第4話 不安な心


 営業職はモテようと思えば幾らでもモテることができる。

 一応、仕事モードでなかれば話すことが嫌な男性は多いみたいだが、彼がそうだという保証はない。


 彼との関係をどうしよう。

 一応、私が片思いで彼に押しかけているという話にいた方がいいだろう。

 それを彼が受け入れてくれたということにしておけばいいのだし。

 休日はぼんやりしてしまう。


 嫌がらせあるのかな?

 ちゃんとこなせるかな?

 不安でいっぱいになる。


 営業職は基本的に男性社会だし、守ってくれるという表現は適切でない。

 自分の身は自分で守るし、実績も自分でたたき出す。

 嫌がらせなんてふえないといいけれど。


 余裕をもって出社したはずだ。

 この資料の多さはどういうことだろう。

「これ、完成させてくれって。今日中だからお前も手伝って」

「……はい」

 確かに今日はずらしても支障はない仕事ではあった。

 こんなに大量に他部署の手伝い要員になることは初めてだ。


「いや、ウチの部署ではないんだが、どこかの部署がミスったらしくて女性中心に応援出してほしいとかよくわからん条件付きでな」


「すまん」


 と笑う上司に言われたら逆らうこともできず、入力作業を手伝っているだけだが。

 社内の共通システムで間違えた場所を訂正していく作業のはず。

 貰っている資料を基に入力したのだが。

「あれ、また?」

 さっき直した部分が変わっている。

 私の資料と内容が違う。

 貰った資料とページ数、該当箇所を比べても

 やはり私の入力部分とは異なる内容がある。

 共通のシステムの表示されている部分とは違う。

 どんどん進んでいく作業。

 全く同じ内容にたどり着けない。

 発注部署に細心の紙ベースはあっているのかと問い合わせても

 あっているのと返事だけ。


(まさか、業務中に嫌がらせなんてそんなことありえないよね)


 10回は該当箇所やページを違えていないかと確認するが、表示は同じ。


(嘘でしょう)

 電話が来た。


「全然進んでませんよね」


「紙の資料が違うみたいで」


「なら部署まで取りに来てくださいよ。使えない人ですね」


 聞き覚えのある女性の声。きっとあの人。


(いやいや。公私混同はよくない)


 部署に行ってみると対応してくれたのはやはり前の前の前のカノジョさん。


「しっかりしてくださいよ。何年目なのよ」


「申し訳ございません」

 ずいと紙を渡される。

「これです」


「やはり紙ベースが」

「早く作業して。今日中なのよ」


「はい」


 渡されたのは今日のものであっていると安心したが、また違う。


 どうやら最新のものではないようだ。

 コールする。


「最新のデータをいただきたいのですが」

「それだって言っているでしょ」

「間違っています。ほかにすることございませんか?」

「ないわ。通常業務に戻って頂戴」

「はい」

 緊急応援も、この日だけではない。


 週に1度のペースで応援に行き、

 データもでたらめという社会人としてあるまじき行為が幕を開けたのだ。






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