『ここから出して』


現代において、鍬なんか使わねーだろなんて思っていた。

甘かった。

一個人がやるガーデニングや畑作業じゃ、まだまだ現役らしい。


実際動画もいっぱい出て来た。

何か鍬って6種類ぐらいあるらしい。舐めてた。

すごいよ鍬。日本刀の種類より多いよ多分。

しかも付いてる刃は外して交換とかできるらしい。凄い。いやマジで。


びっくりしたのは電動鍬なんてカッコいい奴もあった事。

電動自転車ならぬ電動鍬である。

運営さん、実装して下さい。ファンタジーがなんだって?


「『罠設置』」


そして、いつもの様に俺はそのスキルを発動する。

牢獄の中、鉄格子から。

隣の囚人の位置に――『鍬』を伸ばして。


《落とし穴を設置しました》


「……へ?」


《落とし穴が発動しました》


「わあッ!!」


あ、落ちた。やっぱ落とし穴って最高だ。

何気にリンカに罠を仕掛けたのは初めてか?

飛んだ時は別として。


検証結果。涙で濡れた地面は、落とし穴が発動後綺麗さっぱり消えていた。

やはり落とし穴は地形リセット効果がある。これはどこかで使えるかもな。


「……ッ」

「お前ってもしかしてバカ?」


「う……」

「困ったら言えって言ったよな」


「うう……」


あ、これ大分凹んでるわ。

言い返してこないって相当だな。


正直、泣いてるなんて思わなかった。

あのメッセージの後、フレンドリストからリンカの居る場所を見たら牢獄だった。

ログアウトして、更にログイン後も居たものだから……コレは苦戦してるな~アドバイスでもしてやるか! と思って来たらコレである。びっくりだよ。


その後は牢獄で3つ左のリンカ部屋まで、落とし穴で檻をすり抜けて移動。

隣まで移動してようやくコイツは気付いた。


「うーうー言ってないで何か話せ」

「……」

「無言になっちゃった」


ちょっとキツめに言うが反応なし。

これは重傷だ。

どうしよう、思ったより面倒な感じになっちゃってるな。


サービス開始三日目なのに、まるでサ終発表みたいな表情になってる。

大丈夫、サービス開始前にサービス終了したゲームもあるんだ。

三日生きただけでも凄いと思わないと――って何か違うな。


「なあリンカ」

「……」


「ゲームでぐらい、正直になれ」

「ッ!」


人が考えてる事なんて、誰にも分からない。知りたくもない。

でもコイツに関しては少しだけなら分かってしまう。


今この牢獄で、彼女のメンタルは『折れた』。

大袈裟だとは思う。だがリンカにとっては現実よりも『FL』の方が難易度が高いんだろう。本当に色んな奴が居るもんだよ。


「……あたし。何も出来なくて」

「そうだな」


事実である。

見れば看守のHPは、まだ80%程残ってる。

リンカのHPは、逆にもう半分近い。


「このままじゃ、ダガーにずっと置いてかれるんじゃないかって。焦って、勝算も無いのにココに飛び込んで。気付いたらもう、取り返しの付かない事になっちゃって」

「うん」

「……でも」

「ああ」


「でも、ね――この狭い部屋じゃなくて。もっと暴れられる外ならあたしは――」

「――簡潔に言え、5W1Hだ。俺は何を、いつどこで、どうすれば良い?」

「!」

「同盟のお前には出来る限りの事はしてやる」

「……その」

「ああ」



彼女はようやく顔を上げた。

そしてその目は、輝きを取り戻していて。



「今すぐあたしを――『ここから出して』!」



鉄格子を触り、リンカは言う。

『牢獄から逃がして』でもなく、『看守を倒して』でもない。



「アイツを、倒して見せるから」

「了解」




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