『10%』の共同戦



「うおおおおあああああああああ!!」 

「……頼むぞクロセ」



クロセが絶叫しながら、暴れる大亀を引っ張ってくれている。

その内に俺は地面に手をやった。

鍬? 逃げてる途中に離して紛失中。



「『罠設置』」


『コ――オ――!』

「――死ぬ! 死ぬ!! 死ぬって!!!」



大丈夫、お前は死んでない。

あと10秒待ってくれ――



《落とし穴を設置しました》



「えっと、ココだな――『罠設置』……あと二つ」



《落とし穴を設置しました》

《二つの落とし穴が合体されました》

《大落とし穴が設置されました》



「はい?」 

「あああああああ早くしてくれ!!!」


「ッ、『罠設置』……!」 


そのアナウンスで思考停止に差し掛かるが。

クロセの絶叫で我に返り、目的通りもう一つ作成。


そのまま思考をぐるぐる回す。

もしかしてダーティーキッズ倒した時にスキルも上がって何か増えたのか?


分からない。でもスキル一覧なんて見る暇もなかった。今もない。

当初の予定では3つ重ねて落とし穴を設置するつもりだったが――今はもうこれで行こう!



《落とし穴を設置しました》



「……来た。クロセ、こっちに逃げてこい!」

「無茶ばっか言いやがってこの野郎! 『ランスケープ』!!」



その瞬間、彼の足がとんでもなく速くなる。

急にターンを決め、俺の元へ逃げかえってくるクロセに――大亀は全く追いつけていない。



『コ――……』

「ははは! 付いてこいよノロマガメが――やってやったぞ!」


無事帰還。

なんか口悪くなってるけど。

何はともあれ、お前は最高だ!



「ナイス。そのまま通り過ぎて俺の背中の方向に逃げてくれ」

「了解――!」



『――――』


「ああ……頼む、成功してくれよ」



……俺が、なぜ『壊される』と分かっている罠を設置したか。


簡単なことだ。

壊されなければ良い。

いや、少し違うな。壊される前に発動すれば良い。


それは――『落とし穴』だからこそ可能な技で。


『検証ナンバー12』。

落とし穴を30㎝間隔で二つ設置。

発動してハマると、合成されてでっかい穴になる。


『検証ナンバー22』。

リンカの矢により、設置した落とし穴に毒罠は破壊された。

しかし『発動した』落とし穴は破壊されず、穴として残っていた。

つまり、罠は発動前の状態だと破壊されるが発動した後は何かあっても保持される様。

毒罠は発動した瞬間効果が切れるので無意味。


『検証ナンバー38』。

落とし穴のサイズは設置した段階ではなく、プレイヤー、モンスターが入ろうとする瞬間に決まる。


この検証を三つ合わせるとこうだ。

グラウンドトータスが踏み壊す前に俺が落とし穴を発動すれば壊れない。

そして穴は入ろうとした対象によりサイズを変える(上限はある)。

しかしその上限を、落とし穴3つを近い間隔で設置すれば3つの穴が合体され――大亀をもハマる『巨大落とし穴』になるはず。


要約すれば、グラウンドトータスを落とし穴にハメる。


それが俺の計画だ。

成功するかは分からない。でも、地雷でコツコツやるよりこっちの方が良いと思った。大樹霊がそれを教えてくれたからな。

今回は大落とし穴という不確定要素があるが。



『コ――オ――!!』


「く、来るぞ――!」



到達、恐らく2秒前。

移動の揺れで足元が取られそうになるが。



「……今だ」



0.5秒前。

迫りくる巨大な手が地面に触れる前に。


《大落とし穴が発動しました》

《落とし穴が発動しました》



俺は足でそれを発動して――後ろへ跳ぶ!






「墜ちろ」






『コ――コオオ――――!?』



背中越し。

俺がそう言ってやれば――聞こえてくる大音量の悲鳴。


大成功。


振り返れば、半径3mは下らない大穴に身体ごと突っ込まれている。

想定していたよりもデカい穴――おそらく想定外の『大落とし穴』のおかげだろう。

体力は大きく減って残り6%。


イケる。

そう思ったのも束の間――



《まもなく一日のプレイ上限時間に到達します》

《ログアウトして下さい》



そんな無慈悲なアナウンスが、俺の耳に流れたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る