第6話 民主主義的生贄選別
「あたしさー、このクラスで一番いらない人を『不人気者』に選べばいいと思いまーす」
そう言ったのは朝水だった。
偉そうに足を組む女王様は、律儀に手を挙げそう発言した。
対して、
「朝水さん、『いらない人』とはなんですか? 人間みんな得手不得手があり、必ず何か人の役に———
「あー、そういう一〇〇点満点の模範回答はいらねんだわ。確かに誰しも何かしらの才能はあるかもしれないけどそれが今、ここで役立たないものなら、少なくとも今はいらない人間でしょ? もし切り捨てるならそーいう人間から切り捨てるのがいんじゃね?」
夜火の反論に対して、朝水がその台詞に無理やり被せる形で反論をねじ伏せる。
確かに彼女の意見は冷酷だが、最も理に適っている。だが、その意見が押し通った場合、僕は危うい。
「ですが、今この状況下でクラスに貢献できないからといって、その人たちが『いらない人間』ではありません。今後の『課題』でその人たちがクラスに役立ち場面が訪れるかもしれませんし、何より今クラスに貢献できなかったとしても、その人たちも大切なクラスメイトです。切り捨てるなんてできません」
「じゃーさ、逆に聞くけど『不人気者』は誰にすんの? ペナルティって、もしかしたら死ぬかもしれないんだよ? 自分から『不人気者』に選ばれたいと名乗り出るやつなんかいないだし。それとも夜火さん、あなたが『不人気者』になる?」
夜火が完全に沈黙した。
いくら夜火といえどペナルティは受けたくないのだろう。それが一般的な感性だ。ここで立候補するやつは病的なお人好しか、極度のマゾ、もしくは自殺志願者だろうな。
夜火を論破して気持ち良くなったのか、朝水の舌はより回転率を上げる。もともと朝水は夜火のことを好きではないらしいしな。きっと正反対な夜火とは水が合わないのだろう。……こんな状況で相手を言い負かして嬉しいとはどうかと思うが。
「夜火さんの反論もなくなったし、ちゃっちゃと『不人気者』を決めよーよ。今必要なのは学力、体力、コミュ力あたりかなー。よし、消去法にしよう。クラスに必要だと思う人の名前を挙げてこ? で、最後に残った人が『不人気者』でいいでしょ。あ、もちろん自分以外の人の名前を挙げよーね」
すっかり話し合いの進行権を朝水が夜火から奪ってしまった。夜火もこの方法に反対できるだけの理由は持ってないし、かと言ってこれ以外で『不人気者』を決める方法も思いつかないのだろう。結果として静観するしかない。
次々にクラスメイトたちは名前をあげていく。中野は出た名前をホワイトボードに書き込んでいった。
最初は夜火や中野、もちろん朝水などのクラス中心人物や頭のいい人、運動ができる人が上がっていく。だが、後半の方からは誰かが誰かの名前をあげて、名前をあげられた人が名前をあげてくれた人の名前をあげる。これでは本来の主旨から外れてしまっている。理由なんてこの際なんでもいいのだろう。『必要な人』として推薦する理由が頭がいいとか体力があるなどから優しいとか気配りができるとかの『課題』とは無関係そうな理由にまで堕ちている。
だが、ここでピンチなのは僕だ。
僕は勉強も運動もできなければクラスでの発言力は皆無で、コミュ力もないから友達もいない。まさにクラスカースト最底辺。そんな僕の名前は誰もあげてくれない。
なら早く他の人の名前を挙げて、その人に相互フォローしてもらわなければ。
だが、誰を挙げる?
僕は友達もいなければ、人と深く関わることもしなかった。今誰かの名前を挙げようとしても、その人を『必要な人』に挙げた理由が思いつかない。
どうする? この際だから適当なそれっぽい理由をでっちあげるか? いや、あまりに的外れな理由を言って誰かに反論されたらどうする? それにそもそもその『誰か』だって僕のことをよく知らないんだろうから、向こうが僕の名前を挙げてくれるとも限らない。じゃあ、どうする? でも今、取れる手段は相互フォローくらいしかない。でも、相互フォローができない。考えろ。考えろ。僕の予想ではペナルティといっても死ねわけではない。理由は二つ。一つに『死ぬ』なら『ペナルティ』なんて回りくどい言い方はしない。二つに殺さない方が面白い。『不人気者』に選ばれた人をあえて殺さず、そのままクラスメイトたちと協力して『課題』にあたらせたほうが断然面白い。自分を見捨て人たちと、それでも仕方なく協力しなければならない。これだけ悪趣味なゲームを仕組むやつだ、それぐらいの『皮肉』は入れるだろう。でもこの二つの理由にしても根拠が弱い。それに死なないとしても死ぬに等しい苦痛を与えたり、身体の一部を破壊するなんてこともありえる。結局どうする? 今はそんなこと考えるんじゃなくて、今この場を切り抜ける方法を————。
「よし、名前が出揃ったね。最後の一人、『不人気者』は
姫神妃君———僕が『不人気者』に選ばれた。
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