遭遇


「はあ、はあ……ッ」



この辺りまで進むと膝下ぐらいまで草原が伸びていた。助かる。


地面に伏せながら、早十数分。

ちょっとだけ慣れてきた。


《隠密スキルを取得しました》


「……ま、これだけ隠れてたらな」


この状況、当然想定外ではあるが。

何らかのスキルは獲得出来ると思ってた。

それにしても遅すぎる! もっと早くくれたら良かったのに。


もう大分撒いてしまった、検証出来ない。

アレからひたすら逃げては落ちてを繰り返し……振り返れば追っ手は消えていた。

こういう時、『罠設置』のMP消費無しは凄く助かる。

やっぱり落とし穴って最高。


「何とかなったか……」


《時間経過により、PKペナルティ第二段階に下降しました》


どうやら15分、何もしなければこのペナルティ状態は下がっていくらしい。

メモメモ。


……ああ、余裕持ち出したら一気に退屈になってきた。

俺このまま、また数十分うつ伏せ状態か――掲示板でも見ておこう。

実はログイン後立てておいたのだ。



【罠士】罠士①【FL】


1:名前:名無しさん

罠士について情報交換しよう




終わり(無慈悲)。

これはココからの新情報は期待しない方が良いな。

ひっさしぶりにスレ立てしたらこれだよ。もう見ない!


「仕方ないか」


予想してたことだ。

まだサービス開始二日目。

自分だけで色々やっていくしかない。



「――ッ!?」



そう憂鬱になりかけた瞬間。

俺は、背中を踏まれていた。


一気に血が引いていく。

コレ、ヤバいんじゃないか?


「やだ、人だ……」

「……」


高い子供の声。

か弱い少女をイメージさせるモノ。


とりあえずそのまま無言で寝ておく。

無害アピールだ。

この名前表示な以上、悲鳴でも上げられたらマズい。


「……」

「……」


驚く程気まずいが、言葉を発する訳にもいかない。

頼む。


この際、もう変態と思っても良いからさっさと何も言わず逃げてくれ!


「こ、こわぁい……」

「……」


小鳥の様な声で呟く彼女。

なにか、凄くあざとさを感じる。


「悲鳴上げちゃうかも……」

「は?」


いやおかしいだろ。

普通、悲鳴を上げる様な奴がわざわざそんな丁寧に――



《リンカ LEVEL10 弓士》



「ッ!?」

「おッ、やっと気付いたぜ! ハハハ傑作だなその顔!」


うつ伏せから反転、ソイツの顔を見れば。

真っ先に目に入った。

俺よりも特濃のそのレッドネームが。


……小さい身体、金髪のロングヘア―に可憐な顔付き。

オシャレなのか着崩されたレザーアーマーに。

その全てがかすむ真っ赤の名前。


「よォ同士。暇だろ?」

「はい?」


「リンカちゃん暇なの。PKペナ消えるまで狩りでもしようぜ。お前もフレンドとか居ないんだろ? どうせ」

「ちょっと待ってくれ。頭が追いつかない」


さっきまでの口調どこ行った?

後その矢先、完全に俺に向いてるよな。

断れば殺る気だろ。


「俺はソロ派なんだが――ぐッ!?」

「お願いします~」


もうその口調に戻っても意味ねぇよ気色悪い! つーか踏むな。

俺はそれをご褒美として受け取れない人間なんだ。



「いや、俺逃走中だし――」

「ッ」

「って……ああ分かった分かった、付き合うよ」

「……うん」



断り続けていたが、ふとリンカの顔を見れば泣きそうな表情だった。

それはまるで、迷子になった子供の様な。


……コレが演技だとしたらコイツは悪魔だ。仕方ないからのってやる。

ああクソ、でもコイツ腹立つから以降『クソガキ』って呼ぶぞ。心の中で。

口にしたら殺されるし。


「――あ? 今失礼な事思わなかったか?」

「はははまさか! 罠士だけど良いの?」

「『誰でも』良い、邪魔しないなら」

「そっか。んじゃこっちも願ったり叶ったりだ、よろしく」

「……つまんね。ちょっとはショック受けろよ。こんな美少女なのに!」


ギザギザの前歯を見せつけながら笑う彼女。

確かに何も知らない人間がコイツを見れば、きっと『可愛い』とか言うだろうが。


「残念ながら、俺は正気なんだ」

「ソイツは残念だなァ!」

「そうかな」


需要ゼロの情報を一つ。

俺のタイプは大人しい髪色の、身長が高くて包容力のある年上のお姉さんだ。


何一つ被ってないリンカには、マジで子供だなぁとしか思えない。


「んじゃ! 狩ろうぜ!」

「ああ」


うっきうきでモンスターを指さす彼女。

良かった、プレイヤー狩るとか言い出したらダッシュで逃げていた。


「はやく!」


待ちきれないと歩き出す彼女。


……何というか。

まるで、リンカは少年だった。

さっきの泣きそうな表情といい、今の笑う彼女といい。


そして――それとは裏腹に。

遠くから眺めるプレイヤー達が、本気で恐れる様子が見て取れて。



「撒いたと思ったら、コイツが俺の方に来てたから追っ手が消えたのか……」



知らぬ間に、どうやら俺は助けられていたらしい。

一体彼女は何者だ?



「感謝するよ。リンカ」

「は……ハァ? 早く狩りするぞオイ!」

「おう」


一瞬固まった後、走る彼女を俺も走って追いかける。

色々とやる事はあるが、それは後だ。




【DEF《防御力》】

ステータスを振ったり、スキルや防具を装備することで上昇。

物理ダメージを軽減する。


【MDEF《魔法防御力》】

ステータスを振ったり、スキルや防具を装備することで上昇。

魔法ダメージを軽減する。


【防具】

着ると防御力、魔法防御力が上昇する防具。

職業毎に装備出来る防具が大きく分けて3つある。


アーマー:鎧。戦士や盾士など近接職が主に着用。生産職も鍛冶士などは着る。

見た目は重そうだが以外と動ける。

レザーアーマー:革鎧。弓士や冒険者、罠士や薬士など、主に特殊職や生産職が着る。見た目は普通の革の服という感じでアーマーよりも動きやすい。

ローブ:軽い布を羽織ったような防具。魔法士や神官、軽戦士が着る。

見た目通り軽い。上記二つよりも動きやすい。

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