師匠、エルダリアさん
「────とまあ、こんな感じに剣が作れるってわけだ。 どうだ、覚えられたか?」
「はい、覚えました! お陰様でお孫さんに最高の剣を作ってあげられます!!」
町で話しかけてきて、最初のお客さんになってくれた少女に連れられた先は、町外れの鍛冶工房であった。
「お、そりゃありがてぇな。こいつらもあんたみてぇな若くて可愛い嬢ちゃんに使ってもらえると嬉しいだろうよ。」
「そんな若くて可愛い嬢ちゃんってまたまた〜、それほどでもありますかね? あーでも、ほんとにいいんですか? 一時的ならともかく、鍛冶工房を丸々私に譲るなんて気前が良すぎませんか? 私としては嬉しいかぎりなんですけども。」
少女──エルリアさんに紹介してもらったこの鍛冶工房の主人である初老のエルダリアさんは、ハンマー
の装飾を手でなぞる。
「いやなに、俺ァ年取っちまってろくにハンマーも振れねぇしなあ、ただ取って置いとくのは無駄だし、こいつらも可哀想だと思ってな」
エルダリアさんは慈愛に満ちた表情で道具を見渡す。
エルダリアさんはつい3年前までここの工房で鍛冶屋を営んでいたらしい。
だが、年齢や疲労によるギックリ腰で倒れてしまい、それ以降家族の反対でハンマーを握らして貰えなかったのだという。
だが今年になって娘のエルリアさんが成人──この世界の成人年齢は12歳〜15歳の間らしい──し、冒険者になるためせっかくだし剣を作ってあげようと、エルダリアさんは3年ぶりにハンマーを握った。
しかし再びギックリ腰になってしまい、娘の剣を作ることが出来ず、仕方なく市販の剣を渡していたそうだ。
けれど孫であるエルリアさんはよっぽど自分の剣を作って欲しかったのか、それらしい人を見つけると片っ端から声をかけていたらしい。
だから鍛冶系のスキル熟練度がカンストしていた私にも声をかけたのだとか。
てかこんな若い少女もギルドに出入りしてるじゃん。
最初にギルドのこと教えてくれたあのおばさん、やっぱり嘘ついてたな……。
いつか会ったら問い詰めてやろう。
「ああそうだ、リアちゃ……え、エルリアが言ってたんだが、嬢ちゃんが鍛冶系スキルの熟練度をカンストしてるってのは本当なのかい?」
──リアちゃんとはなんぞや。
そう思ったが、もちろん口にしない。
「そうですね、たしか鍛治系は3つレベルが
3つと聞いてエルダリアさんは目を見開くが、「まあ私、転生者なんで」と言うと納得したようだ。
というかギルドでもそうだったけど、「転生者」って言ったらなんでも納得してくれるし、この世界じゃ普通に転生者って認知された存在なんだな。
「ちょっと悔しいが……そのぶんいい剣を作ってくれよな嬢ちゃん。」
「もちろんです! 誰にも作れないような剣を作ってみせますよ!!」
「お、そりゃ期待大だな。道具はもちろん、倉庫にもいくらか鉱石残ってるだろううから、そいつらも遠慮なしに使ってくれてかまわないぜ。」
「こ、鉱石もいいんですか!? 何から何までほんとにありがとうございます!」
ちょうどその時、鐘の音が聞こえてきた。
そういえばちょくちょく鳴ってたな。
「お、もうこんな時間か」
エルダリアさんが窓を見るので、私も続く。
すると窓の外はもう日が落ち、月明かりのみで照らされた景色になっていた。
色々説明を受けていたら夜になってしまったらしい。
「うわ、もうこんな時間……」
どうしよう、私今晩寝る宿なんて見つけてないぞ。
これは野宿ルートか……。
せめて屋根のあるここで1晩過ごさせてもらえないだろうか……。
だが幸い、野宿することも硬い地面で寝るようなことはなかった。
「よかったら家くるかい?」
「え、いいんですか!?」
結局その日はエルダリアさん家族の家で寝させてもらった。
なんなら夕食も食べさせてくれた。
ここまでしてもらったからには必ずその恩を返さなくては……。
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