勧誘
「レイ、キミはもう行っていいぞ。死んだパーティーの元に戻って、とっととレベル上げでもしてくると良い」
「……は、はい」
「早く行けと言っている」
「はっはい!」
《アーノルド 魔導士 LEVEL23》
彼女にそう声を掛け、こちらへ向いた。
恐らく課金のアバターアイテム……その眼鏡をクイッと上げて。
「さて、話をしようか」
「で……誰?」
「……先ほども申したが」
「いやそうだけど」
「『プラチナレッグ』のアーノルドだ。私達のチームへの勧誘をしに来た、と言っている」
「いやそれは知ってる。俺が聞きたいのは――プラチナレッグが何かってことだ」
「……何だと? 聞き間違いか……?」
同じこと二回も言わなくても分かる。
急にドヤ顔でプラチナレッグに入れとか言われても、ね?
何? 白金の足? 白金はめちゃくちゃ重い金属だぞ。金より重いんだからな。
「……マグネシウムレッグのが良いんじゃない?」
「……はッ? 何を言っている」
「いやマグネシウムってさ、めちゃくちゃ軽い金属で……」
「……」
「あっその……すんません」
「――ふざけるな」
怒ってしまった。
流石にチーム名にケチ付けるのはダメだよな。
謝っておこう。
でもさ、流石にプラチナレッグは無いだろ……?
妥協してカルシウムレッグとか、ほら。健康そうじゃん(意味不明)。
「ごめんって! 不快だったな。疑問に思っただけなんだ」
「私達も忙しい身でね。もう一度本題に入ろうか」
「あっ、はい」
「私達の、プラチナレッグに入っても良いと言っている」
「いやだからさ……あー、無知でごめんね。そんな風に言われてもその“プラチナレッグ”が何なのか知らないんだよね」
「は?」
「いや、は? じゃなくて。プラチナレッグって何するチーム? 白金の凄さを語り合うのか? 入ろうかな(興味)」
「……」
「えぇ」
黙っちゃったよ。
もう帰って良いかな……。
「私達を……知らない?」
「そう言ってる」
「……ッ」
青筋を立てる男。
目を閉じて、大きくため息をついてから――彼は話し始めた。
「……プラチナレッグは、あらゆるゲームで優秀な成績を残す“トップ”プロゲーマーチームだ」
「FLでも他のプロチームを突き放し、最前線を走っている」
「総勢116名。選ばれた、才能ある一握りの者達しか加入出来ないチームで……キミは“選ばれた”」
演説する様なアーノルド。
そういう話術の才能あるんじゃない? 多分。
ただまぁ、100名越えのチームってのは凄いわな。
「へえ。凄いチームなんだ、プラチナレッグって」
そう反応した瞬間。
アーノルドは、またため息を吐く。
「全く……本当に今更だな」
「うちのトップはキミを“
「? ああ、これも分からないだろうな――キミみたいな者にも分かりやすい“お金”の話で行こう。プラチナレッグは等級制で……“金”は上位の等級だ。月収で言えば軽く100万、成績によるが年収で2000万は超えることも可能。加えて専用のSNSに動画、生配信用アカウントも与えられる、もちろん初めから沢山のファンも付くだろう! プラチナレッグの金等級とは、それほどの価値がある!」
長っ。
と思ったら、お金の話ですか。
うーん。
額が大きいのは分かる。副業にしては本業を普通に上回るわな。
そりゃ、分かるんだけどさ。
……なんか反論したらまた長くなりそうだし、適当に褒めとくか。
それにちょっとだけ、プロゲーマーチームってのを知っとく機会だ。
興味なさ過ぎて知らない世界だから。
「そんな、俺が? 光栄だなぁ」
「ああ。だが条件がある」
「条件?」
「キャラの再作成と――その“職業”を辞めることだ」
「なんで?」
「その“汚名”を捨てる事。そして、君に“罠士”はもったいない」
……なるほど。
もったいないと来たか。
「私が思うに……罠士なんて職業は“今だけ”。キミはたまたま成功し、たまたまレベルが高くなった」
「うん」
「そんな“罠”だけじゃ限界がくるはずだ。武器だってクワ? だったか。そして防具もろくに装備出来ない」
「うん、確かに大変なときはあるね」
「そのふざけた職業をリセットして……私達プラチナレッグと、一から最前線を往こうじゃないか」
「そっか! “残虐非道のプレイヤーキラー”で、“テロリスト”で、“どんな手段を使ってでも経験値を稼いで”、“死体の山で高度100mまで到達した”俺を、プラチナレッグの方々は暖かく迎え入れてくれるんだな」
「……ああ、そうだ!」
「おお」
「キミは、本当に運が良い!」
続ける彼。
中々に舌が乗って来た。
「キミは――選ばれたんだ。幸運にも! キミは一気に“お金”と“名声”が手に入るんだ!」
「キミの様な“大罪人”が、“ダガー”という名を捨てて……一からやり直せるチャンスなんだ! もちろん頼りがいのあるプラチナレッグの“仲間”も居る! 君は一人じゃない!」
「さあ、私達と共にトッププレイヤーを目指そうじゃないか!」
満足げに言い終えて、右手を差し出すアーノルド。
俺はそれにゆっくりと近付いて。
「いやあ、凄く良い話を聞けたよ」
「! それじゃ早速――」
“ハンドポケット”。
仕舞っていた右手を取り出し、彼へ向けた。
ほんの少し、勢い良く――
「とっとと失せろ、クソ野郎」
《地雷が発動しました》
《罪ポイントが加算されます》
《PKペナルティが発生します》
《PKペナルティ第一段階》
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