グリーンエルド・奥地②


そして、俺は一人になった。

ワイルドボアーをハメていたら仲間を失った……。


世界に復讐を誓わないが、ちょっと寂しい。


リンカでも居れば違うんだろうが、アイツ居たら無双しそう。

俺の為にならないね。



「……ま、次は“アレ”だな」



グリーンエルド探検隊(解散)は、更に奥地へ向かった……。





《大地雷が発動しました》


「ボ……」


《経験値を取得しました》



「うーん」



通りすがり、少し処理しにくくなったマンドラゴラを狩りながら歩く。


あの馬……と行きたいところだったが、全然居ないね。


マンドラゴラやワイルドボアーの二種に比べて明らかにレアモンスターなんだよな。



「どこかな~ほいっほいっ」



マップでいえば大分奥の方だろう。

というわけで、護身用の地雷グレネード×3をジャグリングしながら歩みを進める。


えっほえっほ。

このスリルがたまらない(5敗)。



「……ん?」



「――だ、ダメだ! 強すぎる!」

「――引くぞ!」

「――でも、こんなチャンス―――」



と思ったら、遠くからプレイヤーの声。


グリーンエルドの奥地はもはやジャングル。

ゲームとはいえ、かなり視界が悪い。


木々が立ち並ぶこの光景は、目に優しくて好きだけど。隠密行動もしやすいしね。

罠士の庭と名付けよう(ドヤ顔)。



「珍しいな――ん?」



あれ。よく見たら。

少し開けた場所。

あのデカくて黒い馬は――



深緑を翔ける者エルダーホース LEVEL???》



「あっ、居た」


「――駄目だ諦めろ!」

「逃げられな――ぐあっ!?」

「あ、あ……」



草陰を掻き分けて、ハッキリ見えた。


しなやかな肢体に芸術品の様な漆黒。

風を纏うような、神々しいオーラ。


それが今、顔を天に上げ――



『■■■■■■!!』


「っ、うっさ……」



思わず耳を塞ぐ。

そして目の前の三人は――



《レイ 魔法士 LEVEL22 状態異常:恐怖》



「一人になったか」



たった今、あのハイパーボイス(適当)で二人デス。

距離が離れていた魔法士のみ生き残っている様だ。



「『こちらパーティー壊滅の為、至急応援を。恐らくレアモンスター、チャンネルは』――きゃあ!?」



なんか早口で言ってるけど。



「ひっ。ひいっ……」

『クゥイーン!!』



甲高い声を上げながら、そのプレイヤーに近付いていくエルダーホース。

……どうしようかな。

絶対アレ、このままじゃ死ぬよな。


かといって、なんか横取りみたいになったら嫌だし……。



「や、やめ――」

「――おい、そこのプレイヤー! このお馬さん倒していい!?」



社会人たるもの、報連相が大事である。

例え善意で助けたとしても、あっちから見れば悪意にも見える時はあるからね。


ポケットに地雷グレネードを仕舞って怯えさせないよう非武装で近付き、馬とプレイヤーの間に入る。



『……?』

「!? えっ、だ、ダガー……!」



歩みを止め、不思議そうにこちらを見るエルダーホース。

対して、目を見開いて絶句するプレイヤー、レイ。


……馬よりも人のが俺見てビビってるよ。


その大きな杖を握り締め、身体はがくがく震えている。

小柄な女の子の見た目もあって、俺が悪いみたいだ。



「オレ、オマエマルカジリ(怪物)」

「ひぃっ!」


「このエルダーホース、俺が倒して良い?」

「ひえ……」


「キーボード欲しい(切実)」

「ひぇ……!?」



ああ駄目だ、話にならない。

というかさっきからふざけ倒してるんだが、お馬さん攻撃してこないぞ。



「来ないの?」

『ヒヒーン!!』



ヒヒーンですって。かわいいね。

図体に似合わず中々お利口さんだ。


ちなみにこのエルダーホース、体力1ミリも減ってない。



「来ないんだ」

『ヒヒーン!』



……うん。


もしかしたら、このモンスターこっちが手を出すまで攻撃してこない感じ?

攻撃してない俺がこのレイってやつの前に出たから、彼女へのターゲッティングが消えたのか……?


そもそもHP的に攻撃当たってないっぽいし、レイへのヘイトも薄かったのかな。



「で、どうするよ。目の前居るけど」

「……このモンスターは、私達の獲物です」


「ああ了解、じゃあ他の探すね。ガンバガンバ――」

「へっ? ちょ! 待ってください!」

『クゥイーン!!』


「何だよ……」

「いや、貴方“あの”ダガーですよね?」

『ヒヒーン!』


「……」



さっきからお馬さんとレイが一緒に喋ってて頭おかしくなりそう。

俺は聖徳太子じゃないんですよ。

もう無視して帰ろうかな、ちょっともう聞き取れないですわ(笑)。



「あの“残虐非道のプレイヤーキラー”で、“テロリスト”で、“どんな手段を使ってでも経験値を稼いで”、“死体の山で高度100mまで到達した大罪人”で――」


「おいちょっと待て」



この子何言ってんの?

聞き逃さないよ??


罠士がめちゃくちゃ言われてたら怒り新党(過激派)だが、俺自身はどう思われようがいい。こんな罪ポイント300超え野郎だし。


良いんだよ。良いんだけど。

そこまで意味分からんあだ名があれば別だ。



「?」

「どこ情報だよそれ……」

「ネットですけど」


「……お前それ信じてんの?」

「はい」

「……」

「違うんですか」



アレだ。

ここまで真っ直ぐYESと言われると反応に困る。


嘘を嘘と分からない人はなんたらかんたら……そんな言葉を彼女に浴びせてやりたい。



「……残虐非道かは知らないが、まず俺は“正当防衛”しかしてないと思ってる」



残虐非道要素ある?

プレイヤーキラーって言うけど、無差別にやってない。正当防衛だぞ……多分。


アギト? ああそんなの居たね(すっとぼけ)。



「別に経験値は稼ぎたくて稼いでいた訳じゃない。というかレベル上げはそこまで優先度は高くない」



そんな最初のアギト君とか、脱獄とかあって経験値は稼げたけど、それは後から付いてきただけに過ぎない。



「死体の山に関しては常識で考えろ。バランスを無視したとして、成人男性一人の身長が200センチだったとしても50人だぞ?」



コレに関しては、残念ながら俺は物理学者じゃないのでそもそも出来ない。


石をありえないバランスで積む凄い人は見たことあるけど、それ死体でやってたらサイコパスだよ?



「……テロリストは……?」


「…………」



客観的に考えたら、非戦闘エリアで看守相手を吹っ飛ばしたのはそうかもしれない。

だがアレは布教活動だ。コラテラルダメージ。必要な犠牲――



「そうなんですね」

「俺としては違うんだけどな」


「テロリスト側はいつもそう言います。“正義は我ら”と」

「急に返すのに困ること言うのやめてくれない?」


「……じゃあ、やっぱり」

「もうそれでいいや……」

「怖い人なんですね!」

「うん(てきとう)」



なんか疲れた。

というか、別にそう思われてても俺にダメージ無いし良いか。



「あと、エルダーホースもう遠くまで行っちゃいそうだけど。追ったら?」



話している途中から、あの馬は呆れた様に離れていっていた。

やっぱり、攻撃されなかったら攻撃しない紳士なんだろう。毛並みも綺麗だし()。



「……」



……いや、なんで追わないの?

この子、ずっと直立不動なんだけど――



「……エルダーホースどころじゃ無くなっちゃいました」

「えっ」


「私達は、ずっと貴方を探していたんです」

「はぁ?」


「ごめんなさい……その、会えば、分かります」



……何を言ってる、コイツは。

“私達”?



「っ!」



《アーノルド 魔導士 LEVEL23》



瞬間。

森を掻き分けて、現れた。



「初めまして、ダガー」

「……誰だよお前」


「ああ失礼。『プラチナレッグ』のアーノルドだ」



黒の長髪。

大きな杖にローブ。

そして特徴的な、木のメガネを掛けた彼が。




「キミを、私達のチームへ勧誘しに来た」




確かに、俺へそう言ったのだ。









△作者あとがき


いつも応援ありがとうございます。明日も投稿出来るはず……。出来なかったらごめんなさい。







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