グリーンエルド・奥地②
そして、俺は一人になった。
ワイルドボアーをハメていたら仲間を失った……。
世界に復讐を誓わないが、ちょっと寂しい。
リンカでも居れば違うんだろうが、アイツ居たら無双しそう。
俺の為にならないね。
「……ま、次は“アレ”だな」
グリーンエルド探検隊(解散)は、更に奥地へ向かった……。
☆
《大地雷が発動しました》
「ボ……」
《経験値を取得しました》
「うーん」
通りすがり、少し処理しにくくなったマンドラゴラを狩りながら歩く。
あの馬……と行きたいところだったが、全然居ないね。
マンドラゴラやワイルドボアーの二種に比べて明らかにレアモンスターなんだよな。
「どこかな~ほいっほいっ」
マップでいえば大分奥の方だろう。
というわけで、護身用の地雷グレネード×3をジャグリングしながら歩みを進める。
えっほえっほ。
このスリルがたまらない(5敗)。
「……ん?」
「――だ、ダメだ! 強すぎる!」
「――引くぞ!」
「――でも、こんなチャンス―――」
と思ったら、遠くからプレイヤーの声。
グリーンエルドの奥地はもはやジャングル。
ゲームとはいえ、かなり視界が悪い。
木々が立ち並ぶこの光景は、目に優しくて好きだけど。隠密行動もしやすいしね。
罠士の庭と名付けよう(ドヤ顔)。
「珍しいな――ん?」
あれ。よく見たら。
少し開けた場所。
あのデカくて黒い馬は――
《
「あっ、居た」
「――駄目だ諦めろ!」
「逃げられな――ぐあっ!?」
「あ、あ……」
草陰を掻き分けて、ハッキリ見えた。
しなやかな肢体に芸術品の様な漆黒。
風を纏うような、神々しいオーラ。
それが今、顔を天に上げ――
『■■■■■■!!』
「っ、うっさ……」
思わず耳を塞ぐ。
そして目の前の三人は――
《レイ 魔法士 LEVEL22 状態異常:恐怖》
「一人になったか」
たった今、あのハイパーボイス(適当)で二人デス。
距離が離れていた魔法士のみ生き残っている様だ。
「『こちらパーティー壊滅の為、至急応援を。恐らくレアモンスター、チャンネルは』――きゃあ!?」
なんか早口で言ってるけど。
「ひっ。ひいっ……」
『クゥイーン!!』
甲高い声を上げながら、そのプレイヤーに近付いていくエルダーホース。
……どうしようかな。
絶対アレ、このままじゃ死ぬよな。
かといって、なんか横取りみたいになったら嫌だし……。
「や、やめ――」
「――おい、そこのプレイヤー! このお馬さん倒していい!?」
社会人たるもの、報連相が大事である。
例え善意で助けたとしても、あっちから見れば悪意にも見える時はあるからね。
ポケットに地雷グレネードを仕舞って怯えさせないよう非武装で近付き、馬とプレイヤーの間に入る。
『……?』
「!? えっ、だ、ダガー……!」
歩みを止め、不思議そうにこちらを見るエルダーホース。
対して、目を見開いて絶句するプレイヤー、レイ。
……馬よりも人のが俺見てビビってるよ。
その大きな杖を握り締め、身体はがくがく震えている。
小柄な女の子の見た目もあって、俺が悪いみたいだ。
「オレ、オマエマルカジリ(怪物)」
「ひぃっ!」
「このエルダーホース、俺が倒して良い?」
「ひえ……」
「キーボード欲しい(切実)」
「ひぇ……!?」
ああ駄目だ、話にならない。
というかさっきからふざけ倒してるんだが、お馬さん攻撃してこないぞ。
「来ないの?」
『ヒヒーン!!』
ヒヒーンですって。かわいいね。
図体に似合わず中々お利口さんだ。
ちなみにこのエルダーホース、体力1ミリも減ってない。
「来ないんだ」
『ヒヒーン!』
……うん。
もしかしたら、このモンスターこっちが手を出すまで攻撃してこない感じ?
攻撃してない俺がこのレイってやつの前に出たから、彼女へのターゲッティングが消えたのか……?
そもそもHP的に攻撃当たってないっぽいし、レイへのヘイトも薄かったのかな。
「で、どうするよ。目の前居るけど」
「……このモンスターは、私達の獲物です」
「ああ了解、じゃあ他の探すね。ガンバガンバ――」
「へっ? ちょ! 待ってください!」
『クゥイーン!!』
「何だよ……」
「いや、貴方“あの”ダガーですよね?」
『ヒヒーン!』
「……」
さっきからお馬さんとレイが一緒に喋ってて頭おかしくなりそう。
俺は聖徳太子じゃないんですよ。
もう無視して帰ろうかな、ちょっともう聞き取れないですわ(笑)。
「あの“残虐非道のプレイヤーキラー”で、“テロリスト”で、“どんな手段を使ってでも経験値を稼いで”、“死体の山で高度100mまで到達した大罪人”で――」
「おいちょっと待て」
この子何言ってんの?
聞き逃さないよ??
罠士がめちゃくちゃ言われてたら怒り新党(過激派)だが、俺自身はどう思われようがいい。こんな罪ポイント300超え野郎だし。
良いんだよ。良いんだけど。
そこまで意味分からんあだ名があれば別だ。
「?」
「どこ情報だよそれ……」
「ネットですけど」
「……お前それ信じてんの?」
「はい」
「……」
「違うんですか」
アレだ。
ここまで真っ直ぐYESと言われると反応に困る。
嘘を嘘と分からない人はなんたらかんたら……そんな言葉を彼女に浴びせてやりたい。
「……残虐非道かは知らないが、まず俺は“正当防衛”しかしてないと思ってる」
残虐非道要素ある?
プレイヤーキラーって言うけど、無差別にやってない。正当防衛だぞ……多分。
アギト? ああそんなの居たね(すっとぼけ)。
「別に経験値は稼ぎたくて稼いでいた訳じゃない。というかレベル上げはそこまで優先度は高くない」
そんな最初のアギト君とか、脱獄とかあって経験値は稼げたけど、それは後から付いてきただけに過ぎない。
「死体の山に関しては常識で考えろ。バランスを無視したとして、成人男性一人の身長が200センチだったとしても50人だぞ?」
コレに関しては、残念ながら俺は物理学者じゃないのでそもそも出来ない。
石をありえないバランスで積む凄い人は見たことあるけど、それ死体でやってたらサイコパスだよ?
「……テロリストは……?」
「…………」
客観的に考えたら、非戦闘エリアで看守相手を吹っ飛ばしたのはそうかもしれない。
だがアレは布教活動だ。コラテラルダメージ。必要な犠牲――
「そうなんですね」
「俺としては違うんだけどな」
「テロリスト側はいつもそう言います。“正義は我ら”と」
「急に返すのに困ること言うのやめてくれない?」
「……じゃあ、やっぱり」
「もうそれでいいや……」
「怖い人なんですね!」
「うん(てきとう)」
なんか疲れた。
というか、別にそう思われてても俺にダメージ無いし良いか。
「あと、エルダーホースもう遠くまで行っちゃいそうだけど。追ったら?」
話している途中から、あの馬は呆れた様に離れていっていた。
やっぱり、攻撃されなかったら攻撃しない紳士なんだろう。毛並みも綺麗だし()。
「……」
……いや、なんで追わないの?
この子、ずっと直立不動なんだけど――
「……エルダーホースどころじゃ無くなっちゃいました」
「えっ」
「私達は、ずっと貴方を探していたんです」
「はぁ?」
「ごめんなさい……その、会えば、分かります」
……何を言ってる、コイツは。
“私達”?
「っ!」
《アーノルド 魔導士 LEVEL23》
瞬間。
森を掻き分けて、現れた。
「初めまして、ダガー」
「……誰だよお前」
「ああ失礼。『プラチナレッグ』のアーノルドだ」
黒の長髪。
大きな杖にローブ。
そして特徴的な、木のメガネを掛けた彼が。
「キミを、私達のチームへ勧誘しに来た」
確かに、俺へそう言ったのだ。
△作者あとがき
いつも応援ありがとうございます。明日も投稿出来るはず……。出来なかったらごめんなさい。
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