第5話

  

「ここが僕たちの担当エリアだ。では、頑張ってくれたまえ」

 私の持ち場は、吸血鬼や狼男やミイラ男に相応しく、西洋風の雰囲気を漂わせていた。

 洋館が描かれた書き割りの前には、長細い六角形のひつぎが置かれている。山本さんが指差していたのは、その黒いひつぎであり、そこに入れと言わんばかりの手つきだった。

「あの、それで私は、いったい何をどうやれば……?」

「普通に吸血鬼として振る舞えば、それで十分だよ」

 ミイラ男の山本さんが、一応は西洋お化けチームのリーダーなのだろう。狼男の田崎さんは相変わらず一言も口をきかないし、仕事の手順は山本さんから教わるしかないのだが……。

 具体的な説明は皆無であり、これでは先が思いやられる。最初に案内してくれた裏方スタッフが「すぐ辞めてしまう子も多い」と言っていたのを改めて思い出し、妙に納得してしまう。

 なるべく顔に出さないようにしたつもりだけれど、いくらか心配そうな表情になったのかもしれない。山本さんは、気遣うような口調で付け加えてくれた。

「ああ、うん。足音や話し声でも、お客さんが来たタイミングはわかるだろうし……。難しいようなら、僕と田崎くんの後追いで構わない。悲鳴が聞こえてからでいいから、二段構えで脅かす形で、バアッとひつぎから出てきてくれるかな?」

   

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