残り、二人
「奴はまだ逃げていない、上の何処かに居るはずだ!」
叫ぶアーノルド。
レベル27のPKプレイヤーとなれば、その経験値は計り知れない。
加えてこちらは4人居る。
しかもアーノルド以外のパーティーメンバーも、銅等級とはいえプロゲーマーだ。
フルダイヴVRMMOという未知のフィールドだが……素人よりは確実に上だと自負する。
だからこそ、彼らも逃げない。
「……?」
そんな中。
ふとパーティの回復役である神官の頬に、何かが当たり濡れた。
雨? それにしては粘土が高い。
べたっとした、スライム状の何か。
上を見上げる。
ただ、何の気なしに。
「え」
瞬間。
目が合う。
木の枝。こちらを見る“目”に。
同時、二つの物体。
もう、避けられない。
その、落下してくる“黒い何か”。
「……あッ」
《貴方は死亡しました》
それが“罠”だと気付いたのは、この場所から居なくなった後だ。
☆
「――ッ、上か!」
回復役をやられた。
『バースト』の称号は伊達ではない、警戒するべきだった。
しかし――
「立ち止まるな! レオ、付近の木を叩け!」
アーノルドが叫ぶ。止まっていたら飛来してくる罠の餌食だ。
かつ、今は上に居る“猿”を落とさなければならない。
「――『パワーブレード』!」
神官が死んだ付近の木を、戦士の片手剣が叩く。
高威力の一撃。たまらず大きく揺れるそれ。
そして――今まさにその木から、別の木へ移動しようとしている何かが見えた。
「あそこだ!」
「やれレオ、コタロー!」
アーノルドが指を刺す。
全員の視線は、映る影へ。
「『スピードショット』!」
「『スウィング』!」
一つは、その影に向けての矢。
一つは、影の移動先の木への一撃。
「……あれ?」
弓士が呟く。
理由は、手応えの無さだ。
そして――その答え合わせはすぐに表れる。
“服”だけが、そこに落ちてきたから。
「!」
「防具を投げて……!」
「くっ。探すんだ!」
アーノルドは叫ぶ。
彼は、“敵が見えなければ”何も出来ない。
また振り出し。
恐らく服を投げた瞬間までは移動せず、こちらが服に攻撃した瞬間どこかに移動したのだろう。
猿知恵にやられた。
上を睨むも、ダガーの居場所は検討も付かない。
ココはジャングル。木が多すぎるのだ。
「場所が悪い……!」
時間だけが経っていく。
罠士に時間を明け渡す事が、どれだけ危険な事か彼らも分かってきた。
アーノルドは苦虫を嚙み潰した様に顔を歪める。
もはや、彼の庭とも言えてしまう程。
逃げるか?
逃げないか?
この場所が悪すぎる。
アーノルドの“職業”とも相性が悪すぎる。
このまま、自分達が彼の糧になるぐらいなら――
「――ッ、コタロー! 上だ――」
その迷いが命取り。
不自然な葉の揺れに、気付いたのはアーノルドのみ。
彼はそれに叫ぶが、弓士は気付けない。
神官同様――上に居た罠士の餌食になった。
《コタロー様が死亡しました》
「ッ。レオ! “当てろ”!」
だが、今度こそ止まれない。
叫んだ指令。
それは、上の罠士に悟らせないように。
「了解です――『パワーブレード』!」
大木を揺らす一撃。
アーノルドは目を凝らし、ダガーの場所を探る。
弓士が逝った今――遠距離攻撃は出来ない。
“そう思わせる”。
その隙を付く。
「――っ」
揺れる木から、脱出しようとする影。
それをアーノルドはハッキリと捉えた。
「左!」
「ッ、『スウィング』!」
脱出先の木に向けての一撃。
力の一撃は、またもソレを大きく揺らし。
「――っ」
たまらず、木から離れようとする罠士を捉える。
「『ウェポン・スロー』!!」
「――うおっ!?」
『投擲スキル』。
武器の投擲に補正が掛かり、それに対応した武技を使えるようになるスキルだ。
不意打ち。
斧にナイフ、それらと違い剣は投擲という選択肢を取る事は少ない。
だからこそ効く。
もちろん、それには技量も要るが――そこはプラチナレッグだ。
戦士から投げられた片手剣は、見事にその影へと当たる。
「『アース・エレメント』――」
「っ――!」
そしてそれに合わせるよう、アーノルドの詠唱は三秒経って完了。
「『
落下した罠士への
足元から芽生える木のツタの様なそれは、ダガーの足に巻き付いた。
魔導士、『魔導術スキル』――属性“土”のそれ。
それは対象への微ダメージと共に……『状態異常:移動不可』を浴びせるもので。
「ようやく捕まえたぞ、猿が」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます