第2話

スパイ活動において、色仕掛けは私の専売特許だった。

私は物心ついた頃からどうやら特段美人というわけではないが、男性から愛される才能を持っているらしいということに気がついた。


その才能を持って数々の男を踊らせてきた。元々私は気の向くままに歓楽街を転々としていたが、あるとき私についた客が本国の諜報部員の幹部だった。

何度も私を指名したのは、私の素性を探るためだった。

身寄りもなく根無し草の私は諜報部員としてぴったりだったらしい。


それからいくつかの国や地域を破滅に導いた。


とある国のトップは私とセックスするために、まるでスーパーマーケットに買い物にいくかのようにいとも簡単に戦争の引き金を引いた。

たった一人の男の性欲のために、何十万という命が犠牲になった。


男なんて簡単に手駒にとれる。少し甘い匂いをかがせたら、ころっと私の傀儡になる。


自信満々にそう思っていた私が、一人の男の手玉に転がされていたとは笑い種にもならない。


過去を思い出すと形容しがたい様々な感情が押し上げてきて、涙が溢れでてきた。


私は必要があれば意図的に泣くことができる。涙を武器として使え。そう訓練されてきた。


いつぶりだろう。自らの意思に反して目に涙をためるのは。


でもこの涙を利用して、彼を懐柔しようとは思わなかった。


間抜けな私は、この期に及んでも彼を生涯忘れることはない大切な存在だと思っていた。


ねぇ。泣き落としてハッピーエンドなんてつまらない物語は私たちにはありえないわよね。


彼。ケビンに出会ったのは、あたたかな風が鼻先を心地よくくすぐる気持ちのよい季節だった。

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