第5話 クラス会議
「とりあえず、『人気者』と『不人気者』を決める話し合いをしたいと思うんだけど、どうかしら?」
レイユがホワイトボードからいなくなると、一人の生徒がすっと立ち上がって後、そう発言した。
彼女は、
腰まで伸びる艶のある長い黒髪に、透き通るような白い肌。女子の中では背は高く、陸上部ということもありスタイルはいい。その端正な顔立ちは常に凛々しい表情を浮かべていて、少し近づき難い雰囲気を身に纏う。制服はもちろん校則通りに着こなし、悪い噂は一つも聞かない、まさに絵に描いたような優等生にして、我がクラスの委員長。
「『人気者』——リーダーが決まったらその人に変わるつもりだけど、それまでは私が委員長として話し合いを進行してもいいかしら?」
独りよがりで勝手に決めず、クラスに確認をとる。
だが、クラスメイトは無言である。
まあ、仕方ない。
別に夜火の意見に反対というわけではなく、状況に混乱してどうすればいいかわからないのだろう。だから、押し黙る。だが、
「俺はいいと思うよ。一応俺も男子委員長としてサポートはするつもりだけど、夜火さんが話し合いを仕切るのでいいと思う。……みんな気が滅入っているのはわかるけど、とりあえず今すべきことをしよう。今俺たちがすべききとは『課題』をクリアすることだ。みんなで協力しよう!」
クラスの男子委員長。スポーツ万能で勉強もできるうえにサッカー部ではキャプテンをしている。先生たちからも好かれて、女子にもモテる爽やかなイケメン。なのに、気さくで優しく、気配りもできるので男子からも人気が高い。
彼が賛同すると、場が動く。
「……うん、話し合いをした方がいいと思う。夜火が進行するのにも反論はないよ」
「ああ、『課題』クリアのためにみんなで協力しようぜ」
「とっとと『課題』全クリしようやっ!」
ちらほらと前向きな声があがる。
やっぱりすごいな、中野は。
夜火はそれらの声を受け、教室の前方、ホワイトボードの前に移動した。
「それでは、話し合いを始めたいと思います。……まず最初に確認したいこととして、この『人気者』『不人気者』の決定にはクラスの半数の同意が必要であるという性質からこの二つを決めるには多数決が最も相応しいと私は思っています。どうでしょう?」
そもそもにおいてあらゆる場面において話し合いでの決着はつかない。それぞれ自分の主張・意見を曲げないからだ。ならば、行き着く先は譲歩か多数決だ。だが今回の場合、譲歩もまして妥協も許さないだろう。なにせ掛け値なしに命懸けなのだから。とすればクラスの総意を決めるには多数決しかない。それがどんな残酷な結末を迎えてもだ。
「いいんじゃないかな? それが最もスムーズで、争いが少ないと思う」
中野の声にみんなは無言で頷く。
「よし、なら話し合いを進めようか」
中野が合いの手を入れながら、夜火が進める。なかなかいい連携だな。
それはそうとして、これはまずいな。非常にまずい。頭のいい中野と夜火がこの話し合いの結末が最悪になることを理解していないはずがない。いや、気づきながらもどうしようもないから目を逸らしているのか.
「まずは『人気者』の決定からします。さっきもいいましたが、『人気者』はリーダーに選ばれ、その人は私たちの命綱である『コイン』の管理とこれからの『課題』で重要な役割を担います。だから、慎重に考えてください。……みなさん、『人気者』に相応しいと思う人物をあげてください。その中から多数決で『人気者』を決定します」
話し合いは円滑に進んでいた。
それにしても夜火はさすがだな。こんな状況でも冷静に正確な情報分析と集団統制を行なっている。普通ならパニクって三日を浪費するのがオチだろう。
結局『人気者』は、夜火になった。具体的には中野が夜火を『人気者』に推薦し、クラスメイトたちがそれに賛同した。もちろん他にも推薦された人はいたが、多数決では大抵の人が夜火を支持した。
一方で朝水あたりは『人気者』を進んでやりそうだが、まあよくよく考えればそうか。朝水は確かに目立ちたがりの女王様だが、重い責任と仕事が伴う役割はやりたがらない。この状況での重要な役割ならその責任の重さは桁違いだろう。周りもそのことを理解しているから、誰も彼女を推薦しなかったのか。
「私が『人気者』に選ばれたため、引き続き私が話し合いの進行をしたいと思います」
さて、本番はこれからだ。次の決定がこれからのクラスの団結の行く末を決める。
「続いて、『不人気者』の決定を行いたいと思います」
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