第20話 遠ざかる危険な季節
そんな訳で頼まれたが此の秘策は先ず相手の峰山さんを知らないと立てられない。だから峰山さんってどんな人か教えてと倉島は伺いを立てている。
「その前に先ずはそれであなたはその時は何処に居たのかしら」
彼女にすれば苦痛で交渉する三島を置いて何をしていたか気になる。
「この時は仙崎さんの周回マラソンに付き合わされた。全くあの人は勝手な人ですよ天気が良くなるとサッサと僕の前に愛想良く現れるんですから」
三島さん
「だから景山さんは峰山さんに会いたがってるんだよでもお兄さんのカルテの閲覧であの藪医者に仲介を頼むにしても無条件でハイどうぞって紹介すれば難癖をつけられる」
だから上手く機嫌を損ねないように景山さんの地位を利用して松木にお兄さんのカルテの閲覧を迫る。それまで師弟の体面は何とか引き延ばしたい、と言うのが三島さんの策略だった。
「それで篠田さんは峰山さんに景山さんの居る場所を教えたの」
「いや、今はそれどころではないから聞く余裕すらなかったみたい」
それは良かったならそのまま聞かれても今度は逆に景山さんの都合が悪いとか言って引き延ばすようにしたい。だがそれには彼女は、ばれると余計に面倒になるから遣りたくないようだ。と言うより兄の失踪前の心理状態をすんなりと知りたいのだ。我々の計画も全てそこに掛かっている。景山さんと峰山さんが機嫌を損ねてへそを曲げられるとこの計画は頓挫する。しかし本を正せばあの藪医者がすんなりと公開してくれれば誰の助けも要らずに済むものを。それでこんな遠回しな苦労をさせられてしまっている。
「問題は景山さんは峰山さんに会いたがってるから問題はないがそれは三島さんの盲腸事件で一時中断しているがその内におそらく今日辺り後事を託した僕に景山さんからお呼びが掛かると思う、そこで峰山さんの所在を教えるのと引き換えに景山さんにはあの施設の代理職を肩に掛けて藪医者にお兄さんの治療カルテの閲覧させる確約を取ってもらいたいが、それが出来なければ
「上手く行くの? それって」
「顔は何度か見掛けて朝夕に挨拶する程度ですけれどそこは三島さんの
「じゃあこちらから逆質問で景山さんってどんな人?」
彼女は不安に駆られて訊ねた。
「まあ有名ホテルで接客業を磨き上げた人ですから表向きは愛想が良くて話し方や気の使い方は
「この前から藪医者だと言ってるのにそんなに博学なお医者さん何ですか?」
「博学? まあ研究熱心ならそうなるか。どうもそこが自己満足に徹しているようだ。今まであの医者に二回問診を受けていますがどうも気に入らん」
「どっちが」
ウッ、と倉島は奇妙な顔をして窺った。何か付いてるのと彼女が見返してきた。
「そりゃあ向こうに決まってるでしょう」
「そんなに気に障る人なんですかその神経科のお医者さんって言うのは」
「だからお兄さんの診察記録を参考資料として見せてくれないから苦労してるんだよ」
今朝も松木の問診を受けて、それとなく私と似た症状の人を知った。ですがその人の治療について聞いて見たが「君は君で似かよっていても根本的に全く同じ心理状態の人は居ない」と突っぱねられてしまった。少しはこっちの言うことに耳を傾ける気はさらさら無いようだ。これで心理学の著名な本が出せるとは到底思えなかった。
「霞ヶ関のお役人どもは此の施設の意義には眼中にないんだ。此処で直接診察にあたる医師によって治したい者と向き合って初めて成り立つもので患者さんの心理状況をただ記録して研究材料にする先生の遣り方は間違っている。医師のモラルに反するそれで深泥池に消えていった人々に安らぎはない。だから化けて出て来ても
「そんな怪談じみた話を誰が信じるの」
「現に私は引きずり込まれた。怪しい人影に」
「でもそれは三島さんの話では急激な周囲の変化による幻覚症状だと言っていたでしょう」
「あなたはあの藪医者と同じ事を言うんですか」
「それは三島さんが言ったんですよ」
「彼も僕と同じ患者扱いなんですよ今はあの藪医者に操られている患者に過ぎないんですよ」
だから哀れな者だと言いかけて、仁和子の吹き出しそうな顔を見て同情心を煽っているようで喋るのが馬鹿馬鹿しくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます