転生2
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意識が覚醒してきた。
身を起こしてみる。
周囲には森が広がり、ここだけ広場のように木が生えていないし、小さな川も流れている。
町に続いてそうな小道もあるため、ゲームで例えたらスタート地点のような雰囲気の場所だ。
実際そうだけどね。
続いて容姿の確認だ。
これは大事、ほんとに大事だ。
まず服装を見てみる。
なんだろう、一言で表すとなんか魔女っぽい感じのローブを着ているようだ。
「……これは?」
何となくポケットの中を探っていると、中に一つ硬貨が入っていた。
「1万リンカ……なるほど、これはこの世界の通貨っぽいな」
たぶん女神さんが用意してくれたんだろう。
感謝感謝……。
「あれ? なんか置いてある」
ブーツの横に、何故か布が、いや服が積み重ねられている。
それも2セットも。
広げてみると、1セット目は可愛い装飾が施されたメイド服のような感じの服……というか衣装。
もう1セットは全体的に濃い灰色の、なんというか火を扱うよな職業の人が来ているような分厚めの服……というかコート。
一体どういうチョイスだ??
恐らく、いや絶対これを用意したのはあの女神さんだろうが、どんな意図で用意したのかさっぱり分からない。
まあ神の考えることなんて一般人には理解出来ないだろうな、と自己解決。
次は髪色を確認してみよう。
感覚的にどうやら髪の長さはそこそこ長いらしい。
ギリギリ腰の高さくらいまであるだろうか。
あとヘアバンドがついてる。
右手で左右に垂れている髪を見える位置に持ってくる。
「おー! 赤髪じゃんっ!!」
それもただの赤髪ではなく、明るい赤色をしている。
それにさらさらとしていて触り心地も良いし、なんならちょっと光沢もあるようなないような……。
とりあえず、髪色は大当たりだ。
気を取り直して次に行く。
「──よぉし……」
気合いの声とともに、私は気を引き締める。
次に胸、繰り返す、胸だ。
前世じゃ万年Aカップで、かなりのコンプレックスを抱いていたのだが、今世はどうだ。
髪も長くなっていたのだから、胸も大きくなっているはず。
「……ごくり」
目を瞑り、恐る恐る手探りで触れてみる。
見たら早い話だが、それだとちょっと味気ないのと少し嫌な予感がするから見たくない。
「…………?」
……あ、あれ、まだ触れないぞ。
かなり近づけて来ているというのに、帰ってくるべき反発が一向に訪れない。
「……あぁ…………」
無気力な声が出る。
喘いでいるのでは無い、嘆いているのだ。
見事に胸だけは前世を忠実に再現してくださった女神に向かって怒りと悲しみを込めて……。
生気の無い目で下を見る。
慣れ親しんだAカップがそこにはあった。
そう、Aカップが──
「な、なんだよぉー!!!!」
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁっ!!
異世界転生したのだから胸ぐらい大きくなってくれてもいいじゃないか……。
これは無茶苦茶落胆してしまう。
せっかく貧乳から脱却できると思ったのに……。
「胸が重いわ〜」なんて戯言を言ってみたかったのに……。
あまりのショックの大きさに、立ち直るまで3分を要した。
「……異世界だし、きっと、魔法とか、薬とかで大きくできる……はず……」
何の根拠もない希望を抱きつつ、最後に顔の確認が残っている。
正直、胸の事で頭がいっぱいなのだが、顔は胸と同じくらい重要だ。
なぜか。
胸や顔は外部から見える部分であり、その中でも真っ先に見られる箇所なのである。
それに、これは男性のみならず、女性にも威嚇と自慢を向けられるのだ。
だから美貌というのは必要不可欠。
それにどうせ異世界転生するなら美少女になりたいしね。
だがしかし、今は自分の顔を見るのがちょー怖い。
なぜならついさっき……いや今現在も期待を裏切られ続け、前世と同様の揺れないカラダになっているのである。
おそらくこの体を作ってくれたのはあの女神さんだと推測できる。
女神さんがどんな性格をしているのかは分からないが、意図的に胸を小さくしたとすると、顔も残念にしているに違いない。
……いや、だがもし体を作ったのが女神さんではないとしたら?
そういえば、転生する瞬間の光に包まれて意識が無くなるまでの間に「戦闘はいやだから鍛冶師とか薬師になりたいな〜」とか「魔女になったら可愛くてモテるんだろうな〜」とか考えていた。
私の服装は魔女っぽいローブ。
傍らには可愛らしい装飾が施されたメイド服のような服、そして火を扱ってそうな職業が着る厚手の服。
ローブは魔女、メイド服は薬師、厚手の服は鍛冶師。
3つとも私の願った通りのことだ。
「……とするともしかして……!」
女神さんに容姿はどんなのがいいか聞かれた際「超絶美少女の若い可愛い女の子」と頼んだはず。
私の願いがそのまま転生後の姿に汎用されるのならば、私の顔は最っ高に可愛いんじゃないか?
そう結論に至った瞬間、私は小川に駆け寄り、キラキラ透き通った水面を覗き込んんだ。
瞬間、私は戦慄した。
「わあ…………っ」
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