見下ろす影


「……何だったんだよアイツ――っ」

「はっ、ただの捨て台詞だろ。だっせー」

「ああ。つーかコイツ体力多過ぎ!」


三人は、ダガーの居なくなった後のグラウンドトータスと闘っていた。


(アイツは……来てないな。1対3だし、普通に考えて来ねーだろうが)


ダーティキッズ、リーダーの『ハオス』は周りを見渡し念の為確認する。

ダガーの去り際の表情に、引っかかるモノを感じたから。


しかし、そんな要らぬ考えを取り払って前を見る。


『――――』


「おいそっち行くぞ『フール』、気を付けろ……『パワーショット』」


「あーうざってぇ!」

「ったく面倒なモンスターだなっ!」



ナイフを持つ二人は、近付こうとしてもその踏み下ろしがあるせいで近付けない。

タイミングを見計らい、一撃入れて逃げるのがやっとだ。


結果、弓士のハオスが主にダメージソース。

ダメージが通りやすい亀の手足に集中攻撃を行い……なんとか体力を減らしていた。


闊歩する大地グラウンドトータス・状態異常:睡眠》


『――……』


「お、おい、やばくね」

「逃げろ!!」

「急になんだ――っ!!」


そして、残り体力30%を切った時。

唐突とグラウンドトータスは歩みを止め、首と手足を甲羅中に引っ込めて不動となった。


当然支えていた身体は宙に浮き――そのまま重力に逆らう事なく落下する。


轟かせる爆音。

振動する地面――そして、静寂。


「……はあっ?」

「急に止まったぞ」

「気を付けろ……いや、今こそ削るチャンスかも!」


しかし完全に手足は引っ込められた訳では無く――攻撃は確実に通ると分かった。


「『ダブルエッジ』!」

「『スティング』……ハハっやっと存分に攻撃出来る!」


「ああ。もうちょっとだ――『パワーショット』」


その手足に命中していく攻撃。

確実に減っていくそのHP。




――そして。


『這い寄ってくる』そのモンスター達に。

彼はようやく気が付いた。



「……え?」



喉から、すっと抜けた様な声を上げる。

リーダーである『ハオス』は、その光景に思考が一瞬出来なかった。



《グリーンタートル LEVEL25》

《グリーンタートル LEVEL25》

《グリーンタートル LEVEL25》

《グリーンタートル LEVEL25》


《グリーンタートル LEVEL25》

《グリーンタートル LEVEL25》

《グリーンタートル LEVEL25》

《グリーンタートル LEVEL25》



迫り来るその亀の群れ。

ハオスから見て、仲間二人達の遠く、右からジャイアントトータスを守るかの様にぞろぞろと歩いて来ている。



「……ッ!」


「おいおいコレ、コイツの仕業か」

「子亀を呼び寄せるとかダルイな」


(本当にそうか……?)


ハオスは思考する。

もしこの亀の群れが大亀の仕業なら。


だとすれば――どうして、俺達ではなく『トータス』に向けて歩いてきているのか?



「ああクソっ邪魔なんだよ!」

「どっか行け!」


『コ……』

『コッ!?』


「あ、おい! やめとけって――」


(何なんだよ、この引っかかる感じ……!)


やがて二人に辿り着くグリーンタートルの群れ。

それを見てまた思考に歪みが現れるが――ハオスの中で答えは出ない。


「いやでも、とりあえずこの子亀集団倒さなきゃ大亀どころじゃなくね――ッ? しかもコイツ全然起きねーし」

「眠ってる間にやっちまおうぜ……邪魔過ぎる、多分そういうギミックだろ」


「……クソっ。ああ! 『パワーショット』!!」


この睡眠状態となって、10秒が経過。


「『ダブルエッジ』!」

「結構硬いなコイツら……『ダブルエッジ』!」

「でも三人なら速攻で――」


彼らは攻撃先を変更。迫るグリーンタートルに武技を浴びせ始める。集中砲火を受けた子亀は順調にHPを減らしていくが。


その選択肢は――合っているのか? 間違っているのか?


答えを知るのはただ一人。

『高み』の見物を決めている――その人物。


大亀の甲羅に。

彼らの遥か頭上……緑が生えているその中に、もはや慣れた『匍匐ほふく』状態で居る彼は。




――「ばーか」――



聞こえない様に。

そう呟いて、一人笑った。


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