遭遇
「はあ、はあ……ッ」
この辺りまで進むと膝下ぐらいまで草原が伸びていた。助かる。
地面に伏せながら、早十数分。
ちょっとだけ慣れてきた。
《隠密スキルを取得しました》
「……ま、これだけ隠れてたらな」
この状況、当然想定外ではあるが。
何らかのスキルは獲得出来ると思ってた。
それにしても遅すぎる! もっと早くくれたら良かったのに。
もう大分撒いてしまった、検証出来ない。
アレからひたすら逃げては落ちてを繰り返し……振り返れば追っ手は消えていた。
こういう時、『罠設置』のMP消費無しは凄く助かる。
やっぱり落とし穴って最高。
「何とかなったか……」
《時間経過により、PKペナルティ第二段階に下降しました》
どうやら15分、何もしなければこのペナルティ状態は下がっていくらしい。
メモメモ。
……ああ、余裕持ち出したら一気に退屈になってきた。
俺このまま、また数十分うつ伏せ状態か――掲示板でも見ておこう。
実はログイン後立てておいたのだ。
□
【罠士】罠士①【FL】
1:名前:名無しさん
罠士について情報交換しよう
□
終わり(無慈悲)。
これはココからの新情報は期待しない方が良いな。
ひっさしぶりにスレ立てしたらこれだよ。もう見ない!
「仕方ないか」
予想してたことだ。
まだサービス開始二日目。
自分だけで色々やっていくしかない。
「――ッ!?」
そう憂鬱になりかけた瞬間。
俺は、背中を踏まれていた。
一気に血が引いていく。
コレ、ヤバいんじゃないか?
「やだ、人だ……」
「……」
高い子供の声。
か弱い少女をイメージさせるモノ。
とりあえずそのまま無言で寝ておく。
無害アピールだ。
この名前表示な以上、悲鳴でも上げられたらマズい。
「……」
「……」
驚く程気まずいが、言葉を発する訳にもいかない。
頼む。
この際、もう変態と思っても良いからさっさと何も言わず逃げてくれ!
「こ、こわぁい……」
「……」
小鳥の様な声で呟く彼女。
なにか、凄くあざとさを感じる。
「悲鳴上げちゃうかも……」
「は?」
いやおかしいだろ。
普通、悲鳴を上げる様な奴がわざわざそんな丁寧に――
《リンカ LEVEL10 弓士》
「ッ!?」
「おッ、やっと気付いたぜ! ハハハ傑作だなその顔!」
うつ伏せから反転、ソイツの顔を見れば。
真っ先に目に入った。
俺よりも特濃のそのレッドネームが。
……小さい身体、金髪のロングヘア―に可憐な顔付き。
オシャレなのか着崩されたレザーアーマーに。
その全てが
「よォ同士。暇だろ?」
「はい?」
「リンカちゃん暇なの。PKペナ消えるまで狩りでもしようぜ。お前もフレンドとか居ないんだろ? どうせ」
「ちょっと待ってくれ。頭が追いつかない」
さっきまでの口調どこ行った?
後その矢先、完全に俺に向いてるよな。
断れば殺る気だろ。
「俺はソロ派なんだが――ぐッ!?」
「お願いします~」
もうその口調に戻っても意味ねぇよ気色悪い! つーか踏むな。
俺はそれをご褒美として受け取れない人間なんだ。
「いや、俺逃走中だし――」
「ッ」
「って……ああ分かった分かった、付き合うよ」
「……うん」
断り続けていたが、ふとリンカの顔を見れば泣きそうな表情だった。
それはまるで、迷子になった子供の様な。
……コレが演技だとしたらコイツは悪魔だ。仕方ないからのってやる。
ああクソ、でもコイツ腹立つから以降『クソガキ』って呼ぶぞ。心の中で。
口にしたら殺されるし。
「――あ? 今失礼な事思わなかったか?」
「はははまさか! 罠士だけど良いの?」
「『誰でも』良い、邪魔しないなら」
「そっか。んじゃこっちも願ったり叶ったりだ、よろしく」
「……つまんね。ちょっとはショック受けろよ。こんな美少女なのに!」
ギザギザの前歯を見せつけながら笑う彼女。
確かに何も知らない人間がコイツを見れば、きっと『可愛い』とか言うだろうが。
「残念ながら、俺は正気なんだ」
「ソイツは残念だなァ!」
「そうかな」
需要ゼロの情報を一つ。
俺のタイプは大人しい髪色の、身長が高くて包容力のある年上のお姉さんだ。
何一つ被ってないリンカには、マジで子供だなぁとしか思えない。
「んじゃ! 狩ろうぜ!」
「ああ」
うっきうきでモンスターを指さす彼女。
良かった、プレイヤー狩るとか言い出したらダッシュで逃げていた。
「はやく!」
待ちきれないと歩き出す彼女。
……何というか。
まるで、リンカは少年だった。
さっきの泣きそうな表情といい、今の笑う彼女といい。
そして――それとは裏腹に。
遠くから眺めるプレイヤー達が、本気で恐れる様子が見て取れて。
「撒いたと思ったら、コイツが俺の方に来てたから追っ手が消えたのか……」
知らぬ間に、どうやら俺は助けられていたらしい。
一体彼女は何者だ?
「感謝するよ。リンカ」
「は……ハァ? 早く狩りするぞオイ!」
「おう」
一瞬固まった後、走る彼女を俺も走って追いかける。
色々とやる事はあるが、それは後だ。
□
【DEF《防御力》】
ステータスを振ったり、スキルや防具を装備することで上昇。
物理ダメージを軽減する。
【MDEF《魔法防御力》】
ステータスを振ったり、スキルや防具を装備することで上昇。
魔法ダメージを軽減する。
【防具】
着ると防御力、魔法防御力が上昇する防具。
職業毎に装備出来る防具が大きく分けて3つある。
アーマー:鎧。戦士や盾士など近接職が主に着用。生産職も鍛冶士などは着る。
見た目は重そうだが以外と動ける。
レザーアーマー:革鎧。弓士や冒険者、罠士や薬士など、主に特殊職や生産職が着る。見た目は普通の革の服という感じでアーマーよりも動きやすい。
ローブ:軽い布を羽織ったような防具。魔法士や神官、軽戦士が着る。
見た目通り軽い。上記二つよりも動きやすい。
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