『Vilrtual Player』
俺がアーノルドの顎を鍬でクイッとやった時には、その雰囲気には気付いていた。
プレイヤーと闘う事が増えてきたからだろうか。俺を狩りにこようとする者を警戒してきたからか。
何となく……人がそのあたりに居るってのが分かるのだ。
「あれ、違った?」
だとしたら恥ずかしいんだけど。
穴掘って埋まります(ガチ)。
あっその前にHPポーション(大)飲んで、ライフを回復――
「――やっぱり気付いとったんか」
した瞬間、声が聞こえた。
そして同時に、森の影から現れてくる――
《プラチナ 錬金術士 LEVEL25》
「えっ」
「ダガーさん、久しぶりやね」
「……Pさん?」
名前の通り、白金色のショートヘアー。
綺麗な髪に高そうな杖、ローブを着込んだ彼女こそ――落とし穴の検証の際に協力してくれたPさんだった。
タイミングで言えば、ハオスに出会う前。
地雷飛行の検証の休憩に落とし穴の検証をフィールドでやっていたところ、彼女に出会った。
《――「そ、その。握手してくれへんか?」――》
最初は挙動不審だったな(失礼)。
目が合ったから協力を願ったら変にタジタジしてた。
重そうな名前だななんて思ってた(バカ失礼)。
《――「こんな偶然無いで……でも流石にいきなりはなぁ……チームの同意も居るし……」――》
《――「? それじゃ行くね。マジで助かった、ありがと!」――》
《――「えっ!? あ、おおきに!」――》
最後はそんなお別れだったけど。
親切な関西人だな、なんて思ってたよ。
まさか、彼女がプラチナレッグだったとは。
「……ぴ、ぴー? うちの事か?」
「そうだよ」
「その……うちのことはプラチナって呼んで欲しいなぁ……。一応これでも、“プラチナレッグ”のリーダーやねん」
「えっ」
おいおいしかも一番上かよ!
《雫 LEVEL26》
《ヲリヤー!! LEVEL25》
《呂布 LEVEL24》
《龍宴 LEVEL23》
《ドMで行こう LEVEL23》
《ヒルネスキー LEVEL20》
《シュガー LEVEL24》
《ミルク LEVEL24》
《Fire Blue LEVEL23》
「「「…………」」」
「うわぁ(ドン引き)」
そして、木の間から現れる大量のプレイヤー達。
さっき4人倒したはずなんだけど。
何、消したら増えるよ的な?
「あー。すまんな、アーノルドからの通信見て……本来はうち一人やったんやけど、気付いたら付いてきたんや。なんも喋らん様言っとるから安心して」
「別に良いよ。で、何用? 勧誘ならお断りだけど」
「……まあ雑談でもしようや、ダガーさん」
「この状況で?」
「ふふ、ある意味“日本一”安全や。見てたで? アーノルドがあんな風に話すの久しぶりに見たわ」
「それはどうも。良いヤツかもしれないけど、アイツは上司に居たら嫌なタイプだね」
なんかそんな感じ。
レオとかトリとか覚えてないけど、彼の部下は苦労していただろう。
というか、今のプラチナさんめちゃくちゃ堂々としてるな。
一人の時はあんな感じだったけど、やっぱり後ろに部下がいるからか? 凄いねトップ(敬服)。
「うーん。最近たまに思い詰める感じ出しとったから……うちも話しとってんけど、あんまり上手くいかんくてな」
「大変っすね……」
「でも、彼には後で叱っとかんとなあ」
……なんか胃が痛くなってきた。
ゲームでこんな話したくない!!
「話変えよか! 『OG』……『OVER GROUND』、知っとる?」
「ん? 名前ぐらいは。やったことない」
軽くは知ってる。
ジャンルは、フルダイブVRFPS。
現代を舞台にドンパチするバトルロワイアル方式で、FLと違い『キャラクター』が用意されているらしい。
様は、人によってステータスを振り分けるとかがない。固定だ。
そのキャラの身体に乗り移るイメージで、VRMMOより再現が楽だったとか。
だからリリースもFLより大分早かった。
俺は罠士が居ないから興味なかった。
「『OG』……ゲームなら何でも言えることやけど、特にそれは精神的なもんがデカくてな。そういう面で彼は優秀やった。どんな時でも冷静に行動しとる……だからあんなにアーノルドが驚く事、珍しいんやで?」
「落とし穴だから(ドヤ顔)」
「ふふっ。で、『OG』やらんかったんは……罠使うキャラクターがおらんからか?」
「怖。よく知ってるね」
「そりゃそうや――アンタ、『クロス』さんやろ?」
「だ、誰だそれ(目逸らし)」
それは本当に唐突だった。
なぜ、今“その名前”が出てくる?
「『OG』のリリースより結構前。フルダイヴ型のゲームが出る前の人気VRFPS……『STRIKE 4』、覚えとるやろ」
「……アレは良いゲームだったな」
OGと違い、それは大きなマップで戦うゲームだ。
5vs5だけじゃなく16vs16とか32vs32まであった。
人だけじゃなく戦車やヘリ、戦闘機まで入り乱れる……いわゆる戦争ゲー。
色々装備をカスタム出来たそれ。
もちろん俺は、銃など持たずに罠だけで戦った。
「何年前やろな。その『S4』でプロゲーマーの配信中、異常なプレイヤーが話題になった」
「……?」
そういうの言われても知らないんだけど。
配信とか見ないし――
「――その“彼”は、クレイモアでプレイヤーをキルしたり」
「よくある使い方じゃん」
「バイクに対戦車地雷を設置、ビルからジャンプして戦闘機を爆破したり」
「……」
「ヘリコプターをワイヤートラップで引っ掛け“逆さ”にして、回転刃のマップ兵器と化させ、地獄を作り出したりしとった」
「……懐かしいね(白目)」
あの後、外人のお怒りチャットで大変な事になった。
味方も敵も阿鼻叫喚だ。超楽しかった。翌日にアカウント停止食らったけど。
別に俺は、チートなんて使ってないってのに!
「……ふふっ、そうやんな。やっぱりアンタがクロスさんやったんや」
「まだ何も言ってないけど」
「分かるで。うち、あれ見て滅茶苦茶笑わしてもらったからな」
「……それはどうも」
「ほんま面白かった。その配信の動画は再生数がえげつい事なっとる」
「ありがとう、一生S4の動画は探さないようにする」
どうせコメント欄でもチートとかグリッチとか言われてるだろうし。
あの時程、自動翻訳機能を消してて良かったと思った事はない。
「……でな。そんな元クロス……ダガーさんが、うちに入って配信で攻略なり対人戦の大会に参加してくれたら……凄いおもろいと思うねん」
「アーノルドにも言ったけど、本当に入る気はないよ? 配信とか興味無いし、お金とか稼ぎたくもないし」
「じゃあ、もうお給料とか渡さんから! ずっと一番下の“鉄”ランクで、ただ居るだけでええ!」
「え」
「ダガーさんは検証がしたいんやろ? だったら……全然うちで協力するで?」
「俺に都合良すぎて怖いって! なんか言えよお前ら!」
「「「…………」」」
「ええ……」
「もう、ダガーさんの強さは“さっきの戦闘”で認められてるからな。反対意見はないで」
「……」
いくらなんでも俺に合わせ過ぎている。
ちょっと怖い。
ただ……ぶっちゃけ、何を言われても俺は“別のチーム”には入らない。
「うちは、ダガーさんとこのゲームを共有出来たら……絶対楽しいことになると思ったんや。どうしてもあかんかな?」
でもここまで言われると、流石に良心が痛む。
Pさん……プラチナさんには、検証も手伝ってもらった。
文句言わずに付き合ってくれた聖人だ。
ああ、後悔先に立たず。
さっさと、キッパリ断らなかった俺が悪いよな。
「――ごめんけど。俺さ、もう“チーム”には入ってるんだよ」
だから、一番強い理由を使った。
あまり言いたくなかったのは――それの詳細を言った時の反応が予想できたからだ。
「――なんやて?」
「最初から言うべきだったな。だから無理だ」
「……なんて名前や。そんな情報どこにも――」
「――無いだろうな。だってそのチーム二人しかいないし」
「は?」
「名前……なんだっけな。咎人同盟――じゃない。血の盟約……処刑者の集い、闇の暗黒集団でもない……ああそうだ――」
間違えやすいから困るよ、全く。
そうだ。そのチームの名前は――
「『
ソレを大きく読み上げる。
そして――その名前を言った瞬間、空気が凍った。
「さ……流石にふざけるのはあかんで?」
「嘘は言っちゃいない」
「ッ」
「チームメンバーは俺ともう一人だけ。でも、俺はその“もう一人”の強さを、心から信頼してる。当然あんた達よりもな」
「そう、かいな」
「うん。ああそうだ! 決めた、もうこういう事にしてしまおう――」
未だに現状を飲み込めていないプラチナさん。
敵対するような視線を飛ばすプラチナレッグの皆さん。
それ全てに宣言する様に、俺は叫ぶ。
「――『災厄同盟』の『ダガー』は、『プラチナレッグ』の者に手を出した」
「つまり俺は、あんた達と“敵対”した事になる」
「大事なチームメンバー、アーノルド率いる四人組を虐殺した“大罪人”へ復讐する『プラチナレッグ』――うん、よくない?」
場が静まり返る中で、俺はそれを宣言していく。
ゆっくりと、“プラチナレッグ”がこちらに迫ってくるのが分かった。
「……本気で、言っとるんか、ダガーさん」
彼女の目付きが変わる。
その視線なら――問題ない。
「“たった今”――ダガーさんは、うちら全員と敵対する事になるんやで?」
「そう言ってる」
「なら……なら、もう、止められへんで?」
ああ、そうだ。
きっとその方が楽しくて、彼女にも悔いが残らない。
俺達は――『
“クロス”の時も。“ダガー”の時も。
VR世界は仮想空間、現実ではない。
ならばこそ、その“非現実”を楽しむまで!
「――ハンデはこれぐらいで十分か?」
上半身。防具を脱ぎ捨て、そう言ってやった。
……“上”に合図を出すようにね。
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