第21話 研修終了
無駄な肉はそぎ落とし、必要な筋肉を必要なだけ鍛え上げる。
魔力は可能な限り蓄えられるように鍛え、そしてより効率よく使えるように訓練を重ねる。
「とりあえず……こんなもんか」
「まだ満足してないみたいですね……」
「死ぬ……アカンて……」
「あううぅ……」
チェイスによる仕上げはそれはもう過酷なものだった。
特に運動神経が良かったアルヤはチェイスに気に入られたようで、何故か研修を受けているはずの俺よりも熱心に鍛えられていたように感じる。
ユーリに関しては最初はトレーニング中に倒れてしまう事が多かったが、最後にはどうにかメニューを全て安定してこなせるようになっていた。
「とりあえずこれで研修は終了だ。お疲れさん」
「そういえば……結局3ヶ月みっちりでしたね。大丈夫なんですか?」
「あぁ、それについては問題ないぜ」
何だかんだ言っていたが、俺の研修は期間いっぱいまで研修を詰め込むものとなっていた。
どうやら、俺達が受けたジャイアントアントの依頼が大きく評価されたようで、特例としてリザードクラスから活動をしていいという処理を受けたのだそうだ。
その為、あまりゆっくりしていると出遅れが――という問題を気にしなくても良いとチェイスは判断したようだ。
「あー、そういやそんなんあったなぁ。てっきり注意されると思っとったんやけど」
「実際色々意見はあったらしいぜ? ま、でもアルヤ達は新米を連れた状態で無事に依頼を達成しきった点、レイは見習いの身ではあるものの力を示した点が評価されたって感じらしい」
「依頼よりキツかったですぅ……」
「キツかったんは確かやけど……ま、ええ経験になったハズやしな。それにしてもチェイスさん、ウチらほんまにタダでええんか?」
「気にすんなって、もしどうしても何かしらで返したいってんなら3人でそうだな……トロールクラスの冒険者にでもなってくれりゃいいさ」
冒険者ランクは魔物の名前によって階級分けされている。
一番下から順に、ゴブリン、リザード、パンサー、トロール、ワイバーン、ドラゴン。という形に分けられており、大体パンサークラスから一人前として扱われ始める。
「チェイスさんってワイバーンくらすやんな?」
「おう、一応な」
「魔法が使えないのにそこまで行けるなんて……凄いですぅ」
「案外いけるもんだぜ? ま、お前たちには期待してるから頑張ってくれよな!」
チェイスにバンバンと背中を叩かれると、ユーリはどんどん小さく縮こまっていった。
「あ、そうだ。レイ、お前に紹介状を渡せって言われてんだった」
「俺にですか?」
チェイスは俺に封筒を手渡す。
どうやらリムからの書状のようで、ここから馬車で東に一週間ほど離れた場所にあるピレーネという街のドワーフが銃について興味を示してくれたそうだ。
「すぐには行くなよ? ちゃんと路銀と実力をつけてから来いとも書いてあるだろ?」
「ピレーネって結構行くのは危険な場所だったような」
ピレーネという街はピレーネ山脈の中央辺りに存在する街だ。
外交は殆どなく、自給自足の生活をしているのだが、資源が豊富である為に都市と呼べるほど発展しているのが特徴だ。
外交がない理由は主に二つ。
まず一つは山脈に住む魔物であるスライワイバーンだ。崖際の道を通る時に襲ってくる魔物で、上空から一方的に岩を落とすという何とも卑怯な戦い方をするワイバーンだ。
稀に直接戦闘を仕掛けてくる時もあるらしいが、ワイバーンの中では弱いと言われてはいるものの、岩を持ち上げるというだけあって純粋な戦闘力も低いわけではないのが難点だ。
目安として追い払うだけならパンサー、倒すとなればトロールクラス級と言われている。
もう一つは単純なもので街へとアクセスするための道が非常に険しいという点だ。運転手のミスで崖下へと転落し、そのまま命を落としてしまうという事故が少なくない。
「ま、何かしらの対策手段は持っておかないとキツイのは確かだぜ」
「ちなみにチェイスさんは行った事あるんですか? ピレーネ」
「何回かあるぜ、私は落石をぶっ飛ばすか、安物の槍を何本か持って行くってのが対策だな」
「予想は出来とったけど、チェイスさんのやり方は何の参考にもならへんな」
「ま、必ずしも自分たちで何とかする必要は無いんだぜ? それこそ金を稼いで護衛を雇うってのも立派な手だ。ま、安くはないけどな」
どういう形であれ、とりあえず今後目指す場所は決まったと思っていいだろう。
「ま、変に焦りすぎんなよ? 何かあったらまぁ手紙でも出してくれれば――多分見るから」
「はは、俺達なりに頑張ってみますよ」
「それじゃ、研修は終了だ。お疲れさん!」
こうして俺の冒険者としての研修は終わる事となった。
この日の晩、チェイスの計らいで豪華な夕食になったのはいい思い出になるだろう。
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