第20話 帰路

「どうにか終わったで! ウチらの勝ちや!」

「魔力もまだ余裕がありますからぁ……安心してくださぁい」


 胸を張ってそう言い放つアルヤを、俺は地面に座り込んだまま見ていた。

 どうやら他に強いアリはいなかったようで、ユーリとアルヤの手で残りのアリは全て駆除してきたようだ。


「いやあ……悪いな、最後ずっと休んでて」

「気にせんでええよ。節約出来そうなとこは節約しといた方がええからな!」


 疲労回復の為にマジックポーションを飲む事も考えたが、このポーションは少々値が張るという点がある。

 その為、強敵が出ない限りは温存し、俺が担当していた役割にユーリが入る形で続行する事となったのだ。


「それじゃあ……報告しに行こうか」

「背負ってったろか? キツいやろ?」

「いや……大丈夫だよ。アルヤさん」


 正直歩かないで済むのであればそうしたい所ではあるが、流石に彼女におんぶされて村に戻れるほどプライドが無いわけではない。

 倒れ込んでそのまま眠りたい体に鞭を打ち、どうにか村まで辿り着いた。


「ダメだ……悪い……報告は任せる」

「おー、お疲れさん! マジ助かったで!」


 部屋へと入り、ベッドに身を投げたところで俺の意識は飛んだ。


 次に俺の意識が覚醒したのは、翌日の昼間だった。

 体を起こし、まず目に入ったのは机で暇そうにしているアルヤの姿だった。


「おはよう。アルヤさん」

「おー、起きたか。案外早かったな」

「もう昼か……急いでシャワーでも浴びてくるよ」

「ゆっくりでええで、もう報告とかは済んどるから帰るだけやで!」


 満面の笑みを浮かべながら彼女は親指立てて右手を勢いよく突き出した。


 シャワーを借り、村長たちの厚意で食事をした俺達はギルドへと引き返す事となった。


「報酬は結構弾んでくれるみたいやで!」

「お、それは期待できそうだ」

「あうぅ……幾らなんでしょうかぁ」


 報酬の話に期待を膨らませる俺達。


「そういや何か忘れとるような気がするんやけど……」

「ぐえっへっへっへ……いい女連れてるじゃねえかぁ……」

「そういや盗賊が出るんだったか」


 俺達の前に姿を見せたのは薄汚れた防具を身に着けた男達だった。

 数はこちらと同じく3人。全員あまり手入れされていない剣を得物にしているらしく、気持ち悪い笑みを浮かべながらアルヤとユーリへと舐めるような視線を送っている。


「あわわ……どうしましょうぅ……」

「兄ちゃん、金目のものとその女2人置いていくなら見逃してやンボヘァ!」


 次の瞬間、何かベラベラと話していた男の後頭部へとアルヤの回し蹴りが叩き込まれた。

 男は妙な声を出しながら勢いよく顔面から地面に叩きつけられると、ピクピクと痙攣し、起き上がれそうにはないように見えた。


「あんなあ、ナンパするんやったらもう少し身なりに気ぃ配ったらどうや?」

「テメェ! やりやがっ――」

「とりあえず気絶させて……持ってくかあ」


 アルヤへと剣を振りかぶった男のみぞおちへと盾のフチを殴りつける。

 思わず膝をついたところに次は盾の面の部分を裏拳のような形で顔面へと叩きつけた。


 俺がそうしている間に、アルヤは残った最後の1人へと組みつき、絞め落としていた。


「コイツら懸賞金とかかかっとるんやろか」

「さあ……まあ多少は報酬は出るんじゃない?」


 男達を縄で簀巻きにし、街まで運ぶこととなった。


「アルヤさん、やっぱ動きが早いよなあ……羨ましい」

「まあ、力も無けりゃ打たれ弱いでな。ウチとしてはレイの強靭さとか羨ましいとこやで」


 そんな他愛のない会話をしつつ、野盗3人を引きずって街へと戻った俺達は、3人を衛兵へと引き渡してギルドへと向かった。

 依頼達成の手続きをし、今回のイレギュラーを報告する。


「お、戻ってきたか!」

「チェイスさん、ただいま戻りました」


 バン、と俺の背中を叩くチェイスの一撃は、その辺の魔物の一撃よりも重いかもしれない。


「依頼、手こずったらしいな」

「ええ、想定より強いアリが出まして」

「ま、どうにかなったんならいいんだけどな! コイツの動きとかどうだった?」


 チェイスはアルヤ達へと問いかけた。


「良かったで! これまでにも何人か組ましてもろたけど、レイが一番やりやすかったわ!」

「私の魔力の事も考えてくれていたので……助かりましたぁ」


 2人からの評価を聞いていると、褒められているのは確かなのだが、少し恥ずかしくなってしまう。


「それじゃ、訓練が終わっても空きがあるようならコイツと固定でも組んでやってくれよ!」

「ちょっと、チェイスさん……」

「何だ、レイは嫌なのか?」

「そうじゃないですけど……」

「ウチは構わんで? むしろこっちから頼もかなー思っとったとこやしな。戦力として頼りになるし、女ばっかのパーティーってのもちとやり辛いとこ無いわけでもないしな」

「むむっ……ムリにはとは言いませんので安心してくださいぃ」

「らしいぜ?」


 彼女達の実力は申し分ないのは確かだ。そんな彼女達からの誘いを断るのはあまり賢い選択ではないだろう。

 しかし、俺には銃を作り出してみたいという願望がある。それを達成するとなると拠点を移したりだとか、報酬無しの仕事をする可能性もある。そんな事に彼女たちを巻き込むのは気が引ける。


「ありがたいんだけど――」

「それくらいウチはええで、なんか面白そうやしな! まぁその事ばっかとかなら考えるけどな」

「私も構いませんよぉ」


 事情を話してみると、彼女達はすんなりと受け入れてくれた。


「流石に銃を作る為に何もかも犠牲に……何てことはしないさ」

「せやなあ……その武器が出来たら試させてぇや、ウチらにも」

「分かった。これからもよろしく、アルヤ」

「おう! 研修終わるの期待して待っとくで!」

「アタシがしっかり仕上げてやるからな。レイ、覚悟しとけよ?」


 そうニヤリと笑みを浮かべるチェイスに、俺の背筋に悪寒が走った。

 そしてチェイスはアルヤ達の方を向いたかと思えば、こう言い放った。


「あ、そうだ。折角だしあんたらも一緒に鍛えてやるぜ!」

「「え?」」


 チェイスの言葉にアルヤとユーリが彫刻のように固まっていた。

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