣の鳴き声が聞こえる。今の俺ならダイアウルフにだって勝てるはず。来るなら来い! 来ない方がいいけど。


 しばらく歩いていると、森の中を東西に走る街道に出た。オウデルさんに教えてもらった通りに東へと向かう。


 オウデルさんには方向のわかる方位磁針みたいな魔道具をもらったが、俺にはノエルという優秀なナビがいるので使ってない。


 道幅は5mほどだろうか、舗装されていない砂利道を歩いていると、時折歩いている人や馬車とすれ違う。異世界ぽくていいね。


 この道を東に進んで行けば大きな街があって、そこには冒険者ギルドがあり登録して身分証を作れば晴れて冒険者として活動できるらしい。


 ノエル、なんて街だっけ?


「アーリキタの街だよ」


 ありきたりの街なんだ……。


 冒険者って具体的に何するの?


「冒険者ってのはダンジョンに潜ってモンスターのコアとか鉱石を持ち帰って売ることで生計を立てている人だよ」


 ダンジョン?


「そう、世界中に点在している迷宮で、金属などが含まれた石を採取出来るし、モンスターが出てくる。深い階層ほど希少で高価な金属が取れるんだけど、出現するモンスターも強くなっていくよ」


 みんなで鉱石を取ってたら無くならないの?


「ダンジョン内の鉱石やモンスターは取ったり倒したりして一時的になくなっても、時間が経ったらまた湧くんだよ」


 へー、ダンジョンってこの辺にもあるの?


「ティバンの森にもあるよ。もうすぐ見えてくるから、入り口だけでも見ていく?」


 ぜひぜひ!


 ノエルに案内され街道から脇道へと進むと、そこはちょっとした町になっていて、多くの人でにぎわっている。行商人風の人が薬やら道具やらを売っていたり、各種武器を携えた人々がいる。


 ダンジョン入り口と大きく書かれた看板を見つけたので近づいてみた。地下鉄の入り口を思わせるような下り階段の前には行列ができていて、見張りをしている人がダンジョンに入って行く人たちを注視しているようだ。


 面白そう! 俺も入りたい!


「冒険者カードを発行してもらって、パーティーメンバーを三人以上にしないと、見張りの人に止められて入れないよ。まずはアーリキタの街に行こう」


 うーむ、早くダンジョンに入りたいが仕方ないな。


 ダンジョン入り口から街道に戻って東に進み、アーリキタの街へ向かった。




 * * *




 森を抜けると前方に高い壁が見えてきた。あれはもしや街を囲う外壁なのでは?


「その通り。あの外壁で害のある獣や虫が街に進入しないようにしているんだよ。外壁の上も街全体を魔法障壁で覆っているから、門以外からは簡単には進入できないようになってるよ」


 ノエル情報によると、アーリキタの街は直径15Km程のほぼ円形で、街を囲っている外壁には8か所に門があり、俺が街に入ろうとしているこの門は北西門とのことだ。


 門の両脇には警備員っぽい人が数名立っており、通行人を見ている。また、守衛の詰め所と思われる小屋も建っているが、特に止められて検査されることも無く門を通り抜けることが出来た。


 一人ずつ持ち物チェックとかされないんだな?


「変なものを持ち込んでいないか魔法でチェックされてるよ。この門と通路自体に鑑定眼鏡みたいな魔法が付与されているんだよ。毒物や爆発物を持っていたら止められるからね」


 魔法で見張っているのか。ところで、冒険者ギルドってどこなの?


「ここから一番近いところは、このまま大通りをまっすぐ行くと通り沿いにあるよ」


 冒険者ギルドっていくつもあるの?


「この街では、S、Aランク冒険者用の上級ギルドが1軒、Bランク以下冒険者用の一般ギルドが8軒あるよ」


 ふーん、ランク分けされているんだね?


「上級ギルドでは取り扱っている鉱石やコアの希少性、一度に動く金額が一般ギルドとはケタ違いだからね」


 そうかー、いつかは上級ギルドで活躍したいもんだ。


 ノエルの助言を聞きつつ歩いていると冒険者ギルドに着いた。一般ギルドとはいえ大きく立派な建物だ。


 敷地内には複数の建物がありいろんな施設がありそうだ。きっと酒場とかあって、昼間っから荒くれ者が飲んだくれているんだろうなぁ……。


「冒険者ギルトの敷地内に飲酒できる施設はないよ。それよりもあの正面の建物に入って。冒険者登録できるよ」


 ノエルの案内に従って多少ビクビクしながらも建物に入って行くと、長い受付カウンターがあった。窓口は15あっていずれも大勢の人が並んでいる。俺も空いていそうな列に並んだ。


 しばらく並んで待っていると「次の方ー」と受付嬢に呼ばれた。


 受付カウンターまで進むと、ちょっとあり得ない程美人なお姉さんが対応してくれるようだ。ギルドの受付嬢と言えば異世界職業の花形だもんな。俺が活躍したらきっと惚れてくれるはず。


「ようこそ冒険者ギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 綺麗なお姉さんの煌めくスマイルに、俺はゴクリと唾を飲み込みながら話しかける。


「冒険者登録をしたいのですが」


「それでは、こちらの水晶玉に手を当てて下さい」


 魔力測定的なやつか? 俺が触るとあまりの魔力の多さに割れちゃうのかな? などと考えているとノエルがツッコむ。


「カイトの今の魔力なんてたかが知れてるよ。そもそも魔力がどれだけ大きくても割れたりしないから」


 ソウデスカ……。


「冒険者志望のほとんどの人は身元確認なんてあったもんじゃないから、生態認証として肉体からは指紋を、霊体からは魔力の波動を読み取るんだよ。どちらも人それぞれ固有のものだからね」


 魔力の波動? 


「そ、魔力の波動を登録されるから、悪事を働くとどこに逃げてもすぐに捕まるから気を付けてね」


 俺のいる場所が分かるの?


「そうだよ、カイトも魔力の波動を感じ取れるようになれば、離れたところにいる人を判別することも可能になるよ」


 そうなのか……。なんかちょっと不安になってきた。


「問題を起こさなければいいだけだよ。冒険者なんてたくさんいるんだから、常に全員を監視している訳じゃ無いからね。登録が完了すればギルドカードが身分証明書になるから、真面目にやっている分にはメリットの方が多いいよ」


 ノエルの説明を聞きつつ、水晶玉に手を当てると一瞬光った。その後淡々と受付のお姉さんは指示する。


「ではこちらの申込用紙に冒険者として登録する名前を記入して下さい」


 申込用紙に名前をを記入すると、あっさり冒険者カードは発行された。受け取った水色のカードには大きくFと書かれていた。Fランクか……、一個飛ばしでランクアップしてやるぞ!


 そういえば登録料ってかからないの?


「商業ギルドが、冒険者登録の為の費用を出しているんだよ。冒険者がダンジョンから獲得してくる鉱石やモンスターのコアといった資源を確保する為にね」


「特にAランクやSランクの冒険者が持ち帰ってくる資源はとてつもなく貴重なんだよ。それらを加工して富裕層に売れば大儲けできる。でも、Aランク冒険者になれる者は五千人に一人いるかどうかなんだ」


「だから多くの人に冒険者になってもらって、その中から一人でもAランクになる者が現れればそれだけで商業ギルドにも冒険者ギルドにもメリットなんだよ」


 Aランク冒険者か……、いずれは俺もなりたいものだ。でも、取り合えずの目標はパーティーメンバーを見つける事だよな。


 やっぱり女の子がいいよなぁー。可愛い女の子と出合い頭にぶつかって、なぜかそのままパーティを組むことになったりして。などと、妄想にふけるのだった。


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