(ⅱ) a、詠唱の文末が名詞の場合
前回引用した校歌に、私なりに句読点を付し、改行します。
ここ南海の
おお
歌詞〔
句読点のない詩歌に句読点を付すのは効果的です。少なくともどこで文が切れるのかがわかり、それが文法の規則に従っていることを明示することにもなるからです。
歌詞も詠唱文も文である以上、文法的な制約があるとみなすのが普通です。そうでなければ、読者は理解することも共感することもできません。
一方、あえて文法的には変だと思わせて意外性をもたらせることもあります。「破格」と呼ばれます〔破格表現はいずれ例を追加予定〕。
句点(。)の前の言葉は、「城」「誇りなれ」「智辯学園」「和歌山高校」です(あるいは「神撫台」のあとは読点ではなく句点の方がいいかもしれません)。
一番多い文末は、「城」「智辯学園」「和歌山高校」という「
これから先、句点(。)だけではなく、読点(、)のところでも、「文末」として処理しています。ただ、上記の「聖く」「揺ぎなく」のような読点(、)は「文末」として処理をしていません。句点か読点か、どちらか悩ましい場合にそういう処理をしています。
【引用1】名詞の定義〔『日本語文法がわかる事典』276頁〕
品詞名の一つ。自立語で活用がなく、単独で主語となることができる。人や事物の名称を表す。
「単独で主語となる」とは、主語を示す格助詞「が」を用いて「○○が」と言えるということです。「私が……」「学校が……」と言えるので、「私」と「学校」は名詞です。なお、名詞のことを「
「走るが……」「ないは……」とは言えないので、「走る」と「ない」は名詞ではありません。
ただし、例外もあります。「『走る』が動詞で、『ない』が形容詞だ」という文は成り立っています。言語を対象に語る時の言葉を「メタ言語」と言い、この場合には主語になっています。
ところで、「は」は主語を示す格助詞ではなく、主題・題目を明示する助詞です。
「僕はウナギだ」という有名な文があり、これは主語を示しているわけではなく、「僕について言えば、ウナギだ」という意味であり、定食屋で注文する時に発話される文です。他にも「象は鼻が長い」「コンニャクは太らない」が有名です。古典でいえば、『枕草子』の冒頭「春はあけぼの」が例に挙げられます。
さて、「
品詞は言語や考え方によって異なります。
たとえば、英語には形容動詞という品詞はありませんし、日本語教育の世界では形容動詞は「
文とは何らかの意味やメッセージ性を持つものですが、一単語でも文になり得ます。山を見て「山!」というのは文です。
名詞は文末に来ることができます〔「名詞述語文」という言い方もあります〕。
詠唱文においては、名詞を文末にすると歯切れが良くなったり、適度な余韻を感じさせたり、名詞を重ねて用いて
次に引用するのは1999年にエニックス〔現スクウェア・エニックス〕が販売した『ヴァルキリープロファイル』というゲームです。
主人公レナスが地上に降りて死者〔エインフェリア〕の魂を天界に送り届けて、戦をするという内容です。
このゲームの大魔法の詠唱文も有名で、一つの詠唱文を何人もの声優が吹き込んでおり、詠唱文の言葉も微妙に異なっています〔YouTubeに動画があります〕。
【引用2】『ヴァルキリープロファイル』〔1999年〕大魔法「イフリートキャレス」
イフリートキャレス
「儀式」の後は読点(、)でもよい気がしますがここでは句点にします。
「儀式」「抱擁」のように名詞で終わっています。また、「~は~の~。」という対句表現もあります。
「其」を「それ」ではなく「そ」という読み方にするとぐっと詠唱らしさに近づきます。「それに〔捧げるは〕」という3字よりは「そに〔捧げるは〕」という2字の方がよいでしょう。
『ヴァルキリープロファイル』から名詞で終わる詠唱文の他の例を挙げておきます。
【引用3】『ヴァルキリープロファイル』大魔法「カラミティブラスト」
カラミティブラスト
【引用4】『ヴァルキリープロファイル』大魔法「ブルーティッシュボルト」
ブルーティッシュボルト
ところで、声優はどういう意識をもって声を吹き込んでいるものなのでしょうか。
『ヴァルキリープロファイル』シリーズでレザード・ヴァレス役をした
【引用5】『ヴァルキリープロファイル2―シルメリア― 公式コンプリートガイド』〔2006年、629-630頁〕
――戦闘ボイスの収録はいかがでしたか?
子安 戦闘ボイスは楽しかったですね。レザードの戦闘ボイスは、すごく好きなんですよ。大魔法を撃つときの長い呪文もそうですけど、それ以外のセリフもすごい好きです。実はあの魔法のセリフは少しこだわりがあって、大魔法じゃない普通の魔法は、もうどうでもいい、ぐらいの気持ちで言うようにしているんです。もうめんどくさい、本当は言いたくない、ぐらいの扱いでやってます。レザードぐらいものすごい人なら、力を入れなくてもあれくらいの魔法は出ちゃうと思うので。
〔中略〕
――大魔法の詠唱は本当に力が入っていました。
子安 あそこは力入れてます。ファンのなかには詠唱がかっこいいって言ってくれてる人がけっこう多いので、力を入れさせていただきました。
ついでに子安武人が演じ、またレザード役に近い人物〔闇を抱えたメガネキャラ〕の詠唱を、『テイルズ オブ ジ アビス』〔2005年〕から一つ挙げておきます。『テイルズ オブ ジ アビス』はシリーズのファンの中でも人気のある作品の一つです〔ちょっと暗いけど〕。
【引用6】『テイルズ オブ ジ アビス』ジェイド・カーティス「ミスティック・ケージ」
ミスティック・ケージ!
力というものを、思い知りなさい。
詠唱後に「力というものを、思い知りなさい」のように一言添えるのも詠唱ではよく見られることです。
テイルズ オブシリーズで有名な詠唱、「
次の引用は『Fate/Grand Order』〔フェイト・グランドオーダー〕です。みなさんの中にはスマホで遊んでいる人もいるかもしれません。
『Fate』シリーズは2004年からビジュアルノベルのゲームとして発売されて、様々に展開してきました。
説明が難しいのですが、とりあえず「サーヴァント」と呼ばれる
なお、『FGO』からの引用については「FGO攻略Wiki」の「宝具のセリフ一覧」から選び、YouTubeに挙げられている動画を確認して引用しています。
【引用7】『FGO』・アサシン・
我ら群にして個、個にして群。百の
いざ! 『
すぐにわかることは、「~群。~群。」と
また、「群にして個、個にして群」のように「ABBA」となる表現を「
漫画『
1文目の最後と2文目の最初の「千里馬」が鎖のようにつながっています。こういうのは書き下し文で読むとわからなくなってしまいます。
a b b a
世有伯楽、然後有千里馬。千里馬常有、而伯楽不常有。
なお、「
さて、【引用6】に戻ります。
ここでは「個」→「群」→「百」→「千〔変〕」→「万〔化〕」となっており、面白い表現です。
なお、仮に「~にして個、個にして群。群にして~国。国にして~世界。世界にして……」のように前の文の末尾の言葉を受けて、その言葉を使って大きくなりながら次につなげていく「
中国の古典『孟子』の冒頭近くに、次のような表現があります。
【引用8】『孟子』「梁恵王章句上」〔宇野精一『孟子全訳注』9頁〕
万乗之国、弑其君者、必千乗家。千乗之国、弑其君者、必百乗之家。万取千焉、千取百焉、不為不多矣。
そもそも万乗の国において、その君を弑するような者は、必ず千乗の領地を持つ
「一→十→百→千→万」や「万→千→百」のように数値だけではありません。
「
【引用9】
うまき物
また、ことわざに「
この「
読み手や聞き手に効果的に伝える表現の工夫や修辞技法のことを「レトリック」と呼びます。体言止め、倒置法、繰り返し〔リフレイン〕、比喩表現などはレトリックです。
読者は小説の内容やテーマやキャラクターの性格や
「作者〔書き手〕の文体」というものが他の作者とは異なる感じに受けるのは、多くはこのようなレトリック表現にあるのだろうと思われます。
このレトリックについては今後まとめて詳述する予定です。
さて、何かが段を積み重ねていくように増えていく、あるいは逆に減っていくとその際限はどこまであるといえるのでしょうか。視点で考えると、クローズアップしていく、あるいは逆にしていくと、どうなるのでしょうか?
これを平易な言葉を用いて詩で表現したのが金子みすゞの「蜂と神さま」です。
【引用10】金子みすゞ〔1903-1930年〕「蜂と神さま」
蜂はお花のなかに、
お花はお庭のなかに、
お庭は
土塀は町のなかに、
町は日本のなかに、
日本は世界のなかに、
世界は神さまのなかに。
さうして、さうして、神さまは、
小ちやな蜂のなかに。
【引用11】FFT・侍「清盛」
〈句読点・改行の処理〉
慈悲あれば、許し給うは剣の心。
悪を裁くは無心の剣!
清盛!
これは「剣の心」の後は句点ではなく、読点でもよいかもしれません。
「許し給うは剣の心。悪を裁くは無心の剣!」の2文は「~はAのB」のように、対句表現にもなっていますし、「剣の心」と「〔無〕心の剣」は言葉が交差しており〔「AのB、BのA」〕、視覚的にも面白いものになっています。
これは2つの文があってこそ成り立つ表現ともいえるでしょう。「数学は感性の音楽、音楽は理性の数学」という言い方もあります。
FFTには音声がないので正確な読み方はわかりませんが、
声に出して違いを確認してみてください。
慈悲あれば〔5〕
許し給うは〔7〕
悪を裁くは〔7〕
あるいは、「
「
今回は文末が名詞になる場合を見てきました。
次回は(ⅲ)、詠唱の文末が助詞、命令形の場合を見ていきます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます