盟友
アレから『狩り』をすること数十分。
勿論、人じゃなくモンスター。
《スライム LEVEL5》
「『ストレート』」
「『コンセントショット』!」
『ギイ゙』
《経験値を取得しました》
俺のパンチとリンカの近距離射撃が同時命中。
重い悲鳴と共に消えていくスライム。
「すげー声したぞ今」
「あははははッ! あははははは!」
「笑い過ぎだろ……(ドン引き)」
素手戦闘スキルの武技、ストレートは結構クセが強かった。
腕を振りかぶってそれを発動すると、身体が勝手にパンチの動きを始めるからな。
コツとしてはそのアシストと一緒に自分も腕を動かす事。
そうすれば違和感もない。
逆に抵抗しようとすれば壊れかけのロボットみたいなパンチが出る。
へなちょこパンチ。しっくり来る。
当然そうすると威力もスピードも落ちるから、ここ辺りも検証したい。時間が足りない!
で、リンカの動きは、弓使いとは思えない程アクロバティックで惚れ惚れするものだった。的確に急所を打ち抜き、敵が怯めばすかさず接近してゼロ距離射撃……ダメージソースの九割は彼女である。
パーティ組むのも良いものだな。
彼女がどう思ってるのか知らないけど!
《スライム LEVEL6》
「『パワーショット』!」
「『高速罠設置』」
《毒罠を設置しました》
《毒罠が発動しました》
《スライム LEVEL6 状態異常:毒》
本来は三秒掛かるが、そのスキルにより一秒で完成。
地面にそれを発動すると同時に引っかかるスライム。
紫色の霧がスライムを包み込めば、その状態異常が表示された。
「おお」
「おおじゃねェよ! 働け!」
状態異常:毒。
3秒ほどの時間をかけ、合計10%の継続ダメージを与える。硬い敵には良いかも。
スライムもビットも全員同じダメージだったから固定で10%なんだろう。
「そう言ったってな、『ストレート』」
「マジで火力ねえなァお前! ――『コンタクトショット』」
『ピギィ!?』
《経験値を取得しました》
《レベルが上がりました!》
「おっレベル上がったぞ、早いな」
「……パラサイト」
「誘ったのはお前だ」
「……」
「冗談だって、不快なら解散するけど」
「べっ、別に良い……」
ジト目で見てくるリンカと話しながら、ステータスに目をやる。
□
《罪ポイント【21】》
□
「そういや、この罪ポイントって何?」
「……『悪行』、PKペナルティ負ったような行動をすると増えるんだよ」
「それはなんとなく知ってる」
「で……それが増えると、だんだんNPCの好感度が落ちていく。それとフレンド、パーティメンバーのリストから見れたりもする、後は未だ『減らす方法が分からない』……今分かってるのはそれだけだ」
テンションが落ちたのか、低い声でリンカはそう言った。
……つまり、何のメリットも無いポイントって事ね。
憶測だが、彼女は多くのプレイヤーを葬ってきたのだろう。その特濃レッドネームだ。罪ポイントもかなり多いはず。
でも、全くそれを自慢しないって事は『何か』があったんだろうな。
誇らしげにする奴なら根っからのPKプレイヤーなんだけど。
「フレンド少なそうだなリンカ」
「……居ない」
「え」
「居る訳ねーだろ、リンカちゃんは孤高のトッププレイヤーなんだよ」
「孤高のトッププレイヤー(笑)」
「おい!!」
復唱しただけなのに怒られた。
世の中――いや、VR世界も理不尽である。
だって、フレンドになった瞬間『あっコイツヤバい奴だ、切ろ』ってフレンド消去される未来が見えるもの。なに考えてんだ運営。
ま、悪行した俺達が一番悪いんだけど。
ちなみに反省も後悔もしておりません。
《PKペナルティが解除されました》
「あ……」
「お、白ネームになったのか俺」
ちょっと空気が静かになった所で、俺の名前が真っ白になる。
これで無罪放免! どっちかと言えば時効切れか。
「なあ、ちょっと検証して良い?」
「はぁ?」
「良いから」
これは今しか出来ない検証だ。
ちょっと気になってたんだよな。
後は……まあ、『一抹の望み』を賭けて。
《リンカ様にフレンド申請を行いました》
「へ?」
「PKペナルティの奴にコレが出来るのか――そういう検証だ、どう?」
「ッ……届いてる」
「そうか、検証成功だな。コレで襲われた時にフレ申請送って精神攻撃を仕掛けられる」
「何だよそれ!」
「ははは」
今後、罠士である俺は良からぬ輩に襲われる気がしたからな。
襲った相手からソレが来たらきっと一秒ぐらいは思考が鈍るはずだ。
「……」
「ああ、別に申請却下しといて良いぞ」
「ぅ……やだ」
「え」
《リンカがフレンドリストに登録されました》
「へえ、孤高の戦士じゃなかったんだ」
「べッ……別に良いだろ! 減るもんじゃねぇし!」
「それもそうだな……『メニュー』」
初めてのフレンドが、赤ネームの彼女になるとは思わなかったが。
さっきの『一抹の望み』ってのは、リンカとフレンドになる事だ。
……ちょっと上手く行きすぎて怖いな。
□
《リンカ 弓士 LEVEL10》
状態:オンライン
始まりの街・戦闘フィールドで戦闘中
○フレンド詳細
○チャンネル移動
○パーティー招待
□
メニューからそれを眺める。
どうやらフレンドになると色々出来る事があるらしい。
「おー、すげー」
「おっお前みたいな寄生野郎、フレンドになる奴いねぇだろ! もっと感謝しろよ!」
「うんうん」
「このゲームで最強になる女だからな! リンカちゃんは!」
「光栄だなぁ」
やっぱりリンカは子供っぽい。
ただ……狩りを一緒にしていて思った。
俺にとって、きっと彼女の存在は大きいものになる。
欲を出そう。
コイツを、ただのフレンドにしておきたくない。
「なあリンカ。せっかくだし同盟組もうか」
「は? 同盟?」
「もし何かあれば頼れる奴が居るだろ、お前にも俺にも」
「り、リンカちゃんは最強だから――」
「このゲームはMMOだ。いくらお前が『最強』だったとしても、システムには敵わない」
「う……」
「そこで俺達は同盟を組む。どうだ?」
「……でも。お前弱いじゃん」
「ああ。でも『居るだけ』の奴が必要な時もある、そうだろ?」
論す様にじゃなく、優しく声を掛けた。
俺が弱い事は百も承知だ。彼女のような見惚れる動きなんて出来ない。
でも、例えばパーティ専用のクエスト、ダンジョン、ボスモンスター……考えられるだけでソロプレイの障害なんて大量にある。
「俺にはお前が必要だ」
「――!」
「頼む」
だから、俺は頭を下げた。
普通はしない。でもこれは――自分の為になるから。
彼女の『才能』はデカい。
居る事を気付かせない隠密能力、アクロバティックに敵を狩る身体能力、そして遠距離から的確に急所を打ち抜く器用さも。
並べてみるとハイスペック極まり無い。
悔しいが、俺もコイツみたいに動ければ……と思うほどに彼女の動きは見惚れるモノ。
もはや手本に近い。一緒に居れば教えも乞える。
つまり、このまま別れるのは嫌だった。
彼女以上の存在が現れるのは、中々無いだろうから。
「じゃあ――もっと。もっと」
「はい?」
「……ッ。もっと、褒めて」
小さい声で、顔を赤くするリンカ。
これ多分言わなきゃ駄目だよな。
頭下げるだけじゃ足りないと。
やっぱりクソガキだ。言いたくないけど仕方ない、同盟の為。自分の為!
どうせだし滅茶苦茶盛ってやろう。
「この『FL』で、お前は俺が見てきた中で一番強い」
「……ほんと?」
「ああ。ついでに一番カッコいい。一番仲間に欲しい。リンカ最高リンカ最高」
「ッ~~! ……分かった! そこまで言うならしょうがねーなァ!」
嘘は言ってない。
紅潮した頬に手を当てながら、リンカは嬉しそうに身体をくねらせる。
どうやら随分と承認欲求に飢えていたらしい。俺が死んだ表情で言っていたのに気付いていないぐらいには。これだから最近の子供はSNSに毒されちゃって。いいね押してやろうか。2回。4回でも良いぞ。
「じゃあ、じゃあさ! 同盟の名前とかどうするよ! なあ!」
「……お好きにどうぞ」
「血の盟約とか! 処刑者の集いとか、闇の暗黒集団!」
「ごめんなさい止めて下さい」
やっぱ厨二センスだコイツ。つーか処刑される立場なの俺達だろ。
そもそも名前とか居る? とか言ったら殺されるから止めておこう。
「……罪人同盟とか」
「だっさ」
「……」
俺が超絶辺り触り無いワード(天才)を出すとこれ。
殴ってやろうかな。ストレートで。
……仕方ない、もうちょっと中二っぽいワードを。
「罪……
「うーんもうちょっとリンカちゃん要素が欲しいぜ」
「……一応、災いに咎って書いて『
「! 良いじゃん『災咎同盟』! かっけー! 意味分かんないけどそこが良い!」
釣れた。
単純で助かるね。
お互い明日には名前忘れそうだ。
「それじゃ改めてよろしく、リンカ」
「ああ!」
でもきっと、この関係は忘れない。
お互い笑い合い声を掛け合う。
サービス初日。
俺は、頼りがいのある仲間をフレンドリストに追加したのだった。
「……で、なあリンカ。ちょっと検証して良い?」
「あ? 何をだよ」
「落とし穴の検証」
「……別に良いけど」
調子に乗っている内に、俺は俺がしたい事をやらせてもらおう。
10分だけ! ちょっとだけだから!
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