第40話 決河の勢い
小さな小川が飛び越えられずに、幼いカシューはグランドに弱音を吐いた。
「無理だよグランド。僕には無理だょ」
「カシューはいつも諦めるよね? 狩は諦めないで何日も
「うん…… 」
グランドは
収益の低下は、領地そのモノの存続さえも危険に晒していた。兵士の雇用に十分な資金を投入出来無い貧しい領地は、戦争や紛争等により、戦場と化してしまうと、侵略や略奪の対象になってしまう。領民を守る事さえも
貧しい領地は出生率にも大きく影響を及ぼし、農業を
グランドは午前中の剣の稽古を終えると、カシューの家の近くの畑にコソコソと現れる。勿論、親には内緒で遊びに行く為だったが、そんな小さな
「さぁ早くカシュー、怖くなんかないよ? 平気さ」
「だってぇ無理だよぉ」
「諦めたらその先に広がる景色が見れないよって、
「景色? 」
「うん、この世界はね、凄く広いんだって父様が教えてくれたんだ、色んな景色があるんだって」
「色んな景色…… 」
「そうだよ、見た事も無い景色が広がってるんだ。凄いと思わないかい? カシューだって見てみたいだろ? 」
「う~ん、グランドが一緒なら…… 」
「俺はカシューと、その先にある景色が見たいんだ。さぁ一緒に行こうよカシュー、だから諦めたらダメだ‼ ほらっ」
幼いグランドが手を伸ばした―――
―――互いに誓った遠き夢を叶える為に
折れかけた心に火が灯り、幼き頃の約束が蘇る。その先にある景色をグランドと肩を並べて見る為に、魂が情熱を
「がはっ――― 」
「まだだ、まだ終われない‼ まだだ、グランドぉ――― 」
カシューは勢いを殺す事無く、友の名を叫び
「カシューさんダメッ、嫌ぁ――― 」
甲高い
「―――――敵襲だ‼ 」
同時に砦の
―――なっ⁉ しまった……
恐れていた事態が現実となり、砦全体が爆音で地鳴りを起こすと、兵士達に動揺が広がった。急がねば取り返しのつかない事になる。
―――どうする……
判断を間違えてはならぬと
「この程度で誰が
「私が選んだ大隊長代理に間違いは無い! 指示に従い敵を討て。さぁ腹を鳴らせ、食事の時間だ」
「うおぉぉぉぉぉ―――――‼ 」
女将軍の
「私の役目は此処までだ、後は貴様に
「はい。必ずや閣下のご期待に添えるよう
「この非常時にシャマールの所在が不明なのは
「お心遣い感謝致します。閣下」
グランドはその覚悟を
「ヴェインもたもたするな早くしろ、もっと早く走れないのか? 」
「きいぃ化けモンのあんたと一緒にすんじゃねぇよ。こっちは心臓が口から飛び出ちまいそぅだってのによぉ」
両手を膝に突き立て腰を折り、肩で息をするヴェインに、
―――ナディラ……
(上手くやったみたいだな)
「畜生‼ やっぱり俺達を襲って来たのは、
「そんなに重いのなら、その肉の鎧を脱げばいいだろ? 」
「きいぃ化けモンの癖に人の言葉を上手く使いやがって、あー聞こえねぇ、なーんも聞こえねぇ、俺ぁさっき頑張ったの‼ だから疲れてんの‼ 筋肉は裏切らねぇの‼ 覚えてやがれ」
―――直後
砦の
「なっ⁉ クソが、ヤリやがったな」
「やられたな。これは間違いなく
「おいアンタ、今は肉の事は勘弁してやる。先に砦に向ってくれ」
いつの間にか笑みを失ったヴェインを黙って
「そんな顔も出来るんだなヴェイン…… 」
「ほっとけってんだ畜生め、頼む。グランドを頼む」
「分かった…… 先に行く」
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