第7章 2人きりの帰り道~SIDE:杏樹

 私は『ミナヅキ・アクション・ヴィレッジ』の片隅で、他の人たちがトレーニングに励んでいる様子を、ぼーっと眺めていた。

 今日は、というか、ここのところずっとスランプ続きで、今日も些細なミスをしてしまって、加藤先生からも注意され、帰るよう言われた。でも帰りたくなくって、こうして何をするわけもなく、座っていた。

 私は外を見る。

 大通りを行き交う人波が見えた。でも見たい人の姿はそこにはいない。


 私は背の高い鉄棒を仰ぐ。

 先輩が、私のフォームを褒めてくれたことを思い出す。

 あの時はまだ、私は先輩のことをめちゃくちゃ警戒して、不審者認定して、椅子を振り上げたんだっけ。

 そのことを――先輩のことを思い出すと、知らず、頬が緩んだ。


 このままでいいわけない。このまま疎遠になるなんて、嫌だ。


 鉄棒はここのところ、やってなかった。

 学校でも桜の木に飛び移ることもなくなっていた。

 先輩を待って、待ちくたびれて、とてもそういう気分にならなかったから。


 だから、もし鉄棒をうまく決められたら、先輩にメッセージを送ろう。

 どんなささやかなことでも構わないから送る。

 このままモヤモヤした気持ちを抱えたままなんて、耐えられない。


「よしっ」


 私は立ち上がると係員の人に、鉄棒に捕まらせてもらえるよう補助をお願いする。


 久しぶりの視点の高さに、ちょっとドキッとした。

 こんなに高かったっけ?

 ひるみそうになる気持ちに喝を入れ、私は全身を大きく振り子のように動かした。


 うまくいったら、先輩にメッセージを送る――。

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