あの誰もが知る恋愛の名曲の主人公が女スパイだったら

いしかわさん

第1話

あの誰もが知っている名曲の歌詞を明後日の方向に解釈して物語にしてみました(妄想にあふれています。ファンのかたはご容赦ください。)。


なんの曲を物語にしているか分かる方がいらっしゃいましたらぜひコメントしてください👍️


今日の物語は懐かしの…あの甘酸っぱい名曲です。

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「どうした。早く言ってしまえ。」


彼のまるで抑揚と感情というものをを全てどこかへ置いてきてしまったかのような無機質な声は私に一層の疲労感をもたらした。


私は今メリーゴーランドの白馬に乗っている。


楽しそうに思聞こえるかもしれないが、まったく違う。ここは遊園地でも、デパートの屋上でもない。どことも分からない建物の薄暗い地下室。これはいわゆる拷問だ。


私は某国のスパイとして命を受けてこの国に潜入していた。しかし、下手をしてスパイということがバレて捕まってしまい、こうして拷問を受けている。


白馬の上に縛られて、一万ほど回ったところまでは数えていたが、それ以降は意識が途切れ途切れで覚えていない。今は何十万回回ったのだろうか。


こういう事態を想定して、拷問に耐える訓練はしていたとはいえ、実際に拷問されるのは始めてだ。


しかもメリーゴーランドに乗せられるなんて想定外。

こんなもの拷問でもなんでもない。時期を見て抜け出そう。とたかをくくっていたのが運のつきだった。

いまや平衡感覚は失われ右も左も分からない。視界は震えてぐるぐると回りなにも見えない。何度嘔吐し、血を吐いたかも分からない。


正直なところ、もう気持ちが弱気になって全てを喋ってしまおうかと考えたりもした。

しかし、全てを吐いたとして私の命の保証がされるわけではない。


私たちスパイは敵国に捕まって、洗脳や薬によって強制的に情報を自白させられることを防ぐために常に奥歯に毒薬を忍ばせている。

もちろん自決するためだ。


私も毒薬を忍ばせている。

けれど、まだそれを使う決心はつかない。頭はすごく熱い。対照的に手足の指先は凍えるほど冷たくなり、もはや自分の意思で動かすこともできない。辛い。苦しい。悔しい。


それでも恐ろしいと思うのが、これだけ痛みや苦しみを感じてもなお、私は生への執着から解放されないのだ。



ああ、私はこんなにも死を恐れていたんだー


ふと私はこれからのことを考えた。

ここでこのまま拷問を耐え続けて。彼からよく拷問を耐え続けた、解放してやろうなんて。

そして私は何事もなかったかのように普段の暮らしに戻って。


ふふっ。想像しておきながら荒唐無稽な話ね。私が普通の暮らしをするなんて。


そんなことを考えていると


ガコン。仰々しい音ともに白馬が急に速度を落とした。


白馬はゆっくりと主の指示に従うように上下に揺れながら止まった。


彼が私に近寄ってきて、私の顔に耳を寄せる。



「さあ、早く言ってしまえ。お前はどこの国のスパイだ。」



彼は私と出会ったときからケビンと名乗っている。「名乗っている」というのはおそらく本名ではないからだ。


だからおそらく彼が三人兄弟の末っ子で、幼少期はやんちゃばかりしていたけれど、今では経営者を目指してカフェでバイトしながら大学で経営学を学んでおり、いつもシャツの襟にミルクの染みがついてるような少しおっちょこちょいなのに、いざというときには私に寄り添ってくれる頼りがいのある性格というのも全部真実ではないのだろう。


ただ私が言える嘘偽りなく間違いがないことは、私にとって彼は紛れもなくケビンで、最初で最後の心から愛した人だったということだけだ。




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