最後の罠



《プレイ上限時間に到達しました》


《ログアウトします》


「ッ――」


大亀と共に大穴へ落ちていく。

最初、死ぬと思った時とは正反対の感情。

悔しい。やりきれない。あと一分一秒でも戦っていたい。


『クロセ』。

せっかく助けてくれた彼には、申し訳なさがいっぱいだ。

俺だって一人じゃ絶対に無理だった。



もう少しで倒せるところだったんだ。

経験値報酬は受け取られなくても、彼とアイテムなりは分配するつもりだった。


……ああ、クソ。これじゃ全て無駄だ。


彼が来る前に。

死に物狂いで一発でも入れられていれば――



「……ん?」



胸中きょうちゅうの思いとは裏腹に、自分は未だ視界が真っ暗だった。

このふわふわした感覚は――VR空間?

最初のキャラクター作成時、AIと会話していた場所。



《戦闘中にパーティー状態で強制ログアウトされました》

《申し訳ありませんが、設定の変更が必要です》



「は?」



暗闇の中、そんなアナウンスが聞こえる。

……リンカの時もそうだったが、基本モンスターとの戦闘中はログアウト出来なかった。


死ぬから逃げる! なんてのは不可能なんだろう。


でも、今回は別だ。

時間制限による強制ログアウト。


《『闊歩する大地グラウンドトータス』討伐の報酬取得権限を持つパーティーメンバーはダガー様のみです》


《特例で、経験値分配設定・アイテム分配設定を変更する必要があります》


《『1』、報酬取得権限を維持――これを選択すると、ログインしているパーティーメンバーが『闊歩する大地』討伐成功時、次回ログイン時に権限を持つダガー様のみが討伐報酬を取得します》


《『2』、報酬取得権限を破棄――これを選択すると、ダガー様以外のログインしているパーティーメンバーに討伐報酬取得権限が移ります。この場合ダガー様は権限を破棄されているので、報酬は取得できません》



「……」



そう告げるアナウンス。


モンスターが残り10%からのパーティー状態。

そして当の報酬取得可能なプレイヤーが『時間制限』によるログアウト。残ったのは、報酬取得が出来ないパーティ―メンバーのみ。


かなり特殊なケースなんだろう。

ヘルプにも書いてなかった気がする。



「……ったく」



闊歩する大地アルボルアーヴァス』。


見ず知らずのクロセに、その報酬取得権限を移すか、移さないか。

簡単なことだ。

たった『1%』削るだけで――彼は全てを手に入れる。


数時間掛けて削って、途中ではバカ三人組も乱入。

そこからまた削って。

何度も死にかけた、なんなら一度彼らに殺された。

そんな俺のこれまでの苦労は水の泡。

99%、いや100%自分の功績だ。




……なんて。




「――『2』だ。当たり前だろうが」




《承知いたしました》

《現在、ダガー様以外のログインしているパーティーメンバーに闊歩する大地グラウンドトータス』討伐報酬取得権限が移ります》



そう聞こえたアナウンス。安心してコレで落ちれる。


もともとクロセが居なかったらあのまま死んでいた。

そして呆気なく諦めてログアウトしていた。



「……仲間ってのも良いもんだな」



助けてくれた冒険者が、このまま何の意味もなく戦うなんてあってはならない。


例えそれが1%でも。

彼にとっちゃ――それは俺の99%よりも重い。

レベルは15。あの様子じゃ『手』はほとんど無い。


それでもきっとアイツなら――



「――クロセ、か」



今度こそフェードアウトしていく意識。

『逃げろ』と言ったがクロセの表情は死んでなかった。

確証は無い。逃げて、もしかしたら死んでしまっている可能性もある。


でも、今彼が戦っているというのなら。

奇跡でも根性でも何でもいい。

もしあの大亀を討伐したというのなら――



「ま、アイツなら倒せるだろ」



大亀討伐の瞬間。

受け取らないと思っていた報酬が、彼だけに、山の様に降ってくるその時を。

驚くアイツの顔を、見れないのが残念でしょうがない。


コレは、俺がお前に仕掛けた最後の『トラップ』だ。

贈り物サプライズなんて言葉は違う。

なんせ、自分は『罠士』だからね!



「がんばれよ!」



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