金縛り
道中。
深くなっていく森の中を、急いで駆けていく。
「ふっ、ふっ――」
グリーンスライム、グリーンタートル。
その他。
それらを超えて、今度はジャングルだ。
一気に視界は暗くなって、大量の木がそびえ立つ。
謎の動物の鳴き声が聞こえたり、苦手な雰囲気。
ちょっと怖い。
『OG』とかは完全にスイッチ入れるから平気だけど、FLは違う。
VRMMOであるここは、常に殺気が飛び交う様な場所じゃない。
前まで……お、お姫様のロールプレイしてたぐらいだし。
「でも、もう“アレ”は良いかな」
なりたい何者かになりきって遊ぶ。最初はそうしていた。
皮を被るのは意外と簡単だったけれど、それで楽しいかと言われたらそうじゃない。
せっかくのVRMMOなら誰かと一緒にやりたかったけれど、全然好きには闘えない。
だから結局、ため込んで爆発。
一人になってしまった。レッドネームのおまけ付きで。
……でもダガーに会えた。
それだけで、あのロールプレイは意味あったかも、なんて。
「……うぅ」
なんか恥ずかしくなってきた。
ゲームで知り合った仲なのに、考え過ぎだ。
《――「ん、何だよ。何か俺の顔に付いてる? 返り血?」――》
昨日、闇市を案内してもらった時の事。
《――「こんな“プリセットパターン1”の顔、見ても面白くないと思うけど」――》
当然、現実とは顔が全く違う。
《――「年齢? 少なくともリンカよりは年上だよ。ああ明日は仕事休みだから気にすんな」――》
現実では少なくとも
仕事して、ご飯を食べて。家族が居て。
当たり前だけど、この世界以外でも生きている。
もっと仲良くなりたいけれど、線引きが分からない。
踏み込んでも良い場所が分からない。
でも……彼の好きなモノなら良い気がする。
どうしてあんなに罠が好きなのか。
彼は、どうやって好きになったのか。
「……」
気になる。なんでこんなに気になるんだろう。
たった二日しか経ってない、数時間しか一緒に遊んでいない相手。
それでも――もっと、“知りたい”。
そう思ってしまう。
きっとこんなの、間違っている事のはずなのに。
《――「じゃ、またな。早く寝ろよ」――》
残る暖かい手の感触。優しいその声が、あたしの中でどんどん大きくなって―――
『—―■■■!!!』
《状態異常:混乱状態になりました》
「わぁあああ!?」
深く、深く考え事をしていたら、突如として耳を
視界が定まらない。
矢を番える手が震えている。
「――っ!!」
弓による攻撃は無理だと判断。
迫りくるモンスターであろうそれに、腰に差した投げナイフを取って突き刺す。
『ボォ!?』
《状態異常:混乱状態が解除されました》
《マンドラゴラ LEVEL27》
「もー!! 何やってんだよあたしは!」
クリアになっていく視界。
己の失態に頭を抱えながら、そのモンスターを処理。
……そこから、木の上を渡って移動する事にした。
☆
「……ふー」
深呼吸。
木を登って枝を伝い跳びながら移動を続けて。
“感じた”。
人の気配。
《レイ 魔法士 LEVEL22》
「ダガーにアーノルドさんって、もうやだぁー……」
「――おい、ダガーがどうした?」
「 」
「……?」
泣きそうな顔をしながら走るプレイヤーに、木から降り立ち声を掛ける。
しかし、目を見開いて固まってしまった。
「きょっ、きょきょ、きょきょきょ狂鬼……」
「あ? なんだって―――」
「――もうやだぁー! みんなたすけて!!」
「あっ、おい!」
そして走り去っていく。
『アーノルド』――確かに、彼女はさっき言った。
その名前は――知っている。プラチナレッグ所属の“対空兵器”の名手。
『OG』じゃロケットランチャーに苦しめられた。
そしてダガーの名前も。
その二人が出てきたという事は――
「いっ、急がないと――」
あたしの第六感がそう告げる。
もしかしたら、既に今“ぶつかっている”。
――そんな風に、焦ってしまった。
人の気配。
レイとかいうプレイヤーを見つけたせいで、それを探るのを怠った。
付近のプレイヤーが、彼女だけとは限らないのに。
ほんの一瞬。警戒を、解いてしまった。
「――っ!?」
感じた気配。
後ろ。
背中、“いる”――
「――金縛りの術」
その声。聞いたことのないスキル。
反応できない――
「状態異常、麻痺になりました……なんちゃって♪」
「……は?」
成す術無く、身動きが取れなくなる――事は無かった。
スキルも発動していない。敵意も殺意も感じない。
訳が分からなかった。
《VP 忍者 【“
「大丈夫。ボクは“リンカ”の敵じゃないよ~ほらほら」
両手を上げて怪しく笑う彼……いや、彼女?
小さい背丈。
黒髪の肩に掛かるほどの髪に、口をフェイスカバーの様なもので覆っている。
そしてその見た事のない職業。
ダガーよりも高いレベルが目を引いて。
「なんだてめぇは!!」
「あはは。ごめんね~、びっくりさせちゃって」
そんな不思議なプレイヤーは、口のそれを外して口を開いた。
中性的なその見た目は、“どっち”か分からない。
艶っぽくて色っぽい。そしてまた、子供の様なあどけなさが残るプレイヤーは――
「――ちょっと協力してくれない?」
『旅の記録』を持って、そう言った。
△作者あとがき
一週間たってました(絶望) ごめんなさい!
続きは今夜。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます