第28話 出発

 まだ朝日が完全に地平線から顔を出していない頃、俺達は護衛任務の為に門の外に来ていた。

 まだ依頼人は到着していないようで、冒険者らしき4人組が何やら談笑をしている。

 俺達の姿に気が付いたようで、1人の男性が話を切り上げてこちらへと向かって来た。


「どうも、今回組まさせてもらうウィザーズのアクセルだ」

「あ、レイです。よろしくお願いします」


 アクセルの歳は見たところ20代後半と言った所だろうか。

 彼らのパーティーは全員が優れた魔法使いであり、遠近中全ての間合い、すばしっこい相手から頑強な相手、相性の悪い相手がいないと言われるパンサークラスの冒険者パーティーだ。


「基本的に野営のある日は俺達が夜を担当して、レイさん達には日中をお願いしたいと思うんだけどいいか?」

「ええ、問題ありませんが……交代でいいですよ?」

「あー、ウチには何だ、夜型ってのか? まぁ午前中は使いもんにならないのがいてな……」


 アクセルが軽く視線を飛ばした先には、他のパーティーメンバーに寄り掛かって今にも眠りそうな女性の姿があった。

 ちなみにアルヤとユーリは「打ち合わせとかはレイに任せんで!」と言って離れて行った。どうやら今はそれぞれ武器の点検をしているようだ。


「あー……」

「非常に情けない話なんだが……そういうわけでな、緊急時にはちゃんと助太刀するのは約束する」


 アクセルの浮かべる表情から察するに、色々と諦めたのだろう。

 何故かそれにどこか懐かしさを感じつつ、彼の提案を了承した。


 野営の無い日は基本的に1日ずつ交代で護衛をし、スライワイバーンが出た時には協力して撃退、護衛をするという形に落ち着いた。


「レイさんは14なんだっけ? 若いよなあ」

「アクセルさんも若いでしょう。冒険者には何歳でなったんですか?」

「俺は17で合格だったなあ、あの頃は今よりも魔法も筋力も無かったっけな」


 お互いのパーティーメンバーについての紹介など、必要そうな話を済ませてそんな他愛のない会話をしていると、やや大きめの馬車が俺達のそばに止まった。


「皆さんお早いですね。今回はよろしくお願いします」


 馬車の中から降りてきたのは、まさに要人といった男――というよりは、失礼ではあるがその辺にいるようなオッサンといった見た目の男だった。


「よろしくお願いします。自分はウィザーズのアクセル。こちらはもう一つのパーティーのレイさんです」

「今回護衛を依頼したプリムローズのモーガンです。以後お見知りおきを」

「今回の護衛ですが――」


 アクセルを中心に護衛の時間であったり、旅程、緊急時の対応といったマニュアル的な話が広げられていく。

 仕事らしい仕事ではない。と冒険者は言われることが多いが、こういった一面は仕事らしい仕事と言えるだろう。

 とは言っても、今回のようなある程度地位のある依頼者でもない限りは、横柄であったり色々な意味で協力的であったりと様々ではあるが。


「では予定通り8時半に出発という事で」


 特にこれと言って特筆するような話もなく、打ち合わせが終了する。


「お、終わったんか?」

「あぁ、大まかな予定としては――」


 アルヤ達に予定を伝えると、アルヤは少し退屈そうに言った。


「んまー……予想はしとったけど、スライワイバーンが出やんかったらやりがい無さそうやなあ」

「それが一番なんだけどね、俺達も依頼者も」

「んまーなー」


 出発前にそれぞれのパーティー同士で挨拶を済ませると、ウィザーズのメンバーは依頼人と一緒に馬車の中へと入って行った。


 日も昇り、快晴の中馬車はピレーネへと向けて動き出した。

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