ブックオフ・コネクテッド・ワールド

 ブックオフ

 本棚に挟まれて暇をつぶしていた

 ふと

 いっしょにいた友人が棚を指さし声をあげた

 銀色夏生さんだ、と

 しかし


 そこには銀色夏生の名が印字されたプレートが

 ささってはいたものの

 銀色夏生の詩集はなかった

 おそらく 売りきれてしまったあと

 書店員が取り除くのを忘れたまま

 そこに残っていたのだろう

 しかし


 おれのこころは棚の前で

 銀色夏生をさがしていた

 見つけようとは思っていない

 おれ自身は銀色夏生に興味がなく

 友人のためにさがす必要も感じなかった

 ただ おれは

 この本棚から だれかの本棚へ旅立った詩集があったことを感じたかった

 そして


 もう意味をなさないプレートが

 建築途中で放置され空へと伸びた階段のように

 無意味でも世界へつながっていることを

 感じたかったのだ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る