第27話 それから
喋るゴブリンの依頼を済ませた俺達は、そこから半年ほど順調に冒険者の仕事をこなしていった。
討伐の依頼だけではなく、断崖絶壁へ薬草を採集しに行ったり、行商人や鉱夫達の護衛とそれは様々な仕事を受けたものだ。
俺達のパーティーもそれなりに認められ始め、受付嬢のエベリナからもそろそろパンサーへ昇格出来るかもしれないと言われるようにまで成長できた。
「うぅん……レイさんの言う銃……発想は面白いとは思うんですけどぉ……」
テーブルに2枚の紙を広げてうんうんと唸るユーリを俺は眺めていた。
1枚の紙には俺が描いた銃の設計図――のつもりのもの、もう1枚はユーリがそれを見て彼女なりに清書した綺麗な設計図が描かれている。
俺が下手すぎるだけなのだろうが、ユーリの描いたものは非常に綺麗なものだった。
「うぅ……私がもっと……知識があればぁ……」
「いや、十分凄いよ。俺もこんな事言っちゃなんだけど……よく分かってなかったしさ」
俺の中にある記憶ではダダダーっと連射したりも出来たはずだが、どうすればそういった機構になるのかはサッパリだ。
今ユーリの協力があって、どうにか機構までそれらしく描けたのは手動で動作させる方式の長銃だけだ。
「こっちもいけそうな気はするんですけれどもぉ……」
拳銃の方は筒状の弾倉が回転するもの、箱型の弾倉を使うもの、どちらも形はそれらしいものが出来たのだが、上手く動作させられるような機構は思いつかなかった。
「弾も問題だよなあ……」
銃とは違い、底面の中心を針のようなもので突くと爆発して弾頭が飛ぶ。といったメカニズムだったように思える――とまだマシな記憶があるのだが、ではそれを作れるほどのものなのかと言えば決してそうではなく、耐久性であったり炸薬となる部分はどうするのか等、技術的な面で問題が山積みだ。
「考えてみるのは面白いんですけれどもぉ……へへ」
にへっと笑いながらユーリは図面を眺める。
「ピレーネに着いたら……職人さんとお話ししてみたいですぅ」
「ある程度仕事もちゃんとしながら、だな」
彼女は初めてパーティーを組んだ時と比べると三人の中で一番変化があった人物と言えるだろう。
今も魔法使いではあるが、今の彼女はどちらかと言えば弓手としての色が強い。相変わらずオドオドしているが、前に比べて強気というか、自分の意見を言う事が増えたのは確かだ。
「おーい、レイ、おるかー?」
「ん、アルヤか。開いてるぞ」
アルヤは一枚の紙を手に部屋へと入ってきた。
「パンサークラスの昇格をかけた依頼っての、預かってきたで」
「へえ、内容は?」
アルヤが机の上に紙を置き、三人でそれを覗き込む。
内容はピレーネまでの要人護衛。注意事項として最近スライワイバーンが道路付近に巣を作ったらしく、高確率でそれと遭遇し戦闘になる可能性が高い。との事だ。
「護衛対象はプリムローズ鉱業の重役のモーガンっつーおっさんやな」
「プリムローズ……名前は聞いたことありますぅ」
鉱業という名の通り、鉱石の採掘や加工を中心とする産業だ。
俺達のような初級~中級程度の冒険者にはあまり馴染みのないものだが、装備をオーダーメイドするようになる上級冒険者は世話になる事が多いと言う。
「どうやらそのまま向こうに移るんならその手配もしてくれるみたいやで」
「事情を知ってるとは言っても……えらく好待遇だね」
「何でもピレーネが今冒険者不足らしくてな、ほんで丁度ええしって面が強いみたいやな」
冒険者ギルドも大変なのだろう。
自由気ままな者が多い冒険者達を束ねる。と考えると、それらに上手く仕事を配分するギルドの仕事というのはあまり考えたくないものだ。
「途中の飯代とか宿とかはウチらは気にせんでええみたいやで。ま、言うて食い放題ってワケやないみたいやけどな」
「出発はいつの予定?」
「丁度一週間後みたいやで、ウチらとは別にもう一つ冒険者パーティーを雇うみたいや」
「共同依頼ですか……緊張しますぅ……」
「まあ問題あらへんやろ、流石にウチらだけで一週間寝ずに護衛ってのは無理があるしな」
長期の護衛任務は複数の冒険者パーティーで交代しながら回すのが基本だ。
基本的に片方のパーティーが護衛している間に、片方のパーティーが睡眠や食事といった休憩をする。時として片方のパーティーだけでは対処できない問題が起きた時に協力するという事もあるが、そういった事になるのは少ない。
「俺は丁度いい機会だし、受けていいと思うけど」
「ユーリはどないする? 強制ってわけでもないし、アレやったら他の依頼に変えてもらうで」
「い、いえ! それで大丈夫ですぅ!」
「ほな決まりやな。手続きやっとくわー!」
部屋を後にするアルヤを見送り、ユーリは彼女が清書した設計図を手に取る。
「レイさん、また出発までに色々考えましょぉ」
そう言う彼女は嬉しそうに笑みを浮かべていた。
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