第3話 彼の家

 ガチャ


「散らかっているけど」

「大丈夫だよ」

 

 ニッコリする。

 彼の家に行ったのは彼の恋愛遍歴を聞き出すためだ。

「えっ、そんなこと知りたいの?」

「知りたいです」

「えっと、まぁなんというか」

 非常に歯切れの悪い返答をつなぎ合わせるとこうなる。


 今迄に付き合った総合計が5人。

 学生時代に4人、社会人に1人。


「なるほど、なるほど。私が6人目ってことですね」

「……まぁ、そうなるかな」

「社会人時代に付き合った人が華奢でほっておけない子だと」

「……女って怖いんだな」

 恋する乙女は時にこわいものです」

 ニッコリ。

「連れ込む男より怖いかもしれない」


「ひっつどい。そんなに野蛮じゃない」

「この尋問は野蛮ではないのか?」


 フローリングの上に正座で押し問答をしているのだ。


 足を崩そうとすると「正座です!!」とただされる。


「恋人との仲を深めるコミュニケーションです!!」

「コニュニケーションね。そろそろひざ崩していい?」


「だめです!!」


「明日も出勤なんです。寝かせてください」

「しょうがないですね。ちゃーんと買ってきましたよ。栄養ドリンク」

 

 ニッコリ。


「寝かせる気ないのね」

「私は明日休みなので」


「ドエスなの? いや、眠いし」

「仕方ないなぁ。会社で根掘り葉掘り聞かれるから

 口うら合わせておきたかったのですが」


 彼の瞼が閉じそうだ。


「私はタクシー拾って帰るので」

「ん、送ってく」


「だから明日も早いですよね。おじさまは無理しないことです」


「お、おじさまぁ?」

「ちゃんと走れる靴にしてますし、防犯センサーもばっちりですから」


 ペタンコな靴を履いている。ヒールがほとんどない。


 色気もないが、足音もほとんどしない。

 身長はなくなるが、足元が安定していろいろな筋肉が動かせる。


 短所も多いが、安全性を鑑みれば、

 高いヒールの靴は夜中まで活動する職種には不向きだと悟った。


「お構いなく」


 彼に毛布を掛けて、鍵を失敬する。

 鍵をかけて彼の部屋のポストに鍵をイン。


「ん」


 本当に眠そうで、ちゃんと聞いていたかわからないので書置きを残して出てきた。

(ちゃんと鍵を見つけてくれるといいな)

 その日は何事もなく帰宅できた。

 タクシーの料金がちと高くついたのが悔しいポイントであるが、

 安全には変えられないので良しとしよう。

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