『フラッシュ』


『コ――オ――?』



その眩い光は、とりあえず大亀の動きを止めた様だ。

本当にフラッシュは良いスキル。

でも――そんな事思ってる場合じゃない!



『――コ――――』



一度怯んだだけで、その大きな目は未だに彼を見て動き始めようとしている。

完全に死んだと思った――そんな反応だったから、ダガーは未だ動けていない。


「――ごめんっ」

「お、おう。ありがとう」


もう一度攻撃が来る前に、片手剣を背中に仕舞ってその体を回収!

お姫様抱っことか言ってる場合じゃない。相手男だし。


「重くない俺?」

「大丈夫、軽い――!!」


『コオ――!』


背中から感じる圧。ゴールは分からない。


ただ、彼を助けたくてこんな行動を取った。

だから――次の行動の正解が分からない。



「あ、やばい。後ろ後ろ!」

「え――うあっ!!」


『ゴ…………』


「ぐえッ」

「ご、ごめん――何だあれ!?」


「大丈夫。アレは『休憩』だ――離れるぞ」

『コ――コ――』



地面に途轍もない揺れが発生。

オレ達二人は跳ねる様に倒れこむ。


そして後ろを見れば――頭と腕、足を引っ込めた亀が高速回転していた。

まるでコマみたいだ。

でも近付いてこないって事は安心していいんだな。滅茶苦茶地面揺れてるけど!


立っているのがやっとだぞコレ――


《ダガー様のパーティに招待されました》

《ダガー様のパーティに加入しました》


「理由は知らないが、助かった。ありがとう」

「あ……こちらこそ」

「えっ何で」

「え……あ、ごめん何でもない!」


冒険者になったのは彼の言葉があったから。

だから思わずそう礼を返したけど……そういやアレ盗み聞きだった。


「いや今はこんな会話してる場合じゃないか――お前は遠距離攻撃の手段ある?」

「……ない」

「了解」

「ごめん。どうする?」

「……手は、無いことは無い」

「! 本当か!?」


そう言う彼。初対面なのに――何故か凄く頼もしい。


兄が居たらこんな感じなんだろう。

そう思わせる風格――



「クロセ、とりあえず三十秒ぐらいアイツの注意引いといてくれない?」

「えっ」



やっぱ違うかもしれない。

無茶振りだろそれ!


『――コ――オ――』


「やば、動き始める――とりあえず固まってたらダメだ! 作戦開始!」

「分かった……っ」



オレとダガーは二手に分かれる。

起き上がる大亀を前に――見つけた『位置』で剣を掲げる。


「お、おい頼むぞー!!」

『コ――――』


剣を掲げたまま、固まる自分を見て叫ぶ彼。

当然だ。今も大亀はそっちに向かおうとしている。


でも大丈夫。

まもなく終わる。

『溜め』時間が。



「――目つむってくれダガー!!」

「えっ」




この『フラッシュ』はずっと己を助けてくれた。

そしてコレまでの旅で色んな効果を見せてくれた。

だから、記録しようと思ったんだ。


いつか。

きっと、その『旅の記録』の中身――記したメモが役に立つと思ったから。



『No.3』


剣を太陽光に当てた状態で、五秒間保持。

その後『フラッシュ』を使用すると、効果が何倍にも膨れ上がる。




「――『フラッシュ』!!」


『――コ、オ……?』



木漏れ日に当てた片手剣。

カメラのストロボを発光させた様に、森全体が白く色を変える。


当然、その大亀の目も。

……どうだ、まだ足りないか――



『コ――オオ――』

「! 来た……そっちこそ頼むぞダガー!」



重そうな巨体をズズズと動かし――その瞳がこちらを向く。

声をかけ、オレもその大亀に相対した。



『――――』



その手足を地面に叩きつけながらオレへと向かってくる。

剣は仕舞った。


ここからは、オレとお前の鬼ごっこだ。



「掛かって来い――!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る