第4話 ウサギに誘われて

 ホワイトと名乗るウサギのぬいぐるみに案内されて、僕たちは教室を出て白い廊下を歩いていた。

 廊下は教室同様、毒々しいまでの白色であった。

 暴力的なまでに白い潔癖な廊下は距離感を狂わせる。

 どれくらいの距離を歩いたのか分からなくなりそうだ。

 そして五分ほど歩いたあたりで、やっと部屋が見えてきた。

 見ると、白い壁にいくつも白い扉がつけられ、そこにはそれぞれ一から三〇までの英数字が黒い文字で刻まれている。

『こちらが皆さまがお使いになる部屋でございます。それぞれご自身の名簿番号の部屋をお使いください。……トイレとシャワールームはこの廊下をさらに進んだところにございます。ちなみにシャワールームのご使用は、六時から七時の間のみでございますのでご注意ください』

 そう説明された僕たちは言われた通り自分の名簿番号の部屋に入る。

 どうやら部屋の中まで真っ白らしい。部屋は狭く、ベッド一つがギリギリ入るくらい。それ以外には本当に何もない。

 僕はベッドに制服のままダイブする。

 ベッドマットが硬い。枕も硬い。タオルケットは薄いのが一枚のみ。別に豪華なホテルのような部屋を期待していたわけではないが、少しショックだ。

 そういえば、スマホの存在を忘れていた。いつもならポケットに入れているはずだが……。

 スマホは制服のポケットに入っていたが、やはり圏外。

 外と連絡は取れないし、ネットにも繋がっていない。使えるのはせいぜいカメラとメモくらいか。

 僕はその機能の大半を失ったモバイルをベッドの上に放り投げる。

 考えなければならないことはいくつかある。

 だが、今日は疲れた。頭を使うのは明日にしよう。正直、脳が情報過多でパンク寸前だ。


————————————————————


 『皆さま、おはようございます。八時までに「教室」に集合ください。レイユ様より、遅れた人がいた場合はクラス全員にペナルティを課すとのことです』

 朝。

 扉の外からホワイトの声が聞こえる。

 首につけられた爆弾入りの首輪の締め付ける感触が、これが夢ではないことを伝える。

 やはり身体が痛い。

 だが、あんなベッドでもよく寝れた。よほど疲れていたのだろう。物理的にではなく、精神的に。

 さて、あまり気乗りしないが行くか。

 僕はほぼ習慣でスマホをポケットに突っ込み部屋を出る。


 例の白い教室に行くと、およそ半分くらいの人たちが暗い顔で席についていた。まあ、こんな状況だし仕方ないから。みなんは、なんとなく昨日と同じ席に座っている。

 そういえば今改めて気づいたことだが、昨日気づいたら座っていた席は、学校での自分の席の場所だった。他の人も覚えている限りだと学校と同じ席に座っていたので、おそらく全員が学校での席順に座らされていたのだろう。

 なんのためだろう……? 

 そんなことする必然性はないはずなのに。

 まあ、考えても仕方のないことだ。とにかく僕も席に座ろう。

 よくよく見れば、昨日血飛沫を浴びていた生徒たちの制服は新品になっている。おそらく、昨日浴びた血を洗い流すためにシャワーを使い、その後に新しい制服を支給されたのだろう。

 そんなことを考えていて、気がつくと教室のホワイトボードの上にある白い時計は、八時の五分前を示していた。教室には全ての生徒が来て、席についていた。

 そして、時計の針は進み、八時になる。

『みんな、おっはよー。元気かにゃー? さてさて、「第一課題ファーストゲーム」も二日目! 明日が締め切りだヨ。生贄とリーダーは決まったかにゃー?』

 ホワイトボードに映し出される白いスーツを派手に着崩し、ピンク色の髪をツインテールにした美女のアバターが現れる。

「は? 『課題』の締め切りは三日だから、明後日じゃないの?」

 思わず生徒の一人がレイユに聞き返す。

 朝水晴香あさみずはるか

 腰まであるさらさらの長い金髪に白い肌。

制服は派手に着崩され、スカートの丈も膝上。若干目つきが悪くヤンキーのようだが、よくよく見ると顔は整っており、バレー部ということもありスタイルはいい。どちらかと言えば可愛いより美人という言葉が似合う、気の強いクラスの女子のリーダー格。

『にゃはははー! 何言ってんの朝水ちゃん。私は昨日の地点で、「課題」達成期限は三日って言ったんだヨ? なら、昨日今日明日で三日でしょ?』

「は? そんなこと聞いてないし」

 不機嫌そうに呟いた朝水の一言にレイユが反応する。

『おっ? 朝水ちゃん、それは口答えかにゃー? もしかして死にたいのかな? それならこっちはいつでも準備できてるゾ』

 その一言で朝水の顔が青ざめる。

 昨日の光景を思い出したのだろう。

 朝水が黙ったことを確認すると、ピンク髪の美女は話を続ける。

『さてと、それじゃ念のため『課題』の説明の補足。「一番人気のある人」……「人気者」と「一番人気のない人」……「不人気者」を決める方法は任せるけど、どちらの決定にもクラスメイトの半数の同意が必要だゾ』

 もっともな話だ。そのルールがなければ、言ったもん勝ちになってしまう。

『これからは「課題」をクリアしてくれれば、あとは自由にしてくれていいヨ。と言ってもいまんとこは、この教室と自室しか使えるスペースはないけどね。……よし、今日の私の出番な終了。あとのことは「ホワイト」に任せるっ! じゃあ、また明日同じ時間に会おうにゃ!!』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る