彼のもとへ


ネーム『RIN』――現実の名前を『虎取鈴花』。


小さい手に持つ、そのナイフを草陰から放り投げ。



《 You're the winner! 》 



仮想空間。

『OG』……『OVER GROUND』の一試合が終了。


e-sportsにて特に人気の高いジャンルである、VRFPS。

それに力を入れているプロチーム……『ブラッドラクーン』に所属している彼女。

日曜ということでチームでの合同練習があった。


そして、昼過ぎにそれは終了。



「……あざした」

「あ、ありがとうございました……」



VRFPSというジャンルにおいて、近接戦闘はあまり行われない。

だが、そんな中でナイフを両手に持ち戦う……いわゆる“ナイファー”であるのが彼女。


本能のまま、獣の様に好きに暴れ――勝利をもぎ取る彼女にはファンも多い。


しかしその気性の荒さと、仲間の力を頼らないスタイル。

加えて激しい人見知り体質で、仲の良いチームメンバーはほぼいない。

そんな孤高の存在である鈴花は、気迫を放ちながら試合を一瞬で終わらせた。



(早くダガーと遊びたい……)



その一心で。

一応安くないお金を貰っている身の為、試合はもちろん、チームの為の練習にはキッチリ出て、本気でやる。

高校生という若さで『FL30万円』を手にする事が出来たのは、紛れもなくチームのおかげだから。



「……じゃ、おつかれした。また明日――」

「あっ! あのっ、リンさんってFLやってたりするんですか?」

「あ、確かに。どうなんですか?」



やる事は終わった。

チームチャットを離れようと思ったら、そんな声。



「……興味、ない」

「へー! OG一筋なんですね」


「……そんな感じっす。じゃ、おつかれした」



大嘘である。

その“プライベート”を知られたくないから、いつも嘘をつく。


……“狂鬼”か何かで呼ばれている『リンカ』が自分だと知られたら……お察しである。

彼女だって、白い目で見られるのは嫌なのだ。



《『OVER GROUND』を終了します》



ベッド、現実世界。

間髪入れず、そのVRギアを頭に装着する――



「あ……寝ぐせ」



前に、手鏡で気になった髪を整えて。



「……い、いや関係ないじゃん……」



無意識の行動に、自分で突っ込みを入れてから。



《『FL』の世界へようこそ!》



そして、彼女はその世界に降り立った。






「……フレンドリスト」



《ダガー 罠士 LEVEL27》

状態:オンライン

グリーンエルド・戦闘フィールドで戦闘中


○フレンド詳細

○チャンネル移動

○パーティー招待


「! もうレベル27じゃん……」



あたしがログインしていない間に、何があったのかは大体知ってる。


昨日の夜……SNSじゃダガーの名前が大量に流れていた。

あの『ダーティーキッズ』を倒して経験値を得たのだろう。



「……」



不安になる。

彼が、どんどん先に行ってしまうから。


だから――あたしも頑張らないと。



「まずは、グリーンエルドに行かなきゃ」



看守を倒した事でレベル20に到達してる。


それでも油断はしないけど。

大樹霊は始まりの街のボスモンスターだ。


もしかしたら……“あの”看守より強いかもしれない!



《ここより先に進みますと、ボスフィールドに移動します》

《よろしいですか?》



「……うん」



看守の様なヘマは絶対にしない。

気合を入れまくって、『OG』の試合並に集中して――





《フィールドボスを倒しました!》

《おめでとうございます! 新マップ・グリーンエルドへ移動出来るようになりました!》

《大樹霊の枝を取得しました》



「……ざこっ!」



物凄い肩透かし感を食らって、消化不良のまま進む。

迫る新フィールドに向けて。



「へへ……」




グリーンエルドに到達した事は、あえてダガーには連絡しない。

あたしを見て……驚く彼が楽しみだから。後ろからこっそり声掛けちゃおう。


もしまた変な集団ダーティーキッズに絡まれてたら、助けてあげようかな。




《マップ『グリーンエルド』を取得しました!》




「……やっと着いた……」



……その後の謎解きが全く解けなくて、泣きそうになりながら攻略サイトを見たのは彼には内緒にしよう。










△作者あとがき

やっとヒロイン出た……(何十話ぶり)

続きは早いうちに!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る