ギルド。そして鍛冶師に
「う、うっわすっげぇ……!」
「むっちゃ可愛いなあの人……!」
「やっべ、惚れちまった……!」
「どうやったらあんなに可愛くなるのかしら……!」
冒険者ギルド、そこは圧倒的に男性の比率が高く、更にダンジョン帰りの冒険者も多いことも相まって、外見や内装の割には優雅とは程遠い場所である。
そして前述した通り圧倒的な差がある男女比率によって、男性冒険者は日々出会いを求めているのである。
だからギルド内でのナンパはもちろん、ダンジョンの中でそれっぽい冒険者を見つけたら手当たり次第に声をかけていく者もいるらしい。
そのため、冒険者ギルドに出向く女性冒険者はみんな変装をしていたり、人が少ない時間に行く人が多いそうだ。
だから一人で行かない方がいい。せめて人が少ない昼間にいけ──なんて言われたが、ここ以外に頼れそうな場所はないとも言うので、行くことに。
もちろんいきなり襲われるようなことは無いだろうが念の為……、話してくれたおばさんから護身用のナイフを売ってもらった。
ちなみにだが、女神さんが用意してくれていた1万リンカだが、ナイフ一本2000リンカだったため円に直すと1万円くらいか。
あ、2000リンカ使ったから8000リンカしか残ってないや。
でも身を守るためには必要な出費なのだと割り切り、冒険者ギルドに向かい、その扉を開いた。
「……ふふんっ♪」
勝手に道をあけてくれる冒険者を見ながら、私は胸を張る。
……胸を張る。
胸を──
悲しみが込み上げてきたので、首を振って忘れる。
そう、たかが貧乳されど貧乳……あんなのただの脂肪の塊だから巨乳=太っている、って解釈になる。
だから胸なんて重要じゃない。
それに私は今、貧乳なんか屁でもないモノを手に入れているのだから。
「……ふふふんっ♪」
そう、美貌だ!
いや、殺人的可愛さだ!!
小川を覗き込んだ際、私は戦慄した。
そう、そこに映っていた顔は、ちょー可愛かったのである。
まず目を引くのは明るい赤色の髪、水面越しでも分かるくらいにサラサラとしているのが見て取れる。
そして次は眼、くりっとした丸い瞳に赤色と対比関係にある緑のちょっと青側によった明るい青緑。
最後に少し丸みがあるけれど、シュッとしたお姉さんのような顔立ちにスタイリッシュな16歳頃の身体。
女である私も息が詰まるくらいに可愛い。
そんなだから出会いに飢えている男性冒険者からしたら、入口から入ってきた私は女神か天使に見えたのだろう。
いまや場は静まり返り、コソコソと話す声しか聞こえな──
──あれ、普通に女の子居んじゃん!?
ギルド内を見渡していると、テーブル席に座り何やら談笑している女性冒険者グループがある。それも一つや二つではない。
そのうちの全て、とはいかないが対抗心を燃やしてこちらを鋭い目付きで見てくる女性陣から目を逸らしつつ、あのおばさん騙したな……と、心の中で毒づく。
「冒険者ギルドへようこそ。どのようなご要件ですか?」
いつの間にかギルドの受付カウンターまで辿り着き、カウンターの受付嬢さんが顔色一つ変えずに対応する。
「仕事を探しに来たんですけど、冒険者登録とかいるんですよね?」
「冒険者登録ですね。かしこまりました。」
そう言って、一枚の紙を取り出す。
本当は冒険者なんてなりたくないのだが、お金を集めるためには仕方ない。
仮に鍛冶師や薬師として店を開くにしても、店舗や材料費に必要な経費を集める必要がある。
それなら借金でもすればいいと言う人もいるかもしれないが、借金なんてしたくない。
後で取り立てに来られるのは目に見えているからね。
「こちらに名前を書いて指印をお願いします。所持スキルの記入などについてはいりません。表示されるので」
「わかりました〜。ここに名前でいいんですよね?」
首を縦に振ったので、ユリゾノ・ヒナタと書こうとした。
だが、今更のように気がつく。
日本語じゃないじゃん、と。
凍ってしまう私。
受付嬢は黙って私を見る。
なんだこの状況、なんなら後ろから大勢の冒険者が見てるし。
そう、ここは異世界だ。
だからもちろん日本語なんて使われているわけがないのだ。
受付嬢さんの首にかけられている名札なんかを見ても、日本語じゃない異世界語だし、読めるわけが……。
いや、読める、読めるぞ!
ほうほう、この受付嬢さんはフェルテさんというのか。
なんだかよく分からないけど、文字が読めるようにしてくれたのも女神さんのおかげか。
感謝感謝……。
となると……もしかしたら分からなくても書けるかもしれない。
すると、それぽい文字が頭に浮かんできた。
──よっしゃいける!
スラスラっと頭に浮かんできた文字を書き、人差し指で指印する。
その紙を確認、受け取った受付嬢のフェルテさんは、今度は石版のようなモノを取り出し、その上に紙を置いた。
途端、空中に半透明なタブレットのようなものが出現した。
なんか某有名ゲームみたいだ。
「名前はヒナタ・ユリゾノ。
年齢は18歳。
職業適性は魔女、鍛冶師、薬師。
スキルは魔法制作レベル
以上、これがヒナタさんのステータスで……」
言い終わったところで、フェルテさんの動きが止まる。
聞いていた私や後ろで聞いていた冒険者も含めて、全員が止まった。
「…………す、スキルの数がいち、にい、さん、よん……7つあるね……。これってもしかしなくてもヤバ──」
「なななななんて数なんですか!?!?!?」
「で、ですよね〜……」
さっきまで冷静沈着で、あんまり感情がなかったフェルテさんが驚きのあまり椅子を倒して立ち上がる。
後ろからもワイワイキャーキャーあーだのこーだのヤベーなどと騒いでいる。
「そ、そりゃヤバいよね。最初からだとなおさら──」
「さ、最初から……ッ!?!?!?!? いま最初からって言いました!?」
「ま、まあそうだけど。さっき転生してきたばっかだし……」
「て、てんせ………………な……るほど……」
どうやら納得したらしいフェルテさんは、「コホン」と咳払いすると、落ち着きを取り戻しつつあるが、所々未だ驚きが隠せていない声音で話す。
「じ、事情はわかりました。ひ、ヒナタ・ユリゾノさん、あなたは凄い才能をお持ちです。特に鍛冶師と薬師としての才能は。なので少々そこで待っていてください」
「わ、分かりました」
フェルテさんが席を立って奥に消えて5分ほど経った頃、フェルテさんはなにやら大柄な袋を持ってきた。
「こちら、ギルドからの特別支給品です。強制は出来ませんが、ギルドとしてあなたには鍛冶師か薬師となって貰いたい所存です。」
「えーっと……このジャラジャラなってる袋の中身って……」
「チャリーンです」
「あ〜……なるほど、チャリーンね……」
チャリーン、すなわちお金。
なんかすごいギルドの暗部を見てる気がする。
「そして、専属鍛冶師、専属薬師となって頂けるなら、我々ギルドから素材や場所を提供させていただきます。」
「……ほう……」
正直、いいかも。
つまりギルド側としては、凄そうなスキル7つ持ちの私をどうしても引き込みたいわけだ。
それに場所や材料費までも出してくれるなんて、こんな好条件はない。
「……じゃ、じゃあ……」
だがここで言葉が詰まった。
ここまで人生上手くいくものか? と。
確かに提示された条件はとても素晴らしいものだ。
だがあまりにも良すぎて、かえって不信感を煽られる。
チラッと横に目を送る。
そこにはいくつかの武器が陳列されていて、どれも眩しい位の輝きを放っており、ただものではない事が素人目にも分かる。
あれを作ったのは誰だ? いや、知らなくても分かる。
おそらくギルド専属鍛冶師によるものだ。
だが辺りを見渡してもその鍛冶師たちの姿は見えない。
それに冒険者達も、見る限り誰が作った武器なのかとか考えて居ない人ばかり。
これ、前世の再来では?
前世の仕事はお客と接することなんてなかったし、仕事してて人の役に立っているのか分からなかった。
だからお客の声がとか聞こえるはずがないし、貢献している、喜ばれてるなんて微塵も思わなかった。
これはギルド専属鍛冶師というのも同様なんじゃないか。
仕事環境がどんなのかは知らないが、少なくとも自分の作った武器を買った人なんて知るよしもないだろう。
決めた、私、個人経営の鍛冶師としてお客さんと向き合って生きていく。
絶対前世と同じ運命は辿らないためにも。
「ごめんなさい。やっぱり私の性にあわないと思うので、申し訳ないのですが個人経営の道を行かせてもらいます」
悩んだ結果、そのような結論に至った私は、丁重にお断りした。
その決意に後悔は無かった。
楽しく異世界を生きるため、楽しく異世界で仕事をするため、やり甲斐のある仕事に着くため、私は私なりの最適を見つけたのだから。
ただ、すこし悲しかったことと言えば、
「……そうですか。残念です。個人経営でしたら、ギルドからの特別支給品は返してもらいます」
「えっ……!?!? そ、そんなぁ〜……」
残り所持金8000リンカ、これでどうしろと……。
とりあえず冒険者登録した後、トボトボと私はギルドを後にした。
ちなみに、冒険者登録のために5000リンカ必要だったので、残り所持金3000リンカ……。
「厳しい世の中だなぁ……」
こんなことなら社会保障なんかがあった日本の方が、よっぽど生きやすかったのでは……?
金欠と先の見えぬ未来のせいで、そんなふうにまで思ってしまった。
結局、世の中金なのだ。
異世界であってもその本質は変わらない。
美貌や可愛さだって、見方によってはグラビアとかソーユー系で稼げるものなのだ……。
「…………いーや違うな」
私はマイナスに傾きかけていた思考をプラスにするべく、頭を上げる。
そうだ、私は「褒めたら伸びるタイプ」つまり褒められたら人一倍喜べるのだ。
だから前世で私は孤独死したし、ギルドの提案も断った。
自分で作って、自分で売って、喜んでくれる人たちの笑顔を見る。
たとえそれがお金を介するものであっても、それだけの価値のある物を作ればいい、それだけ喜んでもらえればいいのだ。
そのためのスタートライン、まず自分の店を手に入れるためには相当な時間と苦労がいるが、その分達成した時の感動は素晴らしいものだろう。
「…………よぉ〜し! 頑張ろう!」
気合を入れるべく、右手を突き上げたその瞬間、後ろから声をかけられた。
「あ、あの〜……ちょっといいでしょうか?」
「ん? どうしたの?」
肩越しに振り返ると、そこには一人の女の子が立っていた。
見た目13歳くらいか?
右手を降ろしてちゃんと見てみると、なにやら腰に剣を下げている。
流石は異世界といったところだ。
こんな小さな頃から仕事をするのか……。
それとも冒険者が特別か?
と、少女が話し出すまでに考えてみたが、少女は緊張して言葉が浮かばないのかモジモジしている。
「どうしたの? おねーさん優しいからなんでも言って!」
腰を曲げて、目線を同じにした。
「そ、その……私の剣を作って欲しいんです……!」
「……ほう」
……なんと、早速依頼が来たか。
だが残念なことに私はまだ鍛冶道具を持っていない。
「凄い嬉しいんだけどごめんね……? まだ道具がないから作れないんだよ」
いつか作れるようになったら沢山作ってあげるから!
私の言葉を聞いて、落胆してしまうかと思ったら、少女は首を横に振った。
「ど、道具は私のおじいちゃ──祖父が使っていた道具を使ってください。」
「えっ……!? いいの……!?」
一瞬何を言ったのか分からなかったが、わかった途端私は嬉しさのあまり、その子の手を握った。
「は、はいもちろんです。……そ、その、だからお、お代は5000リンカぐらいで……」
「うぅん! お代は要らないよ!!」
「……え?」と目を見開く少女。
私は満面の笑みで言った。
「だって初めてのお客さんなんだもん!」
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