隣国から有能なやつが次から次へと追放されてくるせいで気づいたらうちの国が大国になっていた件
さそり
第1話 王の誕生
ここはカーマ王国。
五百年間続く歴史ある国において、新たな王が誕生しようとしていた。
それは王国の歴史においても例がほとんどない若い王だった。
近隣の国々の中で最も古く、壮美な城の大広間において今まさに王の代替わりが行われている真っ最中だった。
玉座の横にたたずむ儀式用の服を身にまとった男が口を開く。
「ではこれより新たな王の誕生の儀式を行う。アルス王太子前へ」
「はっ!」
アルス王太子と呼ばれた青年は、この国の宰相と呼ばれる男の声に従うように、真っ赤な絨毯の上をゆっくりと歩いていく。
周りの数十といる貴族の目線を背に感じながら、アルスは玉座の前まで行くと足を止める。
宰相はそれを確認すると、落ち着いた声で次の指示を出す。
「ではお座りください。」
アルスはそれを聴くとゆっくりと頷き、玉座に座る。
アルスが玉座に座り前を見ると、先ほど背中に感じていた数十の視線が、アルスに刺さる。
これが玉座の重みか...父上は日々、この重圧を感じながら国を治めていた。
アルスは先代の王であった父親を尊敬するとともに、自分はこの国を問題なく平和に治めることが出来るか不安に押しつぶされそうだった。
「騎士を前へ参れ」
その声と共に、二名の騎士が前に進み出るとそれぞれ玉座の左右に陣取る。
その二名の騎士は剣を抜くと、二つの剣をアルスの前でクロスさせた。
進行役である宰相が、先ほどよりも重厚な声音で言う。
「アルス・カーマイン この国を平和にすると誓うか?」
「誓う」
一拍の遅れもなくアルスは答える。
「この国を発展させると誓うか?」
「...誓う」
一瞬、遅れて答えたが、どちらというと正直者なアルスはこの国を今より発展させるぞ!という気概は持ち合わせていない。
アルスの答えを聴き、宰相は満足げに頷くとアルスに目配せをした。
アルスはそれを見て頷くと、玉座から立ち上がった。
そして口を開く。
「我、アルス・カーマインが第三十二代カーマ王国の王に即位した! 皆の者!今から我に従えよ!」
アルスは精一杯に威厳そうな声で言う。
「ははぁー。」
広間に集った貴族達は全員頭を地面にこすりつける。
それが約一分ほど続くと、宰相が口を開く。
「ではこれにて、王の誕生の儀式を終了とする。皆、楽にせい」
それが聞こえるやいなや、貴族達は一斉に立ち上がると、あるものは会話に興じたり、またあるものはとある準備に取り掛かる。
「はぁ~、やっと終わったのか」
アルスも気の抜けた声を出す。
「そのような溜息を出すとは、王の威厳がないのう」
あきれた様子で宰相が言う。
「我はこれでいい。平凡な我はそもそも王には向いていないのだから」
続けてアルスは喋る。
「だから革新的なことはしない。ただ今の平和を維持する」
「なんともまあ、若いのに枯れた考えの王じゃ。今の言葉民が聞くと呆れられるぞい」
「まあなぜか我は、無駄に人気な王太子だったからな。民も生活が苦しくならなかったら、反乱なんて起こさないだろうし問題ないだろう」
何も問題はない。そんな表情をアルスは宰相に向ける。
「では我は引きこもる。後の挨拶に来るやつらには体調不良で王は休んでいると言っておいてくれ」
アルスはそう宰相に告げると、料理を運び入れている使用人達の横を通り過ぎて、そのまま部屋に戻っていった。
「はぁ...相変わらずじゃのう」
王の誕生の儀式の後はパーティーが開催される。なにせ数十年に一度の出来事だ。今頃、民たちも祭りを開いているだろう。
だが、引きこもり体質の王は興味がないらしい。
「アルス王太子を王にしたのは失敗したかのう」
思わず宰相は心の声が漏れる。アルスが若くして王になった経緯は先代の王が亡くなったからである。
そのため、自然と王太子であったアルスがそのまま王に即位することになったのだが、もう一つ大きな理由がある。
それはこの国の実質的な頂点である、このゴレーム宰相による力が大きい。
ゴレーム宰相はアルスの教育係なのもあり、アルスを早期に王にすることはつまり、己が早期に権力を握ることと同義である。
最もアルスもそれを承知で、国の仕事は全部宰相に丸投げして、自分は引きこもるつもりなので、協力関係である。
さてアルス王に変わって貴族の対応でもするかのう。
宰相は、料理が運び込まれパーティーの開催が近い事を感じ取ると、次の仕事に取り組む準備を始めた。
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