旅立ち

 目を覚ますと、傍らにはオウデルさんとアイリが心配そうに俺を見ていた。


 アイリは俺の手を握り「カイト」と消え入りそうな声で俺の名を呼ぶ。


「アイリ、心配しないで。俺は何ともないよ」


 俺が笑顔を作って声を掛けると、アイリの大きな目から涙が零れた。


 オウデルさんは俺に問う。


「それにしても何で無事なんじゃ? 怪我の一つもしてないじゃないか?」


「実は俺のスキルで……」


 オウデルさんの問いに、俺が答えかけたところでノエルが注意する。


「女神様に貰ったチートスキルは希少で強力だから、一般人に口外するとろくな目に合わないよ。信頼できる人だけにした方がいい」


 ノエルの言葉に本当の事を言うかどうか迷った。俺が言葉を詰まらせて下を向いていると、オウデルさんとアイリは察してくれたみたいだった。


「カイトは異世界人だからな。何か”ある”んだろう。何も言わんでいい。ワシ等も誰にも言ったりもせん。心配するな」


「ありがとう」


「礼を言うのは、こちらの方じゃ! カイト、アイリを守ってくれて本当にありがとう」




 * * *




 その日以降、俺は家事手伝いをこなしながら、オウデルさんに剣の稽古をを付けてもらっている。


 スキルポイントのマイナスが無くなったので、ステータスも徐々に上がっておりスキルも順調に増えている。


 今日はオウデルさんの狩りについて行った。


 オウデルさんについて森の中を歩いていると、小型犬ほどの大きさで尖った角が生えているウサギを発見した。


「ホーンラビットじゃ。あれならカイトでも倒せるじゃろう。やってみるか?」


 小声で言うオウデルさんに、俺も小声で「はい」と返事した。


 ホーンラビットが跳ねながら近づいてきた。剣を握る手に力が入る。


 このウサギは好戦的な性格みたいで、俺の姿を発見するや否や一直線に突進してきた。


 その上きちんと俺の心臓を狙って跳びあがり突いて来た。


 俺でも十分に反応できる程度のスピードなので、落ち着いて剣で角をいなし斬りつけると血が噴き出す。


 うわ……。飛び散った血に若干引くがホーンラビットを倒せた。ノエル、レベル上がった?


「上がって無いよ」


 ホーンラビットを倒して経験値とか手に入ってレベルが上がるのでは?


「獣を倒すことで肉体に負荷が掛かってステータスが少しづつ上がったり、経験が蓄積することでスキルを覚えたりするけど、レベルはモンスターを倒さないと上がらないよ」


 そうなの?


「ものすごーくかみ砕いて言うと、レベルって言うのは魂の強度で、モンスターを倒した際に飛び散るエネルギーを人の魂が吸収することで強化される。魂が強化されると肉体も強化されて全てのステータスが上がるよ」


 ふーん?


「まあ分からなくてもいいよ。とにかくモンスターを倒さないとレベルは上がらないって事だけ覚えておいて」


 良く分からないが、ノエルが言うのだからそうなんだろう。




 * * *



 

 俺がこの異世界へ来てから一月ほど経った。

 

 日課となっている剣の練習の相手をオウデルさんにしてもらっている。


 鍛えればレベルは上がらなくてもステータスは少しづつでも上がるし、スキルレベルは上がっていく。コモンスキルの剣術もレベル7まで上がった。オウデルさんに俺の木剣はかすりもしないどね。


 オウデルさんの基礎ステータスはいずれも300を超えており、色々なスキルを所持しているらしい。ノエル曰くAランク冒険者並みの強さとのことだ。




「カイトは筋がいいな。上達速度が異常じゃ。このまま鍛えれば将来は名のある剣士になれるかもな」


 天才スキルのおかげだろうな……。とりあえず無難な事を言っておくか。


「オウデルさんの教え方がうまいからだと思う」


「それはそうじゃ」

 

 豪快に笑って俺の背中をバシバシ叩く。痛い、HP減ってないよな?


 汗だくになっている俺にアイリがタオルを差し出してくれた。ダイアウルフの一件以来、アイリは俺を見る目がなんか違う気がする。


「毎日頑張るよね。なんでそんなに頑張るの?」


「俺Tueeeee&ハーレムの実現の為だよ」


「強くなりたいのは分かった。でも、ハーレムって何よ?」


「漢の夢だよ!」


「あの……さ、私じゃダメかな? ……私はカイトとならいいけど」


 アイリは顔を赤くして小声になる。


「え!? どういう意味?」


「女の子の言わせないで」


 アイリの言葉に食いつく。いや待て、アイリは美少女だから、それはそれできっと幸せだろう。だが! せっかく異世界に来てチートスキルを貰ったからにはハーレムを築きたいところだ。


「アイリは可愛いし、優しいから大好きだけど、ハーレムの夢は捨てがたいんだ」


 アイリは頬を染めつつも半眼で湿った視線を俺に向ける。


「もしかしてカイトってバカなの?」


 横で聞いてたオウデルさんが笑いながら言う。


「ワシも若いころはそんなじゃったよ。カイトよ、冒険者になったらどうじゃ? ダンジョンを深層まで潜って名声をあげれば女にもモテるじゃろう」


「冒険者なるー」


 こうして冒険者になる為に旅立つことを決めたのだった。




 * * *




 そして出発当日。玄関先でオウデルさんとアイリに見送られる。


「カイトはスケベだから、変な女に簡単に騙されないように気を付けなさいよ!」


 アイリは厳しめの表情で語気を強めて俺に注意するので「分かってるって、なるべく気を付けるよ」と返事をしておいた。


 それでもアイリの表情は変わらずに視線を落として小声でブツブツ何かを言っている。

 

(変な女に騙されるくらいなら、私が相手してあげるのに……)


 俺が「なんか言った?」と聞くとアイリは顔をあげて「何でもない」と慌てた様子で首を振った。


「これはワシからの餞別じゃ。持っていけ」


 オウデルさんは何かが入った袋を俺に渡した。中を確認すると1万イェン札が1cm程の厚さの束になって入っている。


 こんなにいいの? と思い、オウデルさんの顔を見た。


「いいから持っていけ。応援しとるからな! ワシより強くなったら帰ってこい。その時はアイリをカイトにやろう」


「ちょっと、お父さん!」


 アイリは頬を染めて、オウデルさんに抗議の視線を向けてから俺を見る。


「いつでもここに帰ってきてね。ここはもうカイトの家でもあるんだから」


 俺がオウデルさんより強くなるのは多分無理だから、そう言ってもらえると助かるな。


「アイリ……、ありがと」 


 俺は大きな声で「いってきます!」と言ってオウデルさんの家を出発した。




 * * *




 カイトのステータス


 レベル       1


 HP        8 

 MP        0

  

 体力        8 

 筋力        7

 魔力        0 

 反応        9 

 俊敏        8

 器用       10

 

 スキルP     13 

 

 所持スキル 


 アイギスの盾 天才 物知りさん


 アイテムボックス (機能制限中)


 洗濯LV6 掃除LV8 料理LV5 皿洗いLV6 薪割りLV6 農夫LV7 剣術LV7


 

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