SIDE:杏樹

 先輩、今日はどうしたんだろ。元気がなかったみたいだけど。

 バイト先で嫌なことでもあったのかな。

 学校では普通だった、と思う。自然に話せたし。


 私はスマホのメッセージアプリを立ち上げた。


 ――今日、元気がありませんでしたけど……大丈夫ですか?


 そこまで打ち込んで、すぐに消す。

 ただの後輩としては、ちょっと立ち入りすぎかも、と思ったのだ。

 そう、ただの後輩。

 確かに先輩とはたくさん話したけど、ただの先輩後輩……。


「私と先輩は、ただの先輩と後輩……」


 声に出すと、胸の奥が締め付けられるみたいに苦しくなった。


「っ」


 元はと言えば、私たちはただの偶然で知り合っただけの関係。

 先輩が興味を持ったのは、私じゃなくって、私のおかしい行動のほうだったんだから。

 それだけ、なんだから。


 でも、今はそんなんじゃ、嫌だって思ってる……。


 私、先輩のこと――。

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