ひらめき


「何やってんだアイツ……」



ダーティーキッズ元リーダー、ハオスは思わず呟いた。



《ダガー【“瞬間最大火力バースト”保持者】 罠士 LEVEL26》



誰も居ないグリーンエルドの闇市。

ひたすらに自爆し続けている彼の姿。



――「ぐっ!! やっぱダメか……」



異様だった。

傍から見れば、それは頭がイカれている。


何かを設置して、自爆してひたすら吹っ飛ぶ。

その繰り返し。



「……」



だが、ハオスはそれを面白いとは思えなかった。

余りにもその表情が、真剣だったからだ。


決して邪魔をするべきでないと思わせる気迫があったから。



「……ッ。何ビビってんだよ」



しかしココまで来た理由を思い出す。

強者であった自分を、取り戻す為にここまで来たんだと。


足は震えている。

しかし、そのまま歩みを進めた。



「――お、おい!」


「! お前は……っ、へぇ、仲間は居ないのか」



地面に向けて呟いている彼。

一向に気付かないので、痺れを切らし声を掛ける。


当然、周囲を見回すソイツ。



「……俺一人だ」


「仲間割れか? はぁ……“用”があるなら早くしろ」



地面に置いてあった鍬を装備し、スッと立ち上がる彼。

心底面倒臭そうに、ため息を吐きながら。



「『同時罠設置』……勝って兜の緒を締めよ。その通りだ、まさか翌日復讐に来るとはな。『罠設置』――なんだ? 一日俺の事を探し回ったのか?」




睨まれる。

ハオスは動けない。


長ったらしく話をするのが、スキルの再使用時間稼ぎだとは気付いていても。



「ッ」

「――『罠設置』」



そしてその間にも、罠士は罠を生成していた。

さらにそれは瓶の中に収まる。



(あれは……!)



完成した、彼の手にある“爆弾”は禍々しい雰囲気を放っている。

先ほどまでの爆発音の正体がそれだとは、流石に彼もこれまでの経験で察した。



「……来ないの? 罠、もっと増やしちゃおうかな〜」

「ッ――クソが!」




足が震える。

ようやく得た機会。


コレを逃せば――もう訪れないかもしれない。




「ああああああ!!!」


「うおっ」




だから、大声で恐怖を誤魔化した。

走る――走る。


やがて届こうとした時。

緊張。恐怖。焦り。

それらが彼の思っている以上に高まったせいか。


半ば“トラウマ”になっている罠士に、無理に向かっていったせいか。



「あッ」



転んだ。

それはもう、盛大に。

普段の彼なら絶対にしないようなヘマ。


刃は届くことなく。

追撃とばかりか、突如として生成されたその“穴”に――吸い込まれていった。



《状態異常:移動不可となりました》



(落とし、穴……)



転んだ視線の先は、暗黒空間。

そのまま顔面から突っ込む。


同時罠設置……罠士は、地雷と落とし穴をあの時設置していたのだ。


……その鍬の先端で、この落とし穴を。

いつもなら見落とさないミス。

しかし今の彼には、言い訳を探す余裕すらない。



「……ッ」



やられた。

とんでもない隙だ。

背中はがら空き。抵抗の手段もない。


だがそれ以上に――惨めだった。

転んだ挙句、落とし穴に引っ掛かり。


まもなく、上からあの“爆弾”が――



「……?」



来なかった。

間違いなく追撃のチャンスなのに。


震えていた足を抑えながら、斧を地面に突き刺し立ち上がる。




「…………」




落とし穴の効果時間は終了。

そして見えた。


……“固まる”彼の姿が。



「――あ。ああ、そうだったんだ」


「“体勢”だ。なんであんな無理な体勢で行けると思ってた?」


「鳥があんな姿勢で飛ぶか? モモンガが滑空するか? なんで気付かなかった――」




(な、なんだコイツ……)



ブツブツと呟くダガーに、不気味なモノを感じ後ずさる。


危険信号。

格好のチャンスであるはずなのに。


そこには、絶対に手を出してはいけないと感じとった瞬間に。



「――あっすまんもう俺の負けで良いよ」

「えっ」


「おかげで大事な事に気付いたんだ――今すぐ試したい!」



そう声を掛けられる。

彼の瞳は、闘う前と別人と思える程輝いていた。


まるで子供が、ずっと欲しかった玩具を見つけた様に。



「な、なんだよソレ……」


「『罠設置』!」



ダガーは既に、この決闘に全く興味がない。

地面を弄り始める彼には――先ほどとは違う意味で、刃を向ける事が出来なかった。



(バカらしい。付き合ってらんねぇ)



そのまま踵を帰そうとするハオス。


この男は頭がおかしい。

そしてまた――“勝てる”ビジョンが見えない。


だから今は止めておく。

レベルを上げて、勝機を持てた時に――



「――あっ、おい! お前も飛んでいくか?」


「……は?」



そう諦めた時。

掛かるはずがないと思っていた声が聞こえる。




「礼代わりに、“空”に連れてってやるよ」

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