まずは一人



「なにを……!」



爆発、そして煙が香る森の中。

吹き飛んだアーノルドは、あり得ないモノを見るような目を俺に向ける。



「交渉決裂だよ。分かんねえのか? キルしてないだけ温情だと思え」

「ッ!」



さっきまで好き放題喋ってたから、今度はこっちが吐かせてもらおう。

じゃなきゃ、このイライラは収まらない。



「お前は――“罠”を、“罠士”を侮辱した」


「俺の大事なモノを散々こき下ろした挙句、下らん価値観を押し付けやがって」


「俺がこの世界ゲームに求めるのは――“金”でも“名声”でもねえんだよ」



ああ、腹が立つ。

こういう奴には、俺の考えが伝わるのかは分からないが。



「……お前のクソ不愉快な非礼は、コレぐらいで勘弁してやる」


「プラチナレッグだか何だか知らないが、俺にお前らは“不利益”だ」


「分かったら、さっさと失せろ」



呆けた様な顔をするアーノルドに、そう吐き捨てて踵を返す。


FLで一番最悪な時間だったかもしれない。

ああ、ログアウトしてホットミルクでも――



「くッ。ここまでの馬鹿とは……待て、ダガー」

「……あ?」



さっき馬鹿とか聞こえたけど。

無視せず、そのまま行ってもよかったんだが――



「本当に、本当に理解し難い。本当に――良いんだな?」

「同じ言葉ばっか使うなって。“馬鹿”に聞こえるぞ」

「!! 貴様、この私に向かって……」


「ははっ。で?」

「……やはり評判通りの男か……来い!」



そして、彼の背後。

ぞろぞろと――現れる。



《コタロー 弓士 LEVEL21》

《レオ 戦士 LEVEL22》

《ハチドリ 神官 LEVEL22》



そこには、3人のプレイヤーが居た。



「……ああ。“やる”ってこと?」



その全てが戦闘態勢。

アーノルドは青筋を立てながらこちらへ向き直る。



「私達プラチナレッグに入らないというのなら、君には“糧”になってもらう」

「いやだなあ」


「愚かにも、貴様は私に攻撃を加えた。既に理由は揃っている」

「うん、そうだね」


「ッ。レオ!」

「――『タフネスアップ』!」



片手剣を握ったそいつは、スキルを発動しながら接近してくる。

そしてまた、後ろに控えるアーノルドの仲間らしき者達も武器を構えていた。



「『高速罠設置』」



《落とし穴を設置しました》

《落とし穴が発動しました》



だが、同時に俺も罠を設置。

円状に落ちる地面に身体を預け――左ポケットの地雷グレネードを地面に投げる。


何をするかなんて、当然アレだ。



《地雷が発動しました》



『地雷ジャンプ』により、身体は遥か上へ。

驚愕の表情をする彼らを尻目に、適当な木の枝へ着地。

そのまま森の中をせっせと移動。


ジャングル地帯のこの場所じゃ――



――「逃げた……?」「くそっ!」「どこだ」――


「探せ! 音がしない以上、上のどこかに潜んでいる!」



隠密万歳である。

さて、ココからは罠士の本領発揮だ。

下から聞こえる声に聞き耳を立てながら、俺はソレを作っていく。



「……『罠設置』……『罠設置』」



《地雷を設置しました》

《地雷を設置しました》

《二つの地雷が合体されました》

《大地雷が設置されました》



そして、それを繰り返し。

3秒の設置時間×2、6秒でこれが完成するんだから強いよな。



「……音しなかったか、今?」「あそこか?」「なんで名前が見えない?」



そりゃ、隠密スキルのおかげですよ。多分。

ただちょっと神経使うなあ。音鳴らさずに空瓶に地雷入れるのって。

カチャカチャうるさいしね。


このままだとバレそう……あ、そうだ。



『検証ナンバーG4』

地雷は水の中に入れてから触れても爆発する。今回は喫茶店のコーヒーで実験。二度とやりたくない。

コーヒーと水は違うだろという意見があるだろう。やりました、抜かりはない。

ちなみに地雷が入った状態のカップを持っても大丈夫だった。




それを思い出す。

粘性の高い液体入れたら、良い緩衝材にならない?




アイテム説明:スライムローション


始まりの街・スライムからドロップするアイテム。

ポーションの素材や、巷では化粧品の元にもなるらしい。


所持数:99

販売額:1G



一番最初、始まりの街。

スライム相手に検証を繰り返していた時、大量にゲットしたんだよな。

そうと決まればインベントリからそれを空瓶(大)に注いで。


良い感じ。量も三分の一ぐらいだ。

液体の中に沈み込む地雷達。お風呂みたいで可愛いね。

軽く振っても音全くしないし、成功だな。


これは『消音グレネード』と名付けよう。

戦闘中のひらめきは良いね。ライブ感がたまらない。



「……『罠設置』」



《地雷を設置しました》



「『罠設置』……あっ」



《地雷を設置しました》

《二つの地雷が合体されました》

《大地雷が設置されました》



二つ目の消音グレネードを作成中。

地雷が合体した瞬間、サイズが大きくなった時に中の液体が押し出されてちょっと飛び出た。



「え?」



そして狙っていた神官が下から俺を見る。

目が合う。見れば、服になんか液体が。



ああ、これはもう……やっちゃうか!



「まずは一人」



俺は、その二つを投下した。



《大地雷が発動しました》

《大地雷が発動しました》


《ハチドリ様を倒しました》

《経験値を取得しました》


《罪ポイントが加算されます》

《PKペナルティが加算されます》

《PKペナルティ第三段階》










△作者あとがき


コンテスト、読者選考期間が今日で終了!

燃え尽き……るのはまだ早いですが、お付き合い頂いた方には感謝しかありません。


応援ありがとうございました……!

まだ更新は続きます。

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