第2話 最初の追放者
それはアルスが日課の本を自室で読んでいる最中のことだった。
コンコン!
「陛下、いらっしゃいますか?」
突然アルスの自室のドアがノックされた。
「ああ、いる。要件を言え」
大切な読書の時間を邪魔されたアルスは、少し苛立ちを感じて素っ気なく言う。
「はっ!何やら隣国のザーマイン帝国から来たらしく、あの剣聖ルフを名乗っているものが王に面会を申し出ています。」
その報告を聞いたアルスは、一瞬混乱する。剣聖ルフを名乗るものが面会しに来たと言われたのだ。アルスは聞き間違いかと思い、聞き返す事にした。
「すまん。今剣聖ルフと聞こえたのだが、聞き間違いかもしれない。もう一度たのむ」
「はっ!何やら隣国のザーマイン帝国から来たらしく、あの剣聖ルフを名乗っているものが王に面会を申し出ています。」
今ハッキリと、アルスの耳には剣聖ルフと聞こえた。
(一体どういうことだ? ただの偽物か。本物だとしら一体何が狙いだ)
アルスは現在の周辺国の情勢がどうだったかを思い出す。
ザーマイン帝国は、現在国の戦略として領土拡張を重要視している。
そのため周辺国によく喧嘩を売っては領土を切り取るということを頻繁にしている国だ。
ではこのカーマ王国が危険かと言われればそうでもない。なぜならザーマイン帝国との国境は険しい山脈があり、侵攻は不可能だからだ。
最も、ザーマインが他の国を征服して、別ルートから侵攻出来るようになれば、安心出来なくなるが。
そこまで考えると、やはりザーマインがこの国に剣聖を送り込む理由が分からない。
まずは会って話を聞いてみるか。
アルスはそう結論を出すと、支度をはじめた。
アルスが謁見用の部屋に行くと、既に剣聖らしき男が居座っていた。
アルスは注意深く男を確認する。その姿はアルスの想像を超えるものだった。
男の腕を見ると太すぎず、かと言って細すぎない腕は筋肉の塊のようであり、そして無数の切り傷で覆われていた。
今度は胴体に向けると、服の上からでも分かるその筋肉は巨大で、ここまで大きいのは今まで誰一人として見たことがなかった。
視線を上に向けると、人を大勢殺してきたような鋭い目と合った。
アルスはその瞬間悟った。こいつは確かに剣聖ルフだ。
「我がアルス王だ。お前が剣聖ルフだというのは認めよう。これでも人を見る目はある方だ。ザーマインの剣聖が何の用だ?」
剣聖ルフと名乗る男がそれを聞くと、ビクッと肩を震わせる。
「瞬時に認めてくださるとは光栄です。やはり噂に違わずアルス王は若く聡明だ」
「世辞はいい。さっさと要件を話せ」
アルスは読書の時間を取られていたこともあり、この面倒で厄介なイベントをさっさと終わらしたかった。
剣聖ルフはそれを聞くとアルス王の評価を上げる。余計な前置きはせず、時間の無駄を嫌う王は馬が合う。
「では本題に入ります。単刀直入に言います。私をカーマ王国に仕官させていただきたい」
アルスはあまりの予想外な言葉に脳をフリーズさせた。
アルスがフリーズしていると、アルスの護衛である、騎士団長のロウウェルが肩を震わせると怒鳴り散らす。
「何を言っている!?お前はふざけているのか!?」
予想通りな反応に剣聖ルフは肩をすくめる。
「いえ、本気ですよ。そうですね......話すと長くなりますが、端的に言うと私は帝国から追放されました」
そこまで言うと剣聖ルフは王の反応を覗う。
ふむ、やはり普通のお方とは違うようだ。ここまで衝撃的なことを言っても、アルス王は表情を変えず微動だにしていない。
剣聖ルフはアルスの評価を一段上げるとともに、この王に仕えてみたいと強く感じた。
と、ここでアルスはフリーズから復活する。
あの剣聖ルフがカーマ王国に仕えたい、か。それに確かザーマイン帝国から追放されたとか今聞いたような......
アルスは厄介な面倒が来たと思うと同時に、現在不在である宰相を恨んでしまう。
宰相は用事で出かけていた。
面倒に感じたアルスは、この謁見を早く終わらしたくて対して考えもせずに結論を出す。
「いいだろう。我が国に仕えることを許す」
「なっ!? 王っ!」
「ただし、剣聖と呼ばれていたからといって、いきなり大将の位は与えられん。一兵卒からだ」
一兵卒なら何か問題を起こしても、被害は大きくならないよな。
アルスはそう考えだした結論だった。
「ありがとうございます!この身、朽ちるまでアルス王に仕えることを誓います」
賢い判断だと剣聖ルフは考える。仮にいきなり将の位を与えても周りは反発するだろう。
だが、みすみす仕官の願いを断れば、剣聖という大きな存在を逃すことになる。
この王、今のところ俺が仕えるに値する男だ。
ルフはアルス王に謁見する前に、アルス王がどんな人物なのかを、この国の民に聞いて回っていた。
驚くことにほとんどの平民が皆、アルス王によって国が豊かになると思っている様子だった。
というのもアルスは自分が楽したいがために、身分を問わず有能な人材を積極的に登用していた。それは民からすれば、平等な王として認識されるのである。
ルフは知る由もないが。
そしてルフが謁見した所、アルス王は国を豊かにする素質がありそうだった。少なくとも馬鹿ではない。
国を豊かにするのは、他国に侵攻する必要性が場合によってはある。
アルス王がどういう考えなのかは今の所分からないが、仮に侵攻しなくてもザーマイン帝国ならいずれこの国に侵攻してくる。
そのときにこの剣聖と呼ばれたルフの復讐の機会が訪れる。その時までに出来れば将になっておきたい。
ルフはそう考えながら、この国で上を目指すことを決めるのだった。
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