残り、二人



「奴はまだ逃げていない、上の何処かに居るはずだ!」



叫ぶアーノルド。

レベル27のPKプレイヤーとなれば、その経験値は計り知れない。

加えてこちらは4人居る。

しかもアーノルド以外のパーティーメンバーも、銅等級とはいえプロゲーマーだ。

フルダイヴVRMMOという未知のフィールドだが……素人よりは確実に上だと自負する。


だからこそ、彼らも逃げない。



「……?」



そんな中。

ふとパーティの回復役である神官の頬に、何かが当たり濡れた。


雨? それにしては粘土が高い。

べたっとした、スライム状の何か。


上を見上げる。

ただ、何の気なしに。



「え」



瞬間。

目が合う。

木の枝。こちらを見る“目”に。


同時、二つの物体。

もう、避けられない。

その、落下してくる“黒い何か”。



「……あッ」



《貴方は死亡しました》



それが“罠”だと気付いたのは、この場所から居なくなった後だ。





「――ッ、上か!」



回復役をやられた。

『バースト』の称号は伊達ではない、警戒するべきだった。

しかし――



「立ち止まるな! レオ、付近の木を叩け!」



アーノルドが叫ぶ。止まっていたら飛来してくる罠の餌食だ。

かつ、今は上に居る“猿”を落とさなければならない。



「――『パワーブレード』!」



神官が死んだ付近の木を、戦士の片手剣が叩く。

高威力の一撃。たまらず大きく揺れるそれ。


そして――今まさにその木から、別の木へ移動しようとしている何かが見えた。



「あそこだ!」

「やれレオ、コタロー!」



アーノルドが指を刺す。

全員の視線は、映る影へ。



「『スピードショット』!」

「『スウィング』!」



一つは、その影に向けての矢。

一つは、影の移動先の木への一撃。



「……あれ?」



弓士が呟く。

理由は、手応えの無さだ。


そして――その答え合わせはすぐに表れる。

“服”だけが、そこに落ちてきたから。



「!」

「防具を投げて……!」


「くっ。探すんだ!」



アーノルドは叫ぶ。

彼は、“敵が見えなければ”何も出来ない。


また振り出し。

恐らく服を投げた瞬間までは移動せず、こちらが服に攻撃した瞬間どこかに移動したのだろう。


猿知恵にやられた。

上を睨むも、ダガーの居場所は検討も付かない。

ココはジャングル。木が多すぎるのだ。



「場所が悪い……!」



時間だけが経っていく。

罠士に時間を明け渡す事が、どれだけ危険な事か彼らも分かってきた。


アーノルドは苦虫を嚙み潰した様に顔を歪める。

もはや、彼の庭とも言えてしまう程。


逃げるか?

逃げないか?


この場所が悪すぎる。

アーノルドの“職業”とも相性が悪すぎる。


このまま、自分達が彼の糧になるぐらいなら――



「――ッ、コタロー! 上だ――」



その迷いが命取り。

不自然な葉の揺れに、気付いたのはアーノルドのみ。


彼はそれに叫ぶが、弓士は気付けない。

神官同様――上に居た罠士の餌食になった。



《コタロー様が死亡しました》



「ッ。レオ! “当てろ”!」



だが、今度こそ止まれない。

叫んだ指令。

それは、上の罠士に悟らせないように。



「了解です――『パワーブレード』!」



大木を揺らす一撃。

アーノルドは目を凝らし、ダガーの場所を探る。


弓士が逝った今――遠距離攻撃は出来ない。



“そう思わせる”。

その隙を付く。



「――っ」



揺れる木から、脱出しようとする影。

それをアーノルドはハッキリと捉えた。



「左!」

「ッ、『スウィング』!」



脱出先の木に向けての一撃。

力の一撃は、またもソレを大きく揺らし。



「――っ」



たまらず、木から離れようとする罠士を捉える。



「『ウェポン・スロー』!!」

「――うおっ!?」



『投擲スキル』。

武器の投擲に補正が掛かり、それに対応した武技を使えるようになるスキルだ。


不意打ち。

斧にナイフ、それらと違い剣は投擲という選択肢を取る事は少ない。


だからこそ効く。

もちろん、それには技量も要るが――そこはプラチナレッグだ。

戦士から投げられた片手剣は、見事にその影へと当たる。



「『アース・エレメント』――」

「っ――!」



そしてそれに合わせるよう、アーノルドの詠唱は三秒経って完了。




「『地縛バインド』」





落下した罠士への魔導術スキル発動。

足元から芽生える木のツタの様なそれは、ダガーの足に巻き付いた。


魔導士、『魔導術スキル』――属性“土”のそれ。

それは対象への微ダメージと共に……『状態異常:移動不可』を浴びせるもので。




「ようやく捕まえたぞ、猿が」



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