夢見る少女は空を飛ぶ


「……え、何なんだよこれダガー」

「罠」

「いや分かるけどよ。何でこんな街中で」

「早速だけど、検証に付き合ってリンカちゃん」

「キモッ」


もう聞きすぎてダメージゼロ。アオイに言われたら多分自決。

集合場所、始まりの街・非戦闘フィールドの武器屋横。

ここは影になってて人が少ないんだよな。


で……今日はリンカは赤ネームじゃなかった。一安心。

真っ赤なまま来られたら……ま、その時はその時だ。


「……で、何なんだこの黒いの」

「ご協力どうも――あっ! それ触れんなよ爆発するから」

「はぁ!? あッぶねぇ!」


今の状況。

地雷×2と、落とし穴×1を設置中。

落とし穴を真ん中にして、それを囲う様に地雷を2つ設置してある。

言わずもがな、あの『穴ジャンプ』に地雷を追加した『地雷ジャンプ』の強化版だ。地雷を2つにした事によって飛距離は上昇……制御は難しいが、先程成功した。



「って訳で。俺の背中に掴まれ」

「は?」

「移動ついでに検証するから」


リンカは背丈が小さくて助かった。

おんぶしても多分余裕。つーかこのゲーム、体重とかどうなるんだろ? 全員固定?


「……うん」

「前でも後ろでもどっちでもいいけど」

「う、後ろに決まってんだろ!」


もう一度言おう。俺のタイプは身長が高くて包容力のある年上のお姉さん。

見た目は都会に染まりきってなくて、顔にほくろとかあると神です。


つまり彼女は、前でも後ろでもどっちでも良い。子供相手してる感じだから。金髪だし。


アオイ? おんぶでも緊張する。

というかBANされそう。ほんとに可愛かったなぁ彼女……もう会わないけど。


「えっ後ろじゃないの?」

「……前」

「いやどっちでも良いけど――よっと!」

「ぅ……ッ」

「軽ッ」


結局リンカは俺の前に来た。

屈んで彼女の上半身と下半身を支え持つ。

そして立ち上がり、ぐいっと俺の腹まで持ってきた。


世間ではお姫様だっこと呼ばれているが、この場合はクソガキだっこである。

一応運びやすさでいえばおんぶよりこっちのが上だし、ぶっちゃけ助かった。

声も届きやすいし様子も見えやすい。



「うぅう~~ッ!」

「え、何」

「早くしろよ! 検証するんだろ!!」

「うわジタバタすんな――落ち付けって! どうどう!」

「……あ」


両腕を振り回すリンカ。恥ずかしいならやめとけよ!

とりあえずさっさとやってしまおう。


「リンカ、地雷には触れない様頼むぞ」

「……うん」


《落とし穴が発動しました》


リンカを抱えて、生成された穴に落ちる。

彼女を抱えているせいか、少しだけ穴が広い。助かる。


「ひいッ!」

「ナイス回避」


そのまま、地雷2つ無事落下。

後は――これを踏んでジャンプするだけ。



「じゃ、空に行こうか!」


《地雷が発動しました》

《地雷が発動しました》


「ぐッ」

「え――わぁ!!」


「行くぞ――!」


爆風を両足で受けながら、体勢を前へ。

バランスを崩さない様に、上昇しながら目標を定める。


「とっ、飛んでる飛んでる!!」

「だからジタバタすんなって!」


飛行距離、大体4,5mぐらいか?

やはり二人だと縮む様だ――


「――っと!」

「はッ、はッ、え……どこ、ここ?」

「驚いたか? 武器屋の屋根だよ」


先程した10分の検証で、俺はそれを確認していた。このフィールドの建物にのれる事を。


「良い眺めだろ?」

「……す、すげぇ。すげぇよダガー!」


目を輝かせるリンカ。

子供は高いところが好きだからな。

きっと喜ぶと思った。検証ついでだけど。

同盟の願いを受けてくれた、彼女へのほんのお礼だ。


これでパーティでもこの地雷ジャンプが使える事が分かった。

流石に二人までだがな!


「すごいすごーい!!」

「はしゃぎすぎだろ……」


子供以上の子供、クソガキリンカには効果抜群だったみたいだ。

屋根を走り回っている。


おっ跳んだ。今は雑貨屋の屋根だ。

次は防具屋……まるで忍者みたい。


あの、どこまで行くんですか?



「話を戻そう」

「そうだった……リンカちゃん迂闊だぜ」


「簡潔に言うと、この街の牢獄のボスみたいな奴倒したらスゲー経験値貰えた」

「……牢獄ってもしかして門番にやられたら連れて行かれる場所かァ?」

「ああ」

「え、テメーそこのボス倒したのかよ」

「うん」

「攻略じゃ報告無かったぞ……お前ってもしかして凄い?」

「罠士の罠が凄いんだよ」


落とし穴と毒罠が勝ったんだ。

俺が強いとかそんなんじゃない。

それはお前が言われる台詞だ。


「リンカちゃんが見てきた情報と違い過ぎるぜ」

「何も知らない奴らの言葉だ」

「それは……」

「現に、こんな事まで出来てるだろ?」

「……それはそうだけど。で、でも罠士だろ? 普通思わないぜ!」


幾度となくその声は聞いてきた。

街中。さっきまで見られる度に『罠士』、『罠士のくせにレベル20』。


他人の声なんてどうでも良いが同盟のリンカは別だ。

世の中の声に影響を受け過ぎるのは、子供の良くない所だな。

ちょっと説教してやるか。


「なあ、リンカ」

「なっなに?」


……門を超えて見える戦闘フィールドの草原、動き回る人達の姿。

防具屋の暖簾のれんも風で揺れて、息をする様に動いていく世界。


俺は、そんな屋根からの景色を楽しみながら――横に居る少女に言ってやった。



「その罠士を愚弄した奴ら、見限った奴らはこの罠達の可能性に気付けてない。いや違うな、気付こうともしてない」


「今――下の道を歩くプレイヤー達が、上に居る俺達にまったく気付かず素通りしていく様に。誰も見ようとしない世界にはな、それだけ『何か』が眠っているんだ」


「罠士には罠士の可能性と魅力がある、そしてソレを俺は知ってる」



罪人が言っても雰囲気無いかもしれないけど。

きっと大事な事だ。例えこれがゲームでも。

リンカの様な天才なら尚更——世の声に影響を受けすぎて欲しくない。


偉大な学者は言った。

常識なんて、偏見の蓄積でしか無いと。



「…………ぁ。ぅ……」

「はい?」



俺ばかり喋って退屈してないか――そう思ってふと横を見れば、ぼーっと俺を見つめるリンカが居た。

目はうるんでるし、口開いてるし頬は赤いし。

眠たくなっちゃったのかな? 子供には難しい話だったか。反省しよう。


――でも起きろ。流石にちょっと辛い。

居眠り生徒を前に、教壇に立つ先生の気持ちが分かった気がする!


「リンカ?」

「……」

「リンカちゃん~」

「……」

「起きろクソガキ」

「……」

「えぇ……」


マジ? 流石に読めなかった。

これで反応無いのは反則だ。次は何て言ってやろ――


「――――んだよクソガキってオイ!!」

「うあッ!?」


と思ったらいきなり叫び出すリンカ。

時間差攻撃止めろ! 鼓膜破れる!


「うぅ……たまになら、テメーの検証に付きあってやっても良いぜ」

「今までもそうじゃなかった?」

「うるせー!」

「ああそうだ、一回牢獄行ってみるか? 俺の罠があればもう一回倒せると思うけど」

「……いや、テメーに時間取らせるし良い。その情報だけで十分だぜ」

「そっか」


ま、リンカらしいな。

コイツは寄生とか嫌いそうだし。


「アタシはアタシで倒してやるぜ!」

「その意気だ」


「じゃッ、じゃーな! 貴重な情報ありがとよ!」

「おう」


タタッと走り、屋根から屋根へ飛び移る彼女

そのままリンカは門まで行くと、飛び降り戦闘フィールドへ駆けていった。


……さて、彼女に追いつかれる前に俺も――


《リンカ様からメッセージリクエストを受けました》

《メッセージリクエストを承認しました》


《『えっ何』》

《『ま、また屋根の上連れてけよ!!』》


……良い感じに別れたと思ったらこれである。

ここでソレを断るほど、俺はクズじゃない。


《『嫌』》

《『えッ!?』》


《『1回行く毎に1検証、オーケー?』》

《『……わ、分かったぜ』》


《『ははは』》

《『テメーマジで……』》

《『言質は取った』》


口調から分かる、本気で嫌がってないんだろう。

それならこっちもやりやすい。



《『でもいつか、試す事が無くなるかも……』》

《『……ま、あり得ない話じゃないが』》



不安そうな彼女の声に。

俺はこう言って、メッセージを終わらせた。



《『その頃には、雲の上でも連れてってやるよ』》


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