閑話:リンカが狂鬼に至るまで
あたし、『
可愛いだけじゃない、強くて格好良さも兼ね備え――たくさんの仲間も居る、そんな物語の主人公に。
現実は一人ぼっち。
キラキラした主人公には到底及ばない。
あたしが異世界転生したら――そんな妄想は膨らんで。
やがて、『Freedom-Liberty』が発売。
30万なんて余裕で出せる。
下手くそなりに頑張って作った、憧れのキャラクターを真似たアバター。
アニメで見た様な弓を使う花凜な彼女を、自分に投影した。
きっと、素晴らしい世界が待っていると思っていた。
☆
《リンカ LEVEL5 弓士》
「ねぇそこの――リンカちゃん、一緒に狩りしない?」
「良いですよ~♪」
サービス開始一日目。
出来るだけ可愛く話して、身振りも可憐な少女みたいに振る舞った。
『あざとい』、そういうやつかもしれない。
女性プレイヤーは寄りつかず、男ばっかりあたしに寄ってきた。
そしてそれが誇らしかった。
あたしでも、可愛くなれるんだって。
現実じゃ不可能だったお姫様に、あたしはなれるかもしれないと。
☆
「あー、リンカちゃんは後ろ居て良いよ」
「ほらほら下がって下がって~」
「え、えぇ。大丈夫ですよ」
「良いから」
「あっ後で喫茶店行かない? VRだけどしっかり味がして――」
しかし良いのは最初だけだった。
自分よりも戦闘が下手な者ばかりで、逆に前に出ようとすれば下がって良いといわれる。
またそんな弱い奴に限って、狩りをすぐに止めて駄弁ろうとしてくる。
「――『コンタクトショット』」
「お、おいって」
「あはは、俺達邪魔っぽいな~じゃあね」
「え――」
《パーティから追放されました》
そして、我慢出来ずにあたしが前に出て戦えばこれだ。
その繰り返し。
一日目で、既にあたしは理想と違う世界に落ち込んでいた。
……でも、何時かは。
自分の強さを認めて、共に戦う仲間が出来ると思っていた。
☆
「ねぇリンカちゃん! 一緒に組もうよ」
「……ごめんなさい~、今は一人で」
「ふっ、ふふ。可愛いなぁ。良いじゃん組もう、きっと良いペアになれるよ」
「ッ……やめてくださいよぉ」
「良いから良いから」
戦闘フィールド。
もう今日は一人で狩ろう……そう思っていたら、何時かのパーティの一人が近付いて来た。
鬱陶しいナンパに、ボディタッチが目立つその気持ち悪い男。
あたしを舐めており、かつ歪んだ好意が向けられているのを感じていた。
フレンド、解除しておけば良かった。
肩を触る手が気持ち悪い。
その声も。その弱さも。
ゲームを始めたその時。
浮かれずに、このゲームの説明書をしっかり呼んでいたのなら。
『ブロック機能』に『通報機能』を、知っていたのなら。
「――触んな、ゴミが」
《罪ポイントが加算されます》
《PKペナルティが発生します》
《PKペナルティ第一段階》
彼に、その矢を命中させる事も無かったのに。
「ひっ……あ、あーあ! 終わったぞお前!」
「あァ?」
「ひい……っ!」
怯えるその身体は蹴り飛ばせば簡単に崩れた。
見下ろした彼の姿は、本当に醜く。
消してやりたい――そう思った。
「失せろ」
「……はっ、はは。殺してみろよこの
「あ? テメー何つった!?」
「この暴力女が! 自分の事可愛いとか思ってんじゃね――」
「ッ!! ――『パワーショット』!」
もう止められない。
システムの力を借りず、あたしはその男を蹂躙した。
☆
《『セイ』様をキルしました》
《罪ポイントが加算されます》
《PKペナルティが加算されます》
《PKペナルティ第二段階》
《報酬を獲得しますか?》
《報酬(2)を獲得しますか?》
「……『獲得しない』」
☆
翌日。
昨日はあの男をキルしてから気分が悪くなって、すぐ『FL』を止めた。
そして挑んだ二日目。
一日目に得た経験値にアイテムもほとんど無くなっていたのが、ある意味良かった。
そうだ。
昨日は、悪い夢だ。
今日から再スタート。
この前と同じ様に、可愛く振る舞って……
《パーティに加入しました》
「よろしくお願いします~♪」
「えっちょっと待って」
「ねぇ君、罪ポイントが……30ってなってるけど」
「え」
「あっ! はは、まさかNPCにイタズラしたとか?」
「あ……あの」
「いやそれなら30も行かねーだろ? NPCに30回もってそれはそれで」
「えっもしかして君……あ、じゃあね」
《パーティーから追放されました》
――「……『PKer』だ、危なかったな……」「見た目によらねーもんだ」――
『罪ポイント』、それはどうやらパーティを組んだ時点で見えるらしく。
彼らは、あたしの反応を見て去った。
「待てよ……」
呆然とする自分には目もくれず――遠くへと。
☆
《パーティーから追放されました》
《パーティーから追放されました》
《パーティーから追放されました》
《パーティーから追放されました》
《パーティーから追放されました》
《パーティーから追放されました》
気付けば寄ってきた者達は全員、組んだ瞬間から去って行く。
――「おいアレ見ろよ、確か掲示板で見た危険人物だ」「マジ? 逃げるぞ」「誰でも見境無くキルするらしい、しかもスゲー慣れてる」――
狩り場。
たった一人のあたしを、嗤う様に聞こえてくる声。
昨日のアイツが、掲示板とやらであたしの悪名を広めているらしい。
悪いのは、あのゴミ野郎なのに。
なんで、あたしが。
あたしは――ただ『憧れ』を目指しただけなのに。
どうしてこんな思いをしなくてはならない?
《セイ LEVEL7》
「ひひっ……良い気味だな! フレンドはもう俺だけじゃね?」
「ッ……! テメェ!」
不意だった。
近付いてきた、そのゴミ野郎。
そういえば、フレンドリストからソイツを消していなかった。
「わざわざ同じチャンネルに来て上げたのに酷いなぁ」
「あァ?」
「君はもう戦闘狂の殺人鬼。ほら、君と組んであげられるのはもう僕だけ――」
「――『コンセントショット』!」
「ぶっ……!」
《罪ポイントが加算されます》
《PKペナルティが発生します》
《PKペナルティ第一段階》
「二度も言わせるな。失せろゴミ」
「あっ……あ、あーあ! やっちまったなお前!」
《アリ LEVEL6》
《ユウヤ LEVEL8》
「マジでやったじゃん」
「PKペナ持ってる奴、マジで経験値上手いらしいぞ」
「ははっ、覚悟しろ――」
その背中から現れる仲間とおぼしき野郎共。
待ち伏せしていたのだろう。
自業自得。手を出したこの女が悪い。だから容赦なく狩ってやろう――
――なんて、考えを理解した途端。
氷の様に冷たい血が、身体を駆け巡っていく。
要らない思考は消え、精神が研ぎ澄まされていく。
この感覚は、好きでもないが嫌いでもない。
それでも――今はコレが良い。
「……なあ、テメェら」
『戦闘狂』……『殺人鬼』。
このゴミ野郎はそう言った。
なら。
どうせ、流れてしまっているのなら。
あたしが――この『リンカちゃん』が。
「その噂。『
☆
醜い者達は動きすらも醜かった。
何も考えずに振られるその剣が可哀想だった。
猿の様に通じない攻撃を何度も繰り返し。
あたしを、能無しのモンスターと勘違いしているのだろうか?
「おらっ――『スウィング』!」
「ッ」
片手剣、横薙ぎのその武技。
あたしは地面に這う様に体を倒し、避けて。
「ひいっ……!」
接近。
手に持つ矢を、その晒した首元に突き刺す。
怯える様に倒れるゴミ一匹。
「っ、らあああああ!」
「……『コンセントショット』」
そして突っ込んでくる斧持ち。
振りかぶるがこちらが早い。
その顔面の、
『コンセントショット』……敵が近くに居れば居るほど威力が上がる矢を放つ。
隙も少なく、あたしにはぴったりのスキル。
最初から持っていた訳じゃなく、狩りをしてたら手に入っていた。
「ぐっ、あ……」
「ッ—―バレバレなんだよ」
後ろ。気配。
倒れる斧持ちの頭を踏みつけ跳び、背後から迫っていたもう一人の攻撃も避ける。
「『パワーショット』」
「がぐっ!!」
上空からの一撃。
『パワーショット』。こっちは初期の弓武技。名前通りの威力が高いそれを、ソイツの首元に到達させた。
「もう終わりか?」
吹っ切れたおかげで迷いは無い。
コイツら三人程度なら――ゼロダメージで終了だ。
☆
「つ、強すぎだろ――ッ」
《『アリ』様をキルしました》
《罪ポイントが加算されます》
《PKペナルティが加算されます》
《報酬を獲得しますか?》
「こっちは三人――ッ!!」
《『ユウヤ』様をキルしました》
《罪ポイントが加算されます》
《PKペナルティが加算されます》
《報酬を獲得しますか?》
《報酬(2)を獲得しますか?》
《キル報酬を獲得しますか?》
「くそ、このビッ――」
《『セイ』様をキルしました》
《罪ポイントが加算されます》
《PKペナルティが加算されます》
《PKペナルティ第二段階》
《キル報酬を獲得しますか?》
《キル報酬を獲得しますか?》
《報酬を獲得しますか?》
《報酬(2)を獲得しますか?》
《報酬(3)を獲得しますか?》
《キル報酬を獲得しますか?》
《キル報酬を獲得しますか?》
《キル報酬を獲得しますか?》
「――『獲得する』」
《経験値を取得しました》
《レベルが上がりました! 任意のステータスにポイントを振って下さい》
《レベルが上がりました! 任意のステータスにポイントを振って下さい》
《レベルが上がりました! 任意のステータスにポイントを振って下さい》
《レベルが上がりました! 任意のステータスにポイントを振って下さい》
《レベルが上がりました! 任意のステータスにポイントを振って下さい》
《レベルが上がりました! 任意のステータスにポイントを振って下さい》
《レベルが上がりました! 任意のステータスにポイントを振って下さい》
《体術スキルを獲得しました!》
《弓スキルのレベルが上がりました!》
《弓スキルのレベルが上がりました!》
《弓スキルのレベルが上がりました!》
《弓スキルのレベルが上がりました!》
《弓スキルのレベルが上がりました!》
《弓スキルのレベルが上がりました!》
《接射スキルのレベルが上がりました!》
《接射スキルのレベルが上がりました!》
《接射スキルのレベルが上がりました!》
《接射スキルのレベルが上がりました!》
《接射スキルのレベルが上がりました!》
《接射スキルのレベルが上がりました!》
《体術スキルを獲得しました!》
《称号『罪を背負いし者』を取得しました》
《称号『初めてのプレイヤーキル』を取得しました》
《罪ポイントが加算されます》
《PKペナルティが加算されます》
《PKペナルティ第四段階》
その報酬は、今までの自分を消し去るかの様に莫大なモノで。
――「おい、アレ」「レッドネームだ」「倒そうぜ」「しかもあの真っ赤の名前……倒したら凄い事になるんじゃね?」――
この朱に染まった名前を見て、餌に集う虫の様に寄ってくる者達。
なんとなく、彼らの前で倒れたらこの報酬も消えると悟った。
だが関係ない。
死ぬ事など。
こんな有象無象に負ける事など――この自分には無い。
……ああ。
ふっきれたおかげだろうか。
本来のあたしに戻ったからだろうか。
――氷の様に頭が冴え。
――風の様に体が軽い。
「相手してやるよ」
この時決めた。
憧れのお姫様は捨て去って。
『リンカちゃん』は――テメーらゴミ共を踏み台に。
突っ掛かってきた雑魚共を全てひれ伏させ。
このゲームの、トップに立ってやる。
☆
《『ハいる』様をキルしました》
《経験値を取得しました》
《罪ポイントが加算されます》
《PKペナルティが加算されます》
《『あや』様をキルしました》
《経験値を取得しました》
《罪ポイントが加算されます》
《PKペナルティが加算されます》
《『さんかっけー』様をキルしました》
《経験値を取得しました》
《レベルが上がりました! 任意のステータスにポイントを振って下さい》
《罪ポイントが加算されます》
《PKペナルティが加算されます》
《PKペナルティ第五段階》
辺りで見ていた者共が襲い掛かる、返り討ち。
そのループ。
迫り来る者達はいつの間にか消えていた。
――「お、おい止めようぜ」「逃げるぞ!」「アイツ強すぎ」――
「……」
《罪ポイント【91】》
やがてあたしは、その恐怖の目線と大量に積み重なった罪ポイントで悟る。
キャラ再作成でもしない限り――『あたしはずっと一人なのだと』。
☆
「……あは」
歩いて行く道は、自然と誰も居なくなる。
心地良い。
《セイ様をフレンドから消去しました》
《セイ様をブロックしました》
例のゴミ野郎を忘れずに登録して。
《PKペナルティが第四段階に低下》
「……これ、下がるんだ」
あたしはこのPKペナルティが解除されるのを待つために、狩り場を歩いた。
後は……『同志』が見つかれば良いな、とそんな淡い期待を込めて。
勿論仲良くなんてする気は無い。
ただの暇潰し。ただの情報交換。ただ、利用するだけ。
あたしは一人で良い。
もう、フレンドなんていらない。本当だ。
絶対にキャラ再作成なんてしてやるもんか。そんなの負けを認めたようなもの。あのゴミ共が嘲笑うのが見えて嫌。
……そして。
そのあたしの『一抹の望み』は、どうやら叶った様で。
「――――ありがとう、人生で一番楽しかったよ」
遙か遠く。
その、闘う罠士の男に出会ったのだ。
□
【職業説明:弓士】
スキルによりDEX、AGIに追加ステータスが掛かる。
弓を装備可能。
遠距離攻撃で戦うが、魔法士と違い高威力の攻撃ではなく手数で攻めるタイプ。
防御は低いが回避力は高いためソロでもやっていける。
ただ狙う場所によりダメージが変動、また単純に弓の扱いが難しいのでかなり上級者向けといえる。
PSが高い者が扱えば、魔法士よりもダメージ効率が高いとか。
【キャラ再作成】
メニューに存在。
使用すると、現在使用されているキャラが消去され、再度始まりからやり直せる。
何度でも使用できるが、サーバー負荷対策の為か一ヵ月に一度のみ可能。
□
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